作品に出てくるものの数え方(助数詞)
 
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枚
作 家
作 品
田中貢太郎
【皿屋敷】
番町(ばんちょう)の青山主膳(あおやましゅぜん)の家の台所では、婢(げじょ)のお菊(きく)が正月二日の昼の祝いの済んだ後の膳具(ぜんぐ)を始末していた。この壮(わか)い美しい婢は、粗相して冷酷な主人夫婦の折檻(せっかん)に逢(あ)わないようにとおずおず働いているのであった。
その時お菊のしまつしているのは主人が秘蔵の南京古渡(なんきんこわたり)の皿であった。その十枚あった。お菊はあらったその一枚一枚大事に拭うて傍(そば)の箱へ入れていた。と、一疋(いっぴき)の大きな猫がどこから来たのかつうつうと入って来て、前の膳の上に乗っけてあった焼肴(やきざかな)の残り肴を咥(くわ)えた。吝嗇(りんしょく)なその家ではそうした残り肴をとられても口ぎたなく罵(ののし)られるので、お菊は驚いて猫を追いのけようとした。
その機(はずみ)に手にしていた皿が落ちて破(わ)れてしまった。お菊ははっと思ったがもうとりかえしがつかなかった。お菊は顔色を真青にして顫(ふる)えていた。
直木三十五
【相馬の仇討】
どうせ二人ともそう気の利いた会話などしっこない。こんな事を話して機(おり)をまつ。九郎右衛門衛の腹では、うまく行ったら金もさらってと――四月六日の夜、闇。袷(あわせ)一枚に刀一本、黒の風呂敷、紋も名も入ってないやつで頬冠り、跣足(はだし)のまま塀を乗越えて忍び込んだ。
岡本綺堂
【半七捕物帳 吉良の脇指】
勿論、主人の上野は首を取られたのですから、療治も手当てもなかったでしょうが、吉良の息子や家来たちの疵を縫ったのでしょう。そのときにどういうわけか、吉良上野が着用の小袖というのを貰って帰って、代々持ち伝えていま した。小袖二枚で、一枚は白綾(しろあや)、一枚は八端(はったん)、それに血のあとが残っていると云いますから、恐らく吉良が最期(さいご)のときに身につけていたものでしょう。
堺利彦
【貧を記す】
炭尽きぬ、油尽きぬ、いかんせん。羽織一枚、帯一筋、着物一枚作らざるべからず。羽織は○○居士(こじ)こしらえてくれるはずなり。
寺田寅彦
【音楽的映画としての「ラヴ・ミ・トゥナイト」】
「イズンティット・ロマンティク」の歌の連続が次のような順序に現われる。始めはモーリスが店の三枚鏡一枚一枚に映りながらこれを歌う。この歌が街頭へ飛び出して自動車のおやじから乗客の作曲家に伝染し、この男が汽車へ乗ったおかげで同乗の兵隊に乗り移る。
太宰治
【薄明】
妹は、あすの私たちの食料を心配して、甲府市から一里半もある山の奥の遠縁の家へ、出発した。私たち親子四人は、一枚敷蒲団を地べたに敷き、もう一枚掛蒲団は皆でかぶって、まあここに踏みとどまっている事にした。さすがに私は疲れた。
宮本百合子
【国際民婦連へのメッセージ ――「女性を守る会」から――】
そしてドイツやイタリーにおいて誤った政権の最も切実な犠牲が婦人大衆であったとおり、日本でも好戦的な特権支配者たちの犠牲となったのは、誰よりも先に婦人大衆であることを明瞭に語っているものです。
戦争へ召集する一枚赤紙はその絶対命令によって、日本のあらゆる家庭から良人と父親、愛人、兄弟たちを奪い取りました。一枚赤紙は、幾千万の日本の家庭を片はじから破壊しました。婦人が男にかわって今日までつくしてきた生活上の努力は言葉には云いつくせません。
夏目漱石
【永日小品】
何だ――と怒鳴(どな)りつけた。けれども飛び出した次の部屋は真暗である。続く台所の雨戸一枚外(はず)れて、美しい月の光が部屋の入口まで射し込んでいる。自分は真夜中に人の住居(すまい)の奥を照らす月影を見て、おのずから寒いと感じた。
夏目漱石
【長谷川君と余】
その当時君は文学者をもって自(みずか)ら任じていないなどとは夢にも知らなかったので、同業者同社員たる余の言葉が、少しは君に慰藉(いしゃ)を与えはしまいかという己惚(うぬぼれ)があったんだが、文士たる事を恥ずという君の立場を考えて見ると、これは実際入(い)らざる差し出た所為(しょい)であったかも知れない。返事には端書(はがき)一枚来た。その文句は、有難(ありがと)う、いずれ拝顔の上とか何とかあるだけで、すこぶる簡単かつあっさりしていた。
南部修太郎
【氣質と文章】
たとへば或る時代ドストイェフスキイは貧困のどん底にあつた。幾日も十分な食事が取れないために乳呑兒をかかへながら妻は乳が涸れるほどの非慘さだつた。そして、ドストイェフスキイは一刻も早く原稿を金に換へなければならないために額に汗を流しながらペンを動かした。机の脇につきつきりの編輯者は印刷を急ぐためにその原稿一枚一枚はぎ取るやうに持つて行つた。
與謝野晶子
【遺書】
最初には気が附かなかつたのですが、柳箱(やなぎばこ)の上に私の写真一枚置いてあるのです。何処(どこ)かの雑誌社から返しに来たのであらうと思ふと云ふのです。
伊藤左千夫
【野菊の墓】
天気のよいのに山路を急いだから、汗ばんで熱い。着物一枚ずつ脱ぐ。風を懐(ふところ)へ入れ足を展(のば)して休む。青ぎった空に翠(みどり)の松林、百舌(もず)もどこかで鳴いている。声の響くほど山は静かなのだ。天と地との間で広い畑の真ン中に二人が話をしているのである。
若山牧水
【鳳來寺紀行】
今少し登ると醫王院といふがあり、接待茶、繪葉書ありの看板が出てゐた。其處へ寄つて茶の馳走になり繪葉書を買ひ、本堂再建の屋根瓦一枚づつの寄進につき、更に山上遙に續いてゐる石段を登り始めやうとすると、應接してゐたまだ三十歳前後の年若い僧侶が、貴下は若山といふ人ではないか、と訊く。
平出修

【公判】
裁判長は型の如く訊問を終へたがやがて又記録を繰つて一審判決の原本を見出した。
「一審判決によると、お前は××郵便局集配人として勤務中、第一、年月日××町××番地の郵便函の中より御大葬の絵葉書一組を竊取(せつしゆ)し、第二、年月日××町××番地の郵便函の中より封書に貼用(てふよう)しありたる三銭の郵便切手一枚宛剥ぎ取り竊取し、第三に、年月日某取次所より某局へ集配すべき小包郵便物の中より軽便懐中電燈一個を同じく竊取したと云ふ事実である。之が不服だと云ふのだな。」
「はい。」
「どうして不服だと云ふのだ。盗んだことがないと云ふのか。」
「切手を…………切手をはぎとつたことなどはありません。」
「切手はとらない。そんな事があるか。お前は一審に自白して居るぢやないか。」
「私、はぎとつたなどと云はなかつた…………」
「云はない。お前は云つてるぢやないか。」
「切手がはげて居ました…………其日は大雨がふりまして…………」

泉鏡花
【高野聖】
あたかも何よ、それ畜生道(ちくしょうどう)の地獄の絵を、月夜に映したような怪しの姿が板戸一枚、魑魅魍魎(ちみもうりょう)というのであろうか、ざわざわと木の葉が戦(そよ)ぐ気色(けしき)だった。
泉鏡花
【木の子説法】
着るものは--
私の田舎の叔母が一枚送ってくれた単衣(ひとえ)を、病人に着せてあるのを剥(は)ぐんです。
泉鏡花
【七宝の柱】
三十三枚櫛(くし)、唐(とう)の鏡、五尺のかつら、紅(くれない)の袴(はかま)、重(かさね)の衣(きぬ)も納(おさ)めつと聞く。
泉鏡花
【栃の実】
樹立(こだち)の暗くなった時、一度下(おろ)して、二人して、二人が夜道の用意をした、どんつくの半纏(はんてん)を駕籠の屋根につけたのを、敷かせて、一枚。一枚、背中に当(あて)がって、情(なさけ)に包んでくれたのである。
泉鏡花
【婦系図】
お茶漬さらさら、大好(だいすき)な鰺(あじ)の新切で御飯が済むと、硯(すずり)一枚、房楊枝(ふさようじ)を持添えて、袴を取ったばかり、くびれるほど固く巻いた扱帯(しごき)に手拭(てぬぐい)を挟んで、金盥(かなだらい)をがらん、と提げて、黒塗に萌葱(もえぎ)の綿天の緒の立った、歯の曲った、女中の台所穿(ばき)を、雪の素足に突掛(つっか)けたが、
泉鏡花
【草迷宮】
さて一方は長者園の渚(なぎさ)へは、浦の波が、静(しずか)に展(ひら)いて、忙(せわ)しくしかも長閑(のどか)に、鶏(とり)の羽(は)たたく音がするのに、ただ切立(きった)ての巌(いわ)一枚、一方は太平洋の大濤(おおなみ)が、牛の吼(ほ)ゆるがごとき声して、緩(ゆるや)かにしかも凄(すさま)じく、うう、おお、と呻(うな)って、三崎街道の外浜に大畝(うね)りを打つのである。
泉鏡花

【草迷宮】
あの、一枚、子産石(こうみいし)と申しまして、小さなのは細螺(きしゃご)、碁石(ごいし)ぐらい、頃あいの御供餅(おそなえ)ほどのから、大きなのになりますと、一人では持切れませぬようなのまで、こっとり円い、ちっと、平扁味(ひらたみ)のあります石が、どこからとなくころころと産れますでございます。

芥川龍之介
【首が落ちた話】
十頭の象があらわれて来て、その長い鼻で紅(あか)い一枚ずつを捲いて蒋に献じた。
芥川龍之介
【首が落ちた話】
趙は自分の用意して来た焼餅一枚を取り出して、皿にある焼餅一枚と掏(す)り換えて置いた。そうして、三娘子を油断させるために、自分の焼餅を食って見せたのである。
芥川龍之介
【アグニの神】
亜米利加人は惜しげもなく、三百弗(ドル)の小切手一枚、婆さんの前へ投げてやりました。
芥川龍之介
【芭蕉雑記】
しかし「遙知郡斎夜(ハルカニシルグンサイノヨ)凍雪封松竹(トウセツシヨウチクヲフウズ)時有山僧来(トキニサンソウノキタルアリ)懸燈独自宿(トウヲカケテドクジシユクス)」は宛然たる一幀(いつたう)の南画である。又「蔵並ぶ裏は燕のかよひ道」もおのづから浮世絵一枚らしい。この画趣を表はすのに自在の手腕を持つてゐたのもやはり芭蕉の俳諧に見のがされぬ特色の一つである。
石川啄木
【天鵞絨】
衣服といつても唯(たつた)六七枚、帶も二筋、娘心には色々と不滿があつて、この袷は少し老(ふ)けてゐるとか、此袖口が餘り開き過ぎてゐるとか、密(ひそ)々話に小一時間もかゝつて、漸々(やう/\)準備(したく)が出來た。
有島武郎
【或(あ)る女(後編)】
とうとう倉地は自分のために……葉子は少し顔色を変えながら封を切って中から卒業証書のような紙を二枚と、書記が丁寧に書いたらしい書簡一封とを探り出した。
有島武郎
【或(あ)る女(後編)】
読むでもなく読まぬでもなく手に持ってながめていた手紙の最後の一枚を葉子は無意識のようにぽたりと膝(ひざ)の上に落とした。
有島武郎
【或(あ)る女(後編)】
愛子が襷(たすき)をはずしながら台所から出て来た時分には、貞世はもう一枚名刺を持って葉子の所に取って返していた。
有島武郎
【或(あ)る女(後編)】
もう袷(あわせ)一枚になって、そこに食べ物を運んで来る女中は襟前(えりまえ)をくつろげながら夏が来たようだといって笑ったりした。
有島武郎
【生まれいずる悩み】
彼らがそれを意識せず、生きるという事はすべてこうしたものだとあきらめをつけて、疑いもせず、不平も言わず、自分のために、自分の養わなければならない親や妻や子のために、毎日毎日板子一枚の下は地獄のような境界に身を放(な)げ出して、せっせと骨身を惜しまず働く姿はほんとうに悲壮だ。そして惨(みじ)めだ。なんだって人間というものはこんなしがない苦労をして生きて行かなければならないのだろう。
岡本綺堂
【綺堂むかし語り】
小新しい双子(ふたこ)の綿入れ三枚羽織三枚、銘仙の着物と羽織の揃ったのが一組、帯が三本、印半纏四枚、ほかに浴衣五枚と、それから現金が七十円ほどありましたよ。
岡本綺堂
【綺堂むかし語り】
彼は一枚毛布を油紙のようなものに包んで抱えていた。
岡本綺堂
【綺堂むかし語り】
むし歯は自然に抜けたのもあり、医師の手によって抜かれたのもあり、年々に脱落して、現在あます所は上歯二枚下歯六枚、他はことごとく入歯である。
岡本綺堂
【半七捕物帳 広重と河獺】
この寒いのに浴衣一枚で、これから毎朝跣足(はだオ)参りをするんだそうですが、見るから痩せぎすな、孱弱(ひよわ)そうな人ですから、からだを痛めなければいいがと案じています。
尾崎紅葉
【金色夜叉】
神戸の蒲鉾(かまぼこ)三枚、見事なのでございます。
織田作之助
【青春の逆説】
二階へ行こうとしたところへ社長が降りて来て、豹一に市電の切符二枚渡した。
押川春浪
【本州横断 癇癪徒歩旅行】
男は越中褌(ふんどし)一本、女は腰巻一枚、大の字也(なり)になり、鼻から青提灯(あおぢょうちん)をぶら下げて、惰眠を貪(むさぼ)っている醜体(しゅうたい)は見られたものではない。
梶井基次郎
【城のある町にて】
蚊帳をまくって起きて出、雨戸一枚繰った。
森鷗外
【カズイスチカ】
三時頃に病家に著いた。杉の生垣(いけがき)の切れた処に、柴折戸(しおりど)のような一枚扉(とびら)を取り付けた門を這入ると、土を堅く踏み固めた、広い庭がある。穀物を扱う処である。
森鷗外
【カズイスチカ】
花房はそっと傍(そば)に歩み寄った。そして手を触れずに、やや久しく望診していた。一枚浴衣を、胸をあらわして著ているので、殆(ほとん)ど裸体も同じ事である。全身の筋肉が緊縮して、体は板のようになっていて、それが周囲のあらゆる微細な動揺に反応(はんおう)して、痙攣を起す。
島木健作
【東旭川村にて】
「ごらんなさい、ああいふ風になるのがあるんです。」指さす方を見ると、一枚全部の稻が横倒しに倒れてゐる。富國種にくらべるとずつと莖が長い。「ああなつてゐる上に、あつたかい雨でも降ると、芽が出るんですよ。富國にはそれがないんです。」
作者不詳
国民文庫
(明治44年)
【義経記】
取つて押ヘて、骨は砕けよ、脛は拉げよと踏んだり。弓手の小腕踏み折り、馬手の肋骨二枚損ず。
林 不忘
【丹下左膳 乾雲坤竜の巻】
  三十一人わずか三人に減じられて、落人おちうどのごとく胴の間にさらされているのだ。
 栄枯盛衰えいこせいすい――そうした言葉が、軍之助の胸を去来してやまなかった。
 板子いたこ一枚下は地獄。
 海の旅は、同船のものをしたしくする。
 追う船も、追われる船も、おなじ天候の支配を受けて、ただ追い、ただ追われているのみだった。
 
   
 
 

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Last updated : 2023/02/24