【言葉の練習】
= 外郎売 (ういろううり) =

さるほどに、こんきょう寺(じ)の勤行(こんきょう)、門(もん)きょう法印(ほういん)が座(ざ)の真中(まんなか)につつと出(で)て、こんきょう寺(じ)の勤行(こんきょう)、門(もん)きょう法印(ほういん)が、法力(ほうりき)をあらまし御目(おんめ)に掛(か)け奉(たてまつ)る、御宝前(ごほうぜん)にやがて壇(だん)をぞ、飾(かざ)りける。百八(ひゃくはち)の燈明(とうみょう)の油(あぶら)には、白胡麻殻(しろごまがら)やら、黒胡麻殻(くろごまがら)やら、真胡麻殻(まごまがら)やら、犬胡麻殻(いぬごまがら)やら、胡麻殻(ごまがら)、胡麻殻(ごまがら)、ひ胡麻殻(ごまがら)、真胡麻殻(まごまがら)の油(あぶら)を立(たて)てられたり。さて入木(にゅうもく)には珍(めずら)しや、一反(いっぺん)へぎ長(なが)へぎ干生薑(ほしはじかみ)、木天蓼(またたび)、摘蓼(つみたで)、粒山椒(つぶざんしょう)、野撫子(のなでしこ)、野石竹(のせきちく)、きく切(き)り、きく切(き)り、三(み)きく切(き)り、是(これ)を併(あわ)せて六(む)きく切(き)り、切(き)って掛(か)けたる幣帛(へいはく)は、大奉書(おおぼうしょ)、中奉書(ちうぼうしょ)、小奉書(こぼうしょ)。さて又(また)本尊(ほんぞん)に掛(か)けられしは、のら如来(にょらい)、のら如来(にょらい)、三如来(みにょらい)、六如来(むにょらい)、これを併(あわ)せて十二(じゅうに)のら如来(にょらい)、又(また)それを併(あわ)せて二十四(にじゅうし)のら如来(にょらい)の真言(しんごん)に、向(むか)いの長押(なげし)の長長刀(ながなぎなた)は、誰(た)が長長押(ながなげし)の長長刀(ながなぎなた)ぞ、兵部(ひょうぶ)が前(まえ)を刑部(ぎょうぶ)が通(とお)る、兵部(ひょうぶ)が屏風(びょうぶ)を刑部(ぎょうぶ)が持(も)たずば、坊主(ぼうず)に買(かわ)わせてしょうぶが坊主(ぼうず)の屏風(びょうぶ)にしょ。向(むか)いの山(やま)のつるつるつるつる鶴頸(つるくび)は、白鶴頸(しろつるくび)か藍鶴頸(あいつるくび)か、真黒(まっくろ)黒々(くろくろ)鶴頸(つるくび)をひっ立(た)て振立(ふった)て祈(いの)れども、少(すこ)しも験(しるし)はなかりけり。僧(そう)は大(おお)きに赤面(せきめん)して、重(かさ)ねて奇特(きどく)を見(み)せんとて、袈裟(けさ)も衣(ころも)もおっとり置(お)いてな、殿様(とのさま)の長袴(ながはかま)、若殿様(わかとのさま)の小長袴(こながばかま)、武具馬具(ぶぐばぐ)、武具馬具(ぶぐばぐ)、三武具馬具(みぶぐばぐ)、これを併(あわ)せて六武具馬具(むぶぐばぐ)、お職箸(しきばし)百八十膳(ひゃくはちじゅうぜん)、天目(てんもく)百盃(ひゃっぱい)、茶(ちゃ)百盃(ひゃっぱい)、棒(ぼう)八百本(はっぴゃっぽん)立(たて)並(なら)べ、責(せ)めかけ飲(のみ)みかけ祈(いの)れども、されども験(しるし)はなかりけり。僧(そう)は大(おお)きに怒(いか)りをなし、実(げ)に我(われ)とても上方僧(かみがたそう)、書写山(しょさやざん)社僧(しゃそう)の惣名代(そうみょうだい)、今日(きょう)の奏者(そうしゃ)は書写(しょしゃ)じゃぞ書写(しょしゃ)じゃぞ、所在(しょざい)も世帯(しょたい)も之(これ)までかと、錫杖(しゃくじょう)がらがらざくざくと、振(ふ)りかけ振(ふ)りかけ祈(いの)れども、ちっともそっとも験(げん)もなし。いで法華経(ほっけきょう)にて祈(いの)らんと、妙法蓮華経(みょうほうれんげきょう)、陀羅尼品(だらにほん)第二十六(だいにじゅうろく)、祈(いの)りける。実(げ)に御経(おんきょう)の功力(くりき)にや、大願成就(たいがんじょうじゅ)有難(ありがた)しと、僧(そう)は潜(くぐ)り難(にく)い潜(くぐ)り窓(まど)潜(くぐ)って、裏(うら)の古胡桃(ふるくるみ)の木(き)の古切口(ふるきりくち)の古枝(ふるえだ)の、引抜(ひきぬ)き難(にく)いを引抜(ひきぬ)いて、新茶(しんちゃ)立(た)ちょう茶(ちゃ)立(た)ちょう、青茶(あおちゃ)立(た)ちょう茶(ちゃ)立(た)ちょう、粉茶(こちゃ)立(た)ちょう茶(ちゃ)たちょうと、初穂(はつほ)のしょらちは、らりるれろ。