作 家
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作 品
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長谷川時雨 |
【西洋の唐茄子 】 敷石を二、三段上って古板塀の板戸を明け一足はいると、真四角な、かなりの広さの地所へ隅の方に焼け蔵が一戸前(ひととまえ)あるだけで、観音開きの蔵前を二、三段上ると、網戸に白紙(かみ)が張ってある。 |
長谷川時雨 |
【西川小りん】 その祖母が女のたしなみを、いかにも簡明に女中たちにも、子供たちにも共通にはなしてきかせるのだ。その中で、あんぽんたんの耳に残っているのは、祖父が蔵を建てようといった時に一戸前(ひととまえ)の金が出来たからと悦(よろこ)んでいったのを、「も一戸前分の金が出来てからになさい。」と祖母はいった。自分たちの働きの成績を、一日も早く、黒塗りの土蔵にして眺めたいと願っていた祖父は、明らかによろこばなかった。二戸前(ふたとまえ)分の金が集まった時に、祖母はまたいった。「も一戸前分出来たらにしましょう。」さすが温順な祖父も、なぜだと訳をきかないうちは承知しなかった。 |
泉鏡花 |
【縁結(えんむす)び
】 「お向うというのは、前に土蔵(どぞう)が二戸前(ふたとまえ)。格子戸(こうしど)に並(なら)んでいた大家(たいけ)でね。私の家なんぞとは、すっかり暮向きが違(ちが)う上に、金貸だそうだったよ。 |
三遊亭圓朝 鈴木行三校訂・編纂 |
【西洋人情話英国孝子ジョージスミス之伝】 霊岸島川口町(れいがんじまかわぐちちょう)へ転居して、はや四ヶ年の間に前の河岸(かし)にずうっと貸蔵(かしぐら)を七つも建て、奥蔵(おくぐら)が三戸前(みとまえ)あって、角見世(かどみせ)で六間間口の土蔵造(どぞうづくり)、横町(よこちょう)に十四五間の高塀(たかべい)が有りまして、九尺(くしゃく)の所に内玄関(ないげんかん)と称(とな)えまする所があります。 |
岡本綺堂 |
【半七捕物帳 鷹のゆくえ】 「その鷹はどうした」 「入れる籠がないとかいうので、ともかくも土蔵のなかへ入れて置くと云っていました」 「むむ、いずれ何処にか隠してあるに相違ねえ。ここの家に土蔵は幾つある」 「五戸前(いつとまえ)ある筈です」 半七は門の内へはいって、すぐに主人の当兵衛を呼び出した。 「御用がある。土蔵の戸前をみんな明けて見せろ」 |
岡本かの子 |
【雜煮】 いろは順で幾十戸前が建て列ねた藏々をあづかる多くの番頭、その下の小僧、はした、また奧女中の百人近い使用人へ臨んだ主人としての態度は、今でも東京の下町の問屋あたりの老主人がかたく墨守して居るそれと變りはなかつた。 |
国枝史郎 |
【天主閣の音】 西北の隅に土蔵がある。しかも二棟並んでいる。辰巳の二戸前というやつだ。主人の威光益々加わり、眷族参集という瑞象だ。おやおやあれは何だろう?」 |
佐々木味津三 |
【右門捕物帖 足のある幽霊
】 はいってみると、これがどうしてよくもこれだけためあげたと思われるほどな一倍の広大きわまりない大邸宅で、ことに目をひいたものは、家棟(やむね)にすぐとつづいた二戸前の土蔵でありました。 |