作 家
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作 品
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芥川龍之介 |
【樗牛の事】 その上荒れはてた周囲の風物が、四方からこの墓の威厳を害している。一山(いっさん)の蝉(せみ)の声の中に埋(うも)れながら、自分は昔、春雨にぬれているこの墓を見て、感に堪えたということがなんだかうそのような心もちがした。 |
横光利一 |
【比叡(ひえい)】 伝教とて一山をここに置く以上は、衆生(しゅじょう)済度の念願もこのあたりの淋(さび)しさの中では、凡夫の心頭を去来する雑念とさして違う筈(はず)はあるまいと思われた。 |
幸田露伴 |
【連環記】 自分の師の慈慧が僧正に任ぜられたので、宮中に参って御礼を申上げるに際し、一山の僧侶(そうりょ)、翼従甚だ盛んに、それこそ威儀を厳荘にし、飾り立てて錬り行った。 |
泉鏡花 |
【七宝の柱】 まったく、一山(いっさん)の仏たち、大(おおき)な石地蔵(いしじぞう)も凄(すご)いように活きていらるる。 |
宮本百合子 |
【人民戦線への一歩】 やっぱり、口かず少く、百匁五十五円のマグロ、一山十五円のカキの皿を眺めおろしているのであった。 |
宮本百合子 |
【私たちの建設】 胃嚢は、つまるところ闇の食物で満たして行かなければならなかった。五、六百円の金が一皿五円のおでんを食べて、一山十円の蜜柑を食べて、何ヵ月もつというのだろう。 |
森鷗外 |
【独身】 実は今朝托鉢(たくはつ)に出ますと、竪(たて)町の小さい古本屋に、大智度論(たいちどろん)の立派な本が一山積み畳ねてあるのが、目に留まったのですな。 |
芥川龍之介 |
【杜子春】 あの老人の言葉通り、夕日に影を映して見て、その頭に当る所を、夜中にそつと掘つて見たら、大きな車にも余る位、黄金が一山出て来たのです。 |
太宰治 |
【お伽草紙】 「真珠?」と浦島は驚き、「いや、嘘だらう。たとひ真珠を十万粒二十万粒積み重ねたつて、あれくらゐの高い山にはなるまい。」 「十万粒、二十万粒とは、ケチな勘定の仕方だ。竜宮では真珠を一粒二粒なんて、そんなこまかい算へ方はしませんよ。一山(ひとやま)、二山(ふたやま)、とやるね。 |