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阿諛便佞/阿諛弁佞
あゆべんねい
  1. うまいことを言って、気に入られようとしてへつらうこと。
作家
作品

森鴎外

【興津弥五右衛門の遺書】

高が四畳半の にくべらるる木の切れならずや、それに大金をてんこと存じも寄らず、主君御自身にてせり合われそうらわば、臣下としていさとどめ申すべきなり、たとい主君がしいて本木を手に入れたく思召おぼしめされんとも、それを遂げさせ申す事、阿諛便佞あゆべんねい所為しょいなるべしと申そろ。当時三十一歳のそれがし、このことばを聞きて立腹致し候えども、なお忍んで申候は、それはいかにも賢人らしき申条もうしじょうなり、さりながら某はただ主命ともうすものが大切なるにて、主君あの城を落せとおおせられ候わば、鉄壁なりとも乗り取り申すべく、あの首を取れと仰せられ候わば、鬼神なりとも討ち果たし申すべくと同じく、珍らしき品を求め参れと仰せられ候えば、この上なき名物を求めん所存なり、主命たる以上は、人倫の道にもとり候事は格別、その事柄に立入り候批判がましき儀は無用なりと申候。

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阿部次郎

【三太郎の日記 第三】

 かくて他律的服從は盲目なる者の偸安か、奸譎なる者の阿諛便佞か――阿諛便佞を通じたる利己かである。故にそれは自己を汚し、他を汚し、重ねて道を汚す。それは普遍的自我の成長を妨げ、「己れ」の増長を助くるが故に自己を汚すのである。それは「他」の過ちを利用し、かくて彼の反省の眼を昏すが故に他を汚すのである。さうしてそれは自他の中に道の實現を妨げるが故に道を汚すのである。此の如き服從は實にあらゆる意味に於いて奉仕の正反對である。

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Last updated : 2024/06/28