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円満具足
えんまんぐそく |
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作家
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作品
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芥川龍之介 |
【黒衣聖母】
田代君はあらゆる蒐集家に共通な矜誇(ほこり)の微笑を浮べながら、卓子(テーブル)の上の麻利耶観音と私の顔とを見比べて、もう一度こう繰返した。「これは珍品ですね。が、何だかこの顔は、無気味(ぶきみ)な所があるようじゃありませんか。」 「円満具足(えんまんぐそく)の相好(そうごう)とは行きませんかな。そう云えばこの麻利耶観音には、妙な伝説が附随しているのです。」 |
芥川龍之介 |
【文芸的な、余りに文芸的な】
ハイネはゲエテの詩の前に正直に頭を垂れてゐる。が、円満具足したゲエテの僕等を行動に駆りやらないことに満腔(まんかう)の不平を洩らしてゐる。これは単にハイネの気もちと手軽に見て通ることの出来るものではない。
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岡本綺堂 |
【玉藻の前】
彼は苦しい声を振り絞ってまた叫んだ。蝋燭の数は増されて、須弥壇(しゅみだん)はかがやくばかりに明るくなった。阿弥陀如来の尊像はくすぶるばかりの香りの煙りにつつまれた。その渦まく煙りのなかに浮き出している円満具足(ぐそく)のおん顔容(かんばせ)は、やはり玉藻の笑顔であった。
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寺田寅彦 |
【記録狂時代】
いかなる点が第一だかわからなかったが、とにかくアメリカは「俳諧(はいかい)のない国」だと思ったのであった。このアメリカ魂は、摩天楼のレコードを作ると同時にギャング犯罪のレコードをも造りだすであろう。何一つレコードを持たないような円満具足の理想国はどこかにないものかと考えることもある。 |
豊島与志雄 |
【球体派】
「恋人の眼をのみ美しいと云う勿れ。」だが、眼球をのみ美しいと云う勿れ。私はその時、撞球の象牙の球(たま)を頭の中に眺めていた。きれいに拭きこまれた赤と白との象牙の球――あらゆる色合の光と物象とを映して、青羅紗の上をなめらかに滑りゆく、赤と白との象牙の球……。 いや、眼球や象牙の球ばかりではない。凡て球形のものには、円満具足の美があって、長い観賞に堪える。球形を見て喜びと和ぎとを感じないものは、邪悪な心である。 |
戸坂潤 |
【思想と風俗】
で宗教が「インチキ」であるかないかは、之を見る立場にある社会の常識的通念の如何によるものであって、社会の根本的矛盾に就いて本当の知識を有たない通念にとってインチキでない宗教も、社会の根本的矛盾を見得る通念からすると、紛れもないインチキ宗教なのである。つまり内部に根本的な食い違いを有ちながら、之を意識的にか無自覚にか、何の食い違いもないような円満具足なものと見せかけるものが、インチキ宗教一般の本質だ。――そういう意味に於いて、唯物論的認識論(乃至論理学)から云うと、インチキでない宗教は元来なかったし、又決してあり得ないということになる。ただ今日なら今日という社会の常識的通念によって、その内の一部はインチキで他の部分はインチキでないと呼ばれるに過ぎないので、そうした常識的通念そのものが、唯物論的見地に耐え得ないものなのだ。
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