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馬耳東風
ばじとうふう |
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作家
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作品
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太宰治 |
【人間失格】
東京で、まともな仕事をせずそのうちに詐欺罪に問われ、刑務所にいるのよ、あたしは毎日、何やらかやら差し入れしに、刑務所へかよっていたのだけれども、あすから、やめます、などと物語るのでしたが、自分は、どういうものか、女の身の上噺(ばなし)というものには、少しも興味を持てないたちで、それは女の語り方の下手なせいか、つまり、話の重点の置き方を間違っているせいなのか、とにかく、自分には、つねに、馬耳東風なのでありました。
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太宰治 |
【善蔵を思う】
私の番が、来た。私は、くにゃくにゃと、どやしつけてやりたいほど不潔な、醜女の媚態を以て立ち上り、とっさのうちに考えた。Dの名前は出したくない。Dって、なんだいと馬耳東風、軽蔑されるに違いない。私の作品が可哀そうだ、読者にすまない。
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坂口安吾 |
【青春論】
然し、この話はただこれだけで、なんの結論もないのだ。なんの結論もない話をどうして書いたかというと、僕が大いに気負って青春論(又は淪落論)など書いているのに、まるで僕を冷やかすように、ふと、姪の顔が浮んできた。なるほど、この姪には青春も淪落も馬耳東風で、僕はいささか降参してしまって、ガッカリしているうちに、ふと書いておく気持になった。書かずにいられない気持になったのである。ただ、それだけ。
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幸田露伴 |
【東西伊呂波短歌評釈】
東 無理がとほれば道理引込む西 むまの耳に風 東は理もまた時ありて屈伸することを云ひて、世情の頼む可からざるを憤り、西は馬耳東風何の饗応無きを云へり。 |
岡本かの子 |
【母子叙情】
むす子はエレンが内懐から取出して弄(もてあそ)び始めようとしたカルタを引ったくって取上げて仕舞ったのである。「サヴォン・カディウム! サヴォン・カディウム!」ロザリも、おとなしいジュジュまでが立ちかかって手を出した。 むす子は可笑(おか)しさを前歯でぐっと噛(か)んで、女たちの小さい反抗を小気味よく馬耳東風に聞き流すふりをしている。 「何ですの。サヴォン・カディウムって」とかの女はちょっと気にかかって左隣の芸術写真師に訊(き)いた。 |
牧野信一 |
【吊籠と月光と】
とBは、万物流転説を遵奉するアテナイの大言家の声色(こわいろ)を唸(うな)りながら未練も残さずに出て行った。不安も悲劇も自信も僕にとっては馬耳東風(ばじとうふう)だ。あまりBの様子ぶった態度が滑稽(こっけい)だったから、「馬鹿な自信を持ってかえって不安の淵(ふち)に足を踏み入れぬように用心した方が好(い)いだろうよ。この弓をやろうじゃないか、腹の空(す)いた時の用心に――」 |
豊島与志雄 |
【山吹の花】
E女――田宮さんは、わたしは昔から懇意なんですが、始末のわるいひとでしてね。いつものらりくらりしていて、瓢箪鯰で、つかまえどころがありません。こちらから何を言っても、すべて馬耳東風ですからね。あんなひと相手では、あなたも気骨が折れることでしょう。ひとつ、尻尾をつかまえて、ぎゅーっと締め上げてやりなさるが、宜しいですよ。
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福田英子 |
【妾の半生涯】
人民をして政(まつりごと)に参せしめざる時は、憂国の余情溢(あふ)れて、如何(いか)なる挙動なきにしも非ずと、種々当路者に向かって忠告するも、馬耳東風(はじとうふう)たる而已(のみ)ならず憂国の志士(しし)仁人(じんじん)が、誤って法網(ほうもう)に触(ふ)れしを、無情にも長く獄窓に坤吟(しんぎん)せしむる等、現政府の人民に対し、抑圧なる挙動は、実に枚挙(まいきょ)に遑(いとま)あらず。
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木下尚江 |
【大野人】
かの農民の田の面に腰休め、烟草一プク、天地と共に立ちて自由の呼吸をなす。これ誠に納涼のヤヽ大なるものなり。然れども習慣は、富より出でざれば楽みとせず。所有権より来る困難厄介の問題、いかに神聖の教ありとも、馬耳東風。狭き納涼に多大の金銭を失ふて得々たり」。
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岸田國士 |
【芸術座の『軍人礼讃』】
それからこれは歌江嬢ばかりでなく、石川治氏についても云ひ得ることであるが、自分が云ふだけのことを云つてしまつたら彼は自分の番を間違へないやうにすればいゝと云ふやうな、それ程でもあるまいが、さう云はれても仕方がない程、相手の云ふことを馬耳東風と聞き流し、相手の口から出る一句一句に対して何等の反響を示さない「怠慢な表情」を見ると少々情なくなる。
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石河幹明 |
【瘠我慢の説 瘠我慢の説に対する評論について】
果(はた)して外国人に干渉(かんしょう)の意あらんにはこの機会(きかい)こそ逸(いっ)すべからざるはずなるに、然(しか)るに当時外人の挙動(きょどう)を見れば、別に異(こと)なりたる様子(ようす)もなく、長州騒動(そうどう)の沙汰(さた)のごとき、一般にこれを馬耳東風(ばじとうふう)に付し去るの有様(ありさま)なりき。
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佐々木味津三 |
【右門捕物帖 なぞの八卦見】
「あきれちまうな。きんのうやきょうお江戸の土を踏んだ人間じゃあるめえし、観音さまはいつ来たってこのとおりの人込みですぜ。薄みっともない、ぼんやりと口をあけて、なにがいったいそんなに珍しいんですかい。あっしゃもうほんとうにおこりますぜ」しかるに、右門はいっこうに馬耳東風と聞き流しながら、しきりとなにか物色顔で同じところを行ったり来たりしていましたが、そのときはからずも人込みの中から、まだ二十(はたち)ぐらいのみずみずとしたあだっぽい女の姿をみとめると、不意に鋭い口調で、ささやくように伝六へ命じました。 |
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