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罵詈雑言
ばりぞうごん
作家
作品

中島敦

【南島譚 夫婦】

 椰子の葉を叩くスコールの如く、麺麭(パン)の樹に鳴く蝉時雨(せみしぐれ)の如く、環礁の外に荒れ狂う怒濤の如く、ありとあらゆる罵詈雑言(ばりぞうごん)が夫の上に降り注いだ。火花のように、雷光のように、毒のある花粉のように、嶮(けわ)しい悪意の微粒子が家中に散乱した。

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水野仙子

【脱殼】

 私はばたりと畳に体を投げる。そこらを掻き挘る。あらゆる罵詈雑言の限りを胸のうちに叫ぶ。そしては、その醜い我姿に泣いて/\、熱い涙がぽろ/\と頬を伝はつて落ちる。そのうち塩辛さが、喰ひしばつた歯の間に流れ込むと、私はとう/\声をたてゝ泣くのである。
「なんといふ仕様のない女だらう!」

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直木三十五

【南国太平記】

「小太郎っ」
  障子が開いて、小藤次が、次の間から板の間へ飛び降りた。小太郎は、木片をもったまま
「不埓なっ、通るを見かけての罵詈雑言(ぼりぞうごん)、勘弁ならぬ――」
「馬鹿っ」
  一人の職人が、木片を、かちんと叩いて
「東西東西、この場の模様は、いかがに相成りまするか」

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大杉栄

【続獄中記】

 その後二、三日の間は、監房の内と外とで囚人と看守との間の戦争が続いた。囚人が歌を歌う。看守がそれを叱る。というようなことがもとで唾の引っかけ合い、罵詈雑言のあびせ合いから、ついに看守が抜刀する。竹竿を持って来て、そのさきにサーベルを結びつけて、それを監房の中へ突きやる。囚人は便器の蓋や、はめ板をはずして、それを防ぐ。やがて看守はポンプを持って来て煮湯を監房の中に注ぎこむ、囚人等は布団をかぶってそれを防ぐ。というような紛擾の後に、とうとう渡辺は典獄か看守長かの室に談判に行くことになった。そこで数名の看守に斬りつけられたのだと言う。

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宮本百合子

【風に乗って来るコロポックル】

 コロポックルは、赤い膳を呉れろの、彫りのある鞘を寄来(よこ)せのと云う。そして遣られないと叱り付ければ、いろいろな罵詈雑言(ばりぞうごん)を吐いて、彼を辱しめる。
  吝嗇坊(けちんぼう)だと云って、人は皆嘲笑っているぞと云ったり、自分独りで沢山の宝物(イコロ)を隠しているから、見ろ、部落中の者がお前を憎んでいるのを知らないか、と云ったりする。

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豊島与志雄

【どぶろく幻想】

つまりは、統制経済違反の確証を握って、周伍文を脅迫する意図だったとも見える。そして千代乃にしつっこく迫ったが、千代乃自身知らないこととて、何の手掛りも得られなかった。それを尾高は千代乃の強情のせいだと思ったらしく、悪どい手段に出た。詳しいことは分らないが、女中の言葉などを綜合してみると、尾高は周伍文の不在をねらい、子分を二人も連れてきて、卓子に短刀を突き立て、罵詈雑言や脅迫の限りをつくしたらしい。千代乃は恐らく逆上の態で、とっさに毒を呑んで逃げ出し、そして草原で死んだ。
「純情といいますか、判断力が乏しいといいますか、可哀そうです。」
  周さんは卓子に顔を伏せて、またも泣くのだった。

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海野十三

【あの世から便りをする話 ――座談会から――】

 これは一種の病人でありまして、その頃勤め先の役所へも、度々そういう投書が来ました。私の所へ来る電波は、こちらから見て居ると、放送局のマイクロフォンの前で三人の男が並んで居る。二人は髭(ひげ)がないが、一人は髭がある。眼鏡を掛けたのが二人と髭のあるのが一人いて、それが何時も私に向って罵詈雑言(ばりぞうごん)を致します。いくら止めろと言っても止めませぬ。しかも受信機がなくてこれが聴えるから、洵(まこと)に始末が悪い。安眠も出来ないから、お止(や)めを願いたいというのであります。

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ストックトン
岡本綺堂訳

【世界怪談名作集 幽霊の移転】

 僕には所詮(しょせん)そんなことの想像のできるはずはなく、ただ身ぶるいするばかりであった。幽霊はまた言いつづけた。
「もし私が質(たち)のわるい幽霊であったらば、ヒンクマン氏より他の人の幽霊になったほうが、さらに愉快であると思うでしょう。あの老人は怒りっぽい人で、すこぶる巧妙な罵詈雑言(ばりぞうごん)を並べ立てる……あんな人にはこれまでめったに出逢ったことがありません。そこで、彼がわたしを見つけて、わたしがなぜここにいるか、また幾年ここにいるかということを発見したら……いや、きっと発見するに相違ありません

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Last updated : 2024/06/28