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破顔一笑
はがんいっしょう |
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作家
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作品
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国木田独歩 |
【非凡なる凡人】
間もなく冬期休課(ふゆやすみ)になり、僕は帰省の途について故郷近く車で来ると、小さな坂がある、その麓で車を下り手荷物を車夫に托し、自分はステッキ一本で坂を登りかけると、僕の五六間さきを歩(ゆ)く少年がある、身に古ぼけたトンビを着て、手に古ぼけた手提(てさげ)カバンを持って、静かに坂を登りつつある、その姿がどうも桂正作に似ているので、「桂君じゃアないか」と声を掛けた。後ろを振り向いて破顔一笑(はがんいっしょう)したのはまさしく正作。立ち止まって僕をまち 「冬期休課(ふゆやすみ)になったのか」 |
森鴎外 |
【ヰタ・セクスアリス】
古賀は本も何も載せてない破机(やぶれづくえ)の前に、鼠色になった古毛布を敷いて、その上に胡坐(あぐら)をかいて、じっと僕を見ている。大きな顔の割に、小さい、真円(まんまる)な目には、喜の色が溢(あふ)れている。「僕をこわがって逃げ廻っていた癖に、とうとう僕の処へ来たな。はははは」 彼は破顔一笑した。彼の顔はおどけたような、威厳のあるような、妙な顔である。どうも悪い奴らしくはない。 「割り当てられたから為方(しかた)がない」 随分無愛想な返事である。 |
織田作之助 |
【猿飛佐助】
そう言い放つと同時に、老人は耳も聾する許りの豪屁を放ったが、途端にその姿は臭気もろ共かき消す如く消え失せてしまったので、「さては、鼬(いたち)に因んだ土遁(どとん)の術か」 と、うっとりしていると、忽然として現われ、 「忍術には屁の音は要らぬものじゃが、放屁走尿の束の間にも、夢幻の術を行うという所を見せるために、わざと一発放ってみたのじゃ」 と、破顔一笑した。 |
岸田國士 |
【ふらんす役者気質】
今から、昔のことを考へると、同じ女優の衣裳についても、面白い変遷がある。名女優ドルヴァル夫人は、アレクサンドル・デュマの戯曲――またアントニイだか――で、その女主人公に扮するために、大散財をした。 『いよ/\、身代限りよ』 ドルヴァル夫人は、心なくも、デュマの耳に口を寄せて囁いた。 当代の人気作者、金はあつても身につかない大の気前好し、破顔一笑、これまた、何事かをドルヴァル夫人の耳に囁いた。 『え、ほんと……。さうしてくれる……。』 ドルヴァル夫人は、天にも昇らん……声で叫んだ。 |
宮本百合子 |
【獄中への手紙 一九四〇年(昭和十五年)】
充分描ければ、作品としての面白さは、大名夫人に遙にまさります。但その十分描くというところが、ね、主観的でない困難があり、その程度が、わかるような分らないような。一頁勉強のこと、我慢しているうちには、とかいてあって、全く破顔一笑よ。今私が何かにふれて、一昨年あたりフーフー云ってよんだものの助けを得ているように、きっとこれも二年ぐらい経ったら効力があらわれるのでしょう。実力なんてそんなものね。 |
佐藤垢石 |
【酒渇記】
細君は、夫が自分の言葉をきいてくれたのを喜んで、いそいそと出ていって買ってきた。ところが劉伶は、その酒と肉を鬼神には供えないで自分の前へ供えてしまった。そして、跪いて祝詞を唱え、天劉伶を生む、酒を以て名を為す。一飲一斛五斗にして醒を解す。女の言葉など慎んで聴くものじゃない、と言って破顔一笑。仍(すなわ)ち酒を引き肉を御し、隗然(かいぜん)たるのみ。復た酔う矣。
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佐々木味津三 |
【右門捕物帖 七化け役者】
「ちぇッ。しょうのねえどじだな。それだから、おまえなんぞ、いつまでたっても背が伸びねえんだよ。知れたこっちゃねえか。道々お小姓姿におやつしなさって、お連れ申し上げたくれえもご遠慮したんだもの、おへやさまの素姓が世間へ知られりゃ、何かとお家の名誉にもかかわるじゃねえか。だからこそ、だんなも一服盛って、早く宗助の野郎をやみからやみへかたづけてほしいと、わざわざお書面をお書きなすったもんだ。もっと食い養生をして、りこうになれよ」すっかり口まねをして、とんだ説法をしたものでしたから、破顔一笑、腹をよらんばかりにいったのは名人でした。 |
中里介山 |
【大菩薩峠 禹門三級の巻】
「我、汝が為めに箇(こ)の直綴(じきとつ)を做得了(つくりおわ)れり」与次郎老人が味(あじ)なことを言い出しました。弁信はその声を聞いたけれども、その物を見ることができません。茂太郎はその物を見ているけれども、その言葉を悟ることができません。そこで老人は破顔一笑して、諄々(くどくど)と直綴の説明をはじめたようです。 |
夢野久作 |
【暗黒公使(ダーク・ミニスター)】
……けれども万一、あの曲馬団がやられる時に、どさくさに紛れて外(ほか)の人間の手に渡って反古(ほご)にされるような事があったら大変と気が付きますと、何でも自分の手に奪い取っておきさえすれば安心と思いましたから、直ぐ狭山さんにお手伝いをお願いして取りに行ったのです。……僕が曲馬団を飛び出す時に、その地図の事を忘れていたのが悪かったんです。御免なさい」と少年は率直に頭を下げた。樫尾大尉は初めて破顔一笑した。 |
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