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薄利多売
はくりたばい |
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作家
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作品
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相馬愛蔵・相馬黒光 |
【一商人として ――所信と体験――】
私の経営方針は、店の経費が償われて職人その他の雇人に世間並みの待遇さえ出来れば、それ以上の利益はなくとも宜(よろ)しいという信念に立っていたから、薄利多売大いに同感であるが、その店のようにミルクやジャムをほとんど無手数料で売っていたのでは、いくら売れたにしても店の立ちようがない。そんな商売は無茶というものであった。
とにかく我々の店で薄利多売を主義として理想的の経営をするとしても、最低一割五、六分の経費は必要であって、それに些少の利得を加算して二割の販売差益を受けるのは当然のことである。官吏が俸給を受け技師が設計費を取るのと、何ら異なるところはないのである。 さて「良い品を廉く」というと、そこに連想されるものは薄利多売であるが、私は必ずしも多売を目的としなかった。良い品のその「良い」ことを落さぬためには、常に製品を内輪に見積って、どんなことがあっても翌日にまわるような売れ残りを拵えてはならない。すなわちここが大切の思い切りどころであって、多量に製造して販売能力の精一杯まで当てにするという方針は私のとらないところであった。 |
相馬愛蔵 |
【私の小売商道】
私の店ではこの点を考えて、午前午後の二回しか配達はやらない。このため浮いた金額は勉強の方へまわす。薄利多売主義のためにまわす。この二回以外にたって配達してくれという場合や遠方の配達に対しては、実費として電車賃往復十四銭をいただくことにしている。よく宮家からも御注文をいただくが、やはり電車賃はいただいている。
商売というものはやりようであるから、儲かるようにすればいくらでも儲けられる。しかしそれでは永続して繁昌はしない。結局薄利多売で行く方が身体は忙しいが気持がよい。またそれが商売の常道である。よくて安い品を気持よくお客様に買って頂き、お客様に喜んで貰うことが吾々の勤めなのである。」 |
杉山萠圓(夢野久作) |
【街頭から見た新東京の裏面】
中には半紙三枚続き位の西洋紙に、「可驚(おどろくべき)提供(ていきょう)……二円八十銭」 と色インキで書いてブラ下げて、その下に相当な中折れ帽を硝子(ガラス)の箱入りにして、店の前に出してあるのもある。つまり値段を看板にしたわけである。「薄利多売主義」とか「負けぬ代りに安い」という看板は、こんなのに比べるととても廻りクドくて問題にならぬ。 文化生活、文化村、文化住宅、文化机、文化竈(かまど)、文化タワシ、文化丼、文化饅頭(まんじゅう)、文化煎餅(せんべい)、文化まめとなって来ると、どこが文化なのか見当が付かぬ。 |
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