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薄志弱行
はくしじゃっこう |
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作家
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作品
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夏目漱石 |
【こころ】
私はちょっと眼を通しただけで、まず助かったと思いました。(固(もと)より世間体(せけんてい)の上だけで助かったのですが、その世間体がこの場合、私にとっては非常な重大事件に見えたのです。)手紙の内容は簡単でした。そうしてむしろ抽象的でした。自分は薄志弱行(はくしじゃっこう)で到底行先(ゆくさき)の望みがないから、自殺するというだけなのです。それから今まで私に世話になった礼が、ごくあっさりとした文句でその後(あと)に付け加えてありました。世話ついでに死後の片付方(かたづけかた)も頼みたいという言葉もありました。 |
二葉亭四迷 |
【平凡】
好きは好きだったが、しかし友人の誰彼(たれかれ)のように、今直ぐ其真似は仕度(した)くない。も少し先の事にしたい。兎角理想というものは遠方から眺めて憧憬(あこが)れていると、結構な物だが、直ぐ実行しようとすると、種々(いろいろ)都合の悪い事がある。が、それでは何だか自分にも薄志弱行(はくしじゃっこう)のように思われて、何だか心持が悪かったが、或時何かの学術雑誌を読むと、今の青年は自己の当然修むべき学業を棄てて、動(やや)もすれば身を政治界に投ぜんとする風ありと雖も、是れ以ての外の心得違なり、
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太宰治 |
【虚構の春】
『春服』が立ち直る迄なりと、一つ、月々五十枚位載せて貰える、あなたの知っている同人雑誌に紹介してくれませんか。同人費は払います。余計な事を! 書きためて、懸賞当選を狙う手もあるのですが、あれには運が多い気がしてイヤです。それに、こんな汚ない字の原稿なんか読んではくれますまい。また薄志弱行のぼくは活字にならぬ作品がどんどん殖(ふ)えて行くとどうしても我慢できず、最初のから破ってしまうので――嘘、嘘。なんでもいいんです。この手紙をここ迄読んで下さったなら、それだけでも、ありがたい。
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太宰治 |
【彼は昔の彼ならず】
時効のかかったころ、堂々と名乗り出るのさ。あなた、もてますよ。けれどもこれは、飛行機の三日間にくらべると、十年間くらいの我慢だから、あなたがた近代人には鳥渡(ちょっと)ふむきですね。よし。それでは、ちょうどあなたにむくくらいのつつましい方法を教えましょう。君みたいな助平ったれの、小心ものの、薄志弱行の徒輩には、醜聞という恰好の方法があるよ。まずまあ、この町内では有名になれる。人の細君と駈落ちしたまえ。え?
青扇のことを思えば、なんとも知れぬけむったさを感じるのである。逢いたくなかった。どうせ逢って話をつけなければならないとは判っていたが、それでも一寸のがれに、明日明日とのばしているのであった。つまりは僕の薄志弱行のゆえであろう。 |
太宰治 |
【右大臣実朝】
酒飲みの意地汚なさ、捨てるには惜しく、ついさつきの禁酒の誓を破つてごくごくと一滴あまさず飲みほして、これからが本当の禁酒だなどと、まことにわれながらその薄志弱行にはあいそがつきまして、さう言ひながらも昨夜はまた戦勝の心祝ひなどと理窟をつけて少しやつてゐるやうな有様なのでございますから、まだまだ修行はいたらず、とても、おほめにあづかるほどの男ではございませぬ、
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有島武郎 |
【或る女(後編)】
船の中での礼を述べて、とうとう葉子と同じ船で帰って来てしまったために、家元(いえもと)では相変わらずの薄志弱行と人毎(ごと)に思われるのが彼を深く責める事や、葉子に手紙を出したいと思ってあらゆる手がかりを尋ねたけれども、どうしてもわからないので会社で聞き合わせて事務長の住所を知り得たからこの手紙を出すという事や、自分はただただ葉子を姉と思って尊敬もし慕いもしているのだから、せめてその心を通わすだけの自由が与えてもらいたいという事だのが、
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国木田独歩 |
【牛肉と馬鈴薯】
「僕は馬鈴薯党でもない、牛肉党でもない! 上村君なんかは最初、馬鈴薯党で後に牛肉党に変節したのだ、即ち薄志弱行だ、要するに諸君は詩人だ、詩人の堕落したのだ、だから無暗と鼻をぴくぴくさして牛の焦る臭を嗅いで行く、その醜体ったらない!」「オイオイ、他人を悪口する前に先ず自家の所信を吐くべしだ。君は何の堕落なんだ」と上村が切り込んだ。 |
清水紫琴 |
【誰が罪】
今や国家実に多事、内治に外交に、英雄の大手腕を要するもの、什(じう)佰(ひやく)にして足らず。しかも出処進退その機宜一髪を誤らば、かの薄志弱行の徒と、その軌を一にし、その笑ひを後世に貽(のこ)さんのみ。あに寸行隻言も、慎重厳戒せざるべけんや。すべからく持長守久の策を運(めぐら)し、力(つと)めて、人心を収攬せよ。
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福田英子 |
【妾の半生涯】
昔年(せきねん)唱えたりし主義も本領も失い果し、一念その身の栄耀(えいよう)に汲々(きゅうきゅう)として借金賄賂(わいろ)これ本職たるの有様となりたれば、かの時代の志士ほど、世に堕落したる者はなしなど世の人にも謡(うた)わるるなり。さる薄志弱行の人なればこそ、妾(しょう)が重井のために無上の恥辱を蒙(こうむ)りたるをば、なかなかに乗ずべき機なりとなし、厭(いや)になったら、また善(よ)いのを求むべし、これが当世なりとは、さても横に裂(さ)けたる口かな。何たる教訓ぞや。
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石橋忍月 |
【舞姫】
ゲエテー少壮なるに当ツて一二の悲哀戯曲を作るや、迷夢弱病の感情を元とし、劇烈欝勃(うつぼつ)の行為を描き、其主人公は概(おほむ)ね薄志弱行なりし故に、メルクは彼を誡(いまし)めて曰(いは)く、此(かく)の如き精気なく誠心なき汚穢(をわい)なる愚物は将来決ツして写す勿(なか)れ、此の如きことは何人(なんぴと)と雖(いへど)も為(な)し能ふなりと。予はメルクの評言を以ツて全く至当なりとは言はず。又「舞姫」の主人公を以ツて愚物なりと謂はず。然れども其主人公が薄志弱行にして精気なく誠心なく随(したが)ツて感情の健全ならざるは予が本篇の為めに惜む所なり。何をか感情と云ふ。
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中里介山 |
【大菩薩峠 京の夢おう坂の夢の巻】
それらの思索が、ここに至っても駒井をして、まだ北せんか南せんかに迷わしめている。しからば北進策を捨てて、南進策を取るとしてみると、この船をいずれの方に向け、いずれの地点に向わしむべきか。今となって、そういうことを考えるのは薄志弱行に似て、駒井の場合、必ずしもそうではなかったのです。事をここまで運び得たにしてからが、尋常の人には及びもつかぬ堅心強行の結果というべきだが、船を航海せしむることだけが駒井の目的の全部ではない。むしろ船は便宜の道具であって、求むるところは、何人にも掣肘(せいちゅう)せられざる、無人の処女地なのです。無人の処女地を求め得て、そこに新しい生活の根拠を創造することにあるのですから、航海も大切だが、それは途中のことに過ぎない。永遠にして根本的なのは植民である。少なくともこれらの人を、子孫までも安居楽業せしむる土地を選定しなければならぬ。そこに念に念を入れての研究と、研究から来る変化や転向が生じても、それは薄志弱行ということにはならないでしょう。
易(えき)だの卜(うらない)などということは、それこそ薄志弱行の凡俗のすることで、人間に頭脳と理性が備わっていることを信ずるものにとっては、ばかばかしくて取上げられるものではない。だが、この時は、知識と、認識と、自分の思考だけでは、さすがの駒井にも適切な判断は下せない。いっそ、ばかばかしければばかばかしいなりに、梅花心易(ばいかしんえき)というようなものにたよって、当座の暗示を試してみるも一興である。 |
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