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半信半疑
はんしんはんぎ
作家
作品

島崎藤村

【破戒】

 翌朝のことであつた。蓮華寺の庄馬鹿が学校へやつて来て、是非丑松に逢ひたいと言ふ。『何の用か』を小使に言はせると、『御目に懸つて御渡ししたいものが御座(ござい)ます』とか。出て行つて玄関のところで逢へば、庄馬鹿は一通の電報を手渡しした。不取敢(とりあへず)開封して読下して見ると、片仮名の文字も簡短に、父の死去したといふ報知(しらせ)が書いてあつた。突然のことに驚いて了つて、半信半疑で繰返した。確かに死去の報知には相違なかつた。発信人は根津の叔父。『直ぐ帰れ』としてある。


『是(これ)はまあ極(ご)く/\秘密なんだが――君だから話すが――』と青年は声を低くして、『君の学校に居る瀬川先生は調里ださうだねえ。』
『其さ――僕もある処で其話を聞いたがね、未だ半信半疑で居る。』と準教員は対手の顔を眺め乍ら言つた。『して見ると、いよ/\事実かなあ。』


あるものは又たぐる/\室内を歩き廻つたりして、いづれも熱心に聞耳を立てゝ居る様子。のみならず、丑松の様子を窺(うかゞ)ひ澄まして、穿鑿(さぐり)を入れるやうな眼付したものもあれば、半信半疑らしい顔付の手合もある。銀之助は談話(はなし)の調子を聞いて、二人が一方ならず激昂して居ることを知つた。

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夏目漱石

【明暗】

 こう云う態度はまさしく彼の特色であった。そうしていつでも二様に解釈する事ができた。頭から向うを馬鹿だと認定してしまえばそれまでであると共に、一度こっちが馬鹿にされているのだと思い出すと、また際限もなく馬鹿にされている訳にもなった。彼に対する津田は実のところ半信半疑の真中に立っていた。だからそこに幾分でも自分の弱点が潜在する場合には、馬鹿にされる方の解釈に傾むかざるを得なかった。ただ相手をつけあがらせない用心をするよりほかに仕方がなかった彼は、ただ微笑した。

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芥川龍之介

【邪宗門】

御姫様から頂いた御文の文句や、御歌などを、ある事もない事も皆一しょに取つくろって、さも御姫様の方が心を焦(こが)していらっしゃるように、御話しになったからたまりません。元より悪戯好(いたずらず)きな御同輩たちは、半信半疑でいらっしゃりながら、早速御姫様の偽手紙を拵(こしら)えて、折からの藤(ふじ)の枝か何かにつけたまま、それを左大弁様の許へ御とどけになりました。

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森鴎外

【伊沢蘭軒】

「いづかたも無事に候、宜御申可被下候」と云つてゐる。恐くは並びに是れ福山藩士で東役中の身の上であつただらう。その無事だと云ふのは福山の留守宅であらう。第三の伊十は或は伊七ならむも測り難いが、わたくしは姑(しばら)く「十」と読んで置いた。茶山が「可也に取つづき出来候覧」と半信半疑の語をなしてゐる。江戸にある知人で覚束ない生活をしてゐたものと察せられる。

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泉鏡花

【春昼後刻】

 男は真先(まっさき)に世間外(せけんがい)に、はた世間のあるのを知って、空想をして実現せしめんがために、身を以(も)って直(ただ)ちに幽冥(ゆうめい)に趣(おもむ)いたもののようであるが、婦人(おんな)はまだ半信半疑でいるのは、それとなく胸中の鬱悶(うつもん)を漏(も)らした、未来があるものと定(さだま)り、霊魂の行末(ゆくすえ)が極(きま)ったら、直ぐにあとを追おうと言った、言(ことば)の端(はし)にも顕(あらわ)れていた。

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太宰治

【如是我聞】

 私たちがいくら声をからして言っても、所謂世の中は、半信半疑のものである。けれども、先輩の、あれは駄目だという一言には、ひと頃の、勅語の如き効果がある。彼らは、実にだらしない生活をしているのだけれども、所謂世の中の信用を得るような暮し方をしている。そうして彼らは、ぬからず、その世の中の信頼を利用している。

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菊池寛

【大島が出来る話】

「貴方、到頭大島が出来たわ。上下(うえした)揃ってよ。」
 と、嬉しそうに大きな声を立てた。
「何だ! 俺のがかい? 一体何うしてだ。」
 と、彼は半信半疑で訊(き)き返した。
「近藤の奥さんのお遺物(かたみ)よ。先刻(さっき)、お使が持って来たのよ。」
 と、妻は洗い物を早々に片づけ始めた。

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堀辰雄

【大和路・信濃路】

いましがた松林の中からその日のあたっている扉のそのあたりになんだか綺麗な文様らしいものの浮き出ているのに気がつき、最初は自分の目のせいかと疑ったほどだった。――僕はその扉に近づいて、それをしげしげと見入りながらも、まだなんとなく半信半疑のまま、何度もその花文の一つに手でさわってみようとしかけて、ためらった。おかしなことだが、一方では、それが僕のこのとききりの幻であってくれればいいというような気もしていたのだ。

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堀辰雄

【朴の咲く頃】

 そう言われて、私は漸っと他の楢(なら)や櫨(はぜ)の木の葉なんぞのよりも、目立って大きい若葉を見て、一目でそれが朴(ほお)の木の葉であることを思い出した。でも私は、
「朴の木ではないかな?……」と、まだ半信半疑で言った。私もその木がこうやって花咲いているのを見かけるのは今がはじめてだからである。……

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宮本百合子

【貧しき人々の群】

「俺(お)らげの斃(くたば)り損い奴にもはあ、ほんにこまりやす。おめえさまお聞きやしただべえが、飛んでもねえことをしでかしやがってからに……」
と、新さんがその豆を売った金で、町の女郎屋に五日とか六日とか流連(いつづ)けたということを、大きな声で罵った。で、私は親身の親の云うこともまさか嘘だとも思えず、さりとて新さんがそんなことをしたとも思えないで、半信半疑のうちにこのことのなりゆきを見ていたのである。
 一体、水車屋は、二年前に亭主が亡くなってからよくない噂ばかり立てられていた。

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高村光雲

【幕末維新懐古談 牙彫りを排し木彫りに固執したはなし】

「なるほど、さようでありますか、今日まで、あなたが象牙をお手掛けなさらんことについては半信半疑でありましたから、実は今日のようなことを申し出たわけであります。が、只今(ただいま)、お話を承って能(よ)く了解しました。では、象牙のことは今日限り打ち切りまして、やっぱり従前通り、木彫りの方をお願い致しましょう」

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坂口安吾

【織田信長】

 信長の家来たちは、餓鬼大将が、どうやらホンモノの大将らしいところもあると思ったが、半信半疑なのである。
 清洲から五十町ほどの比良の城の近所にアカマ池というのがある。蛇池という伝説があり、三十町も葭(よし)の原ッパのつゞいた物怖しいところである。

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坂口安吾

【無毛談 ――横山泰三にさゝぐ――】

 ブスッとふくれて、返答しない。ぶつなり、殺すなり、勝手にしろ、という突きつめた最後の構えで、痴情裏切りの果とか、命にかけても身はまかされぬと示威する構えで、小娘のただの構えじゃない。こっちはワケが分らないから、たゞワケを言ってみろ、とネジこんでいるだけのことだから、こんな極度の構えで応対されては、寒気がする。イマイマしいけれども、これ以上、どうすることもできない。
 あまりのことに、妹も半信半疑で、
「兄さん、ほんとに、何か、変なこと、したんじゃないの」
「バカぬかせ。あいつ、何か言ったのか」

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織田作之助

【鬼】

「十万円あれば、高利貸に二千円借りる必要はなかろうじゃないか。デマだよ」
「十万円は定期で預けていて、引き出せんのじゃないかね」
「しつこいね。僕は生れてから今日まで、銀行へ金を預けたためしはないんだ。銀行へ預ける身分になりたいとは女房の生涯の願いだったが、遂に銀行の通帳も見ずに死んでしまったよ」
「ふーん」
 私は半信半疑だったが、
「――二千円で何を買ったんだ」
「煙草だ」
「見たところよく吸うようだが、日に何本吸うんだ」

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内田魯庵

【灰燼十万巻(丸善炎上の記)】

横町の店が洋物小売部であった。)の前を通って、無事に助かった海苔屋の角を廻って仮営業所の前へ出ると見物人は愈が上に集っていた。鳶人足がカン/\板囲を打付けている最中であった。丸善の店も隣りの洋服屋も表掛りが僅かに残ったゞけで、内部は煙が朦々と立罩めた中に焼落ちた材木が重なっていた。丸善は焼けて了った。夫までは半信半疑であったが、現在眼の前に昨日まで活動していた我が丸善が尽く灰となって了った無残な光景を見ると、今更のように何とも云い知れない一種の無常を感じた。

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新美南吉

【川】

 あとの三人は、こまったなア、というように顔を見あわせた。しかし、ほんとうに兵太郎君のからだに故障ができたかどうか、三人は半信半疑だった。
 というのは、兵太郎君はいぜんから、死んだふりや、腹のいたむまねが、ひじょうにうまかったからである。

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黒島伝治

【チチハルまで】

 鯖ヒゲの中隊長が注意を繰かえした。
 前線から帰ってくる将校斥候はロシヤ人や、ロシアの大砲を見てきたような話をした。
「本当かしら?」
 和田達多くの者は、麻酔にかかったように、半信半疑になった。
「ロシヤが、武器を供給したんだって? 黒龍江軍が抛(ほう)って逃げた銃を見て見ろ。みんな三八式歩兵銃じゃないか!」

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平野萬里

【晶子鑑賞】

   在(ま)し在さず定かならずも我れ思ひ人は主人(あるじ)の無しとする家

 この家の主人は死んでしまつてゐないのだと他人は簡単に極めてしまつて疑はない。しかし妻である私はさうは思はない、半信半疑である、死んだやうでもあり、そのうちに旅から帰つて来さうでもある。他人の様に簡単に片づけられないのが妻の場合である。

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清水紫琴

【したゆく水】

 その翌朝未明、太田が家にては、下女の報告(しらせ)に、夫婦が驚き『なにお園様が殺されてござるといふのか。馬鹿め、貴様はどうしてゐた』と。叱りながらも半信半疑。見れば真実や、縁側の、雨戸も障子も開け放し。足の跡こそ、付いて居れ。死骸は立派な覚悟の死。襟寛(くつろ)げて、喉笛に、柄(つか)までぐつと突込んだ、剃刀はお園がもの。これが自殺でなからふかと。

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久坂葉子

【灰色の記憶】

唯なんとなく枯淡をあくがれたにすぎない。物慾も消えてゆく。強いてひたすらに思ってみたりすることも興味ない。まだ二十歳まで二三年あるというのに、私はひっつめ髪をし、黒っぽい服を着、化粧すらしないで家に引籠っていた。
 家族は私の変貌に半信半疑の目をむけていた。しかし一種の落つきのようにみえる私の態度に安心もしている様子であった。

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田畑修一郎

【医師高間房一氏】

彼には免状もあるし、開業するのを誰もとめ立てすることはできなかつた。それだけの話だつた。それは町の人達がこれまで抱いて来た「お医者」の観念とはまるきり別だつた。だから、彼等はいまだに房一が往診鞄などを提げて歩いてゐるのにぶつかると、何となく半信半疑な面持を、時には曖昧なうすら笑ひを浮べたりする。

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中井正一

【機構への挑戦 ――「場所」から「働き」へ――】

 十八の支部図書館長等は、半信半疑のまま、法律の命ずるところに従ってこのプランに突込んでいったのである。初期の図書館の概念は、おおむね図書室と書庫のスペースと、書庫とその中の本及びその本をまもる司書とで構成されていた。

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豊島与志雄

【正覚坊】

 平助はうれしくってたまらないような気がしてきました。元気いっぱいで漁に出ました。大層(たいそう)よく魚が取れました。晩になると、魚を売ったお金で酒を求めて、正覚坊が来るかも知れないと待ってみました。
 晩遅くなってから、戸をことりことりと叩くものがあります。平助は半信半疑(はんしんはんぎ)で戸を開いてやりますと、正覚坊がちゃんと来ているではありませんか。平助の喜び方ったらありませんでした。夜ふけるまで二人で酒を飲んで、それから一緒に寝ました。朝になると、正覚坊は沼へ帰ってゆきました。

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島木健作

【黒猫】

 そこで最初に、犯人の疑いを、あの黒猫にかけはじめたのは母であった。あれ程大きな石を突き上げて侵入してくるほどのものは容易ならぬ力の持主である。それはあの黒猫以外ではない、と母は確信を持っていうのである。
 それはたしかに理に合った主張だった。しかし当の黒猫を見る時、私は半信半疑だった。毎晩そんなことがあるその間に、昼には黒猫はいつもと少しも変らぬ姿を家の周囲に見せているのである。

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南部修太郎

【S中尉の話】

「御苦勞樣だね……」
 と、Mは笑ひ出しました。
「まあ、もう少し聞き給へ。それから四五日經つてから、無論半信半疑で、その家へ電話を掛けると、間違ひもなくその女が出て來たんだ。で、その時打ち合せをして、或る處で出會ふ約束をしたんだ。

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佐藤垢石

【にらみ鯛】

 若狭守は、用人七兵衛から、お肴を受けとった。見ると下々の『にらみ鯛』と同じなのに恐懼したのであったが、余りの事に半信半疑の体であった。
 それから七兵衛は鯛と一緒に頂戴した御酒一瓶を、内藤豊後守に贈ったのである。

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渡辺温

【花嫁の訂正 ――夫婦哲学――】

 半信半疑の気持で、二人が帰ってみると、先に帰っていた二人が仲よく肩を押し並べて彼等を迎えた。
「ねえ、Aの奥さん。あなた方の新家庭の飾りつけは、もう今朝の中に、あたし共がして置きましたわ――」とBの細君に向って、Aの細君が云うのであった。
「まあ!」

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田中貢太郎

【愛卿伝】

 趙はその朝、旅装を調えて無錫へ往った。そして、宋という姓の家を尋ねたところがすぐ知れた。趙は半信半疑で往ってみた。妊娠してから二十ヶ月目に生れたという男の子がひいひい泣いていた。それは生まれ落ちるときから輟(や)めずに泣いているものであった。

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蘭郁二郎

【脳波操縦士】

「でも……私がルミさんを、いや、ルミさんがまさか電気人間だとは知らなかったから、美しい女として、恋めいたものを感じたのは認めますけど、然し、それにしても、哀しい機械である筈の彼女が、私に恋をするなどということが出来るのでしょうか、――いかに貴方の天才的技術で造られているかは知りませんけれど、でも、機械が、人造人間が恋をするという『意志』を持てるのでしょうか」
 半信半疑ながらも私は、人造人間に恋し、恋された男として、心中激しく狼狽せざるを得なかった。

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長塚節

【隣室の客】

萵雀(あをじ)が其乾いた落葉を軽く踏んで冬は村へ行き渡つた。おいよさんと私との間には人知れず苦悩が起つた。おいよさんの身体の工合が変に成つたといふのである。半信半疑のうちに一ケ月待つて見た。どうしても懐胎したらしいとおいよさんも心配な顔をして私に語つた。

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蘭郁二郎

【腐った蜉蝣】

 私も亦(また)、彼にとっては敵の一人であったのだ。この背負投げは、事実であるかも知れぬ……。口惜(くちおし)くも私は半信半疑の靄(もや)につつまれて来るのであった。――

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横光利一

【旅愁】

「ほんとにこれがパリかなア。」
 と一人が汚い淋しい駅をきょろきょろ眺め廻して云った。
「リヨンと書いてあるにはあるな。」
 とまだ半信半疑の態である。とにかく、一同はコンパートメントからプラットの方へ降りていくと、どの車からもどやどや外人が降りて来た。皆の疑いも無くなったというものの、実感の迫らぬ夢を見ているような表情がありあり一同の顔に流れていた。

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南方熊楠

【十二支考 馬に関する民俗と伝説】

その言寡(すく)なくて注意の深き、感歎のほかなし。今のわが邦人の多くはこれに反し、自分に何たる精誠も熱心もなきに、水の分量から薬の手加減まで解りもせぬ事を根問(ねど)いして、半信半疑で鼻唄半分取り懸るから到底物にならぬ。

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小熊秀雄

【小熊秀雄全集-15- 小説】

  下駄は携帯すべからず

 失業者珍太は二条の白く光つて続いてゐる鉄道線路伝ひに三十里歩るいてきた。
『東京へ着いたらしいな』と彼は半信半疑な儘で呟いた。大踏切りにやつてきた、彼の前に広い街路が展かれた。

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林不忘

【丹下左膳 こけ猿の巻】

「山間の某地にナ」
 と対馬守は、眼をきらめかして、
「夢のごとき昔語りじゃ」
 と、きっと部屋の一隅をにらんだ。
 すると、殿の半信半疑の顔を見た一風宗匠は、また筆をうごかして、
「在りと観ずれば在り。無しと信ずれば無し。疑うはすなわち失うことなり」

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岡本綺堂

【半七捕物帳 白蝶怪】

「おれの鑑定は外(はず)れたかな」
 寺で殺されて川へ流された女――それはお近ではなかったのか。お北か、お近か、彼はまだ半信半疑であった。
「こういうときには落ち着くに限る」
 彼は更に二服目の煙草を吸った。表を駈けてゆく足音はいよいよ騒がしくきこえた。

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海野十三

【四次元漂流】

「しかしあの大金庫が壁を通るかよ」
「通るかもしれませんよ。この前のときは、あの幽霊は本をさらって小脇に抱えこんだまま、壁をすうっと向うへ通りぬけましたからね。だから、あの幽霊の手にかかった物は何でも壁を通りぬけちまうんではないでしょうかね」
 と、その課員はなかなか観察の深いところを見せた。
「本当かな」
 課長は半信半疑であったが、外にいい手がかりがちょっと見あたらないものだから、彼は部下に命じて外をあらためさせた。

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中里介山

【大菩薩峠 無明の巻】

 宇津木兵馬は、七兵衛の約束を半信半疑のうちに、浅草の観音に参詣して見ると、堂内の巽(たつみ)に当る柱で噪(さわ)いでいる一かたまりの人の声。
「ははあ、あれが安達(あだち)ヶ原(はら)の鬼婆(おにばばあ)だ、よく見ておけよ、孫八」

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菊池寛

【貞操問答】

「ウソつき!」水だまりをよけながら、美沢の肘(ひじ)に、すがっていた美和子の手に重みが加わった。
「あした、八時から練習があるんですよ。明後日(あさって)放送だもんだから……」
「あなた先生よしたの本当?」美和子はまだ半信半疑であったらしかった。
「本当ですとも。」
「いいわね。私、大賛成だわ。美沢さんは、天分があるんですってね。」お世辞ではあろうが、新子の手紙よりはズーッとうれしかった。

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佐々木味津三

【右門捕物帖 へび使い小町】

この屋敷には五代まえから白へびが主となって住んでいるはずじゃが、今まで一度も供養をせずにほっておいたゆえ、それがお怒りなすったのじゃ、とこんなことを申すんですよ。でも、そんなへびは祖先代々お目にかかったという話さえも承ったことがございませんゆえ、半信半疑に聞いておりましたところ、疑うならばお呼び申してしんぜようと申しまして、なにやら呪文(じゅもん)のようなことを二言三言おっしゃいましたら、二尺ばかりのまっしろいへびが、ほんとうに縁側からにょろにょろとはいってきたんでございますよ!」

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小栗虫太郎

【人外魔境 地軸二万哩】

 しかし気が付くと、どうやらこれが眉唾(まゆつば)のもののようにも思われてくる。「大地軸孔」のしたの晦冥(かいめい)国の女なんて、どうもこりゃ芝居がすぎるようだ。きっと、その女を躍らしている闇の手があるのだろう。と、思うが見当も付かない。結局、ザチのことは半信半疑に過ぎてゆくのだった。とその時、部屋付女中が窺(うかが)うような目をして、
「あの方を、ほんとに旦那さまは、ご存知ないのですか」
「知らんねえ、一向イランやあの辺の人には、近付きがないからね」
「そう、じゃ私、勘違いしてたのかしら……」

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辻潤

【錯覚した小宇宙】

 元来、科学というものは現象界の法則や、作用を説明するものだが、それが一定不変であるとはどうしても信じられない。人間の知力の変化に伴ってどんな風になるか計り知られないのだ。だから絶対不動の真埋などは到底今のところでは考えられない。だから、自分はいつでも半信半疑だ。幽霊を見たという人は多分見たのだと自分は信じている。頭からそんな馬鹿なことはないなどとはいわない。極端にいえば我々の眼に映じている現象は全部錯覚であるかも知れないのだ。

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武田麟太郎

【釜ヶ崎】

――たしかにさうすることに慣れた、特殊な技巧のある女の両腕は強くて離れず、それではこの女は、とすぐに彼は気がつかぬでもなかつたものの、まだ半信半疑のうちに、もはや土間にひきずり込まれてゐて――そこに、昔の彼が顔を洗ひ水を飲んだ場所がちらと見えたかと思ふと、どんと揚板の上へあげられ、更にむりやりに尻を押されてつまづきさうになりながら階段に足がかかる時には、やつと一切を理解し得たので、少しの落ちつきも取りもどし

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蒲松齢
田中貢太郎訳

【珊瑚】

「これで、ますます兄さんの詐(うそ)が知れるのですよ。もし、自分で心に愧(は)じることがなくて、だれが二つに分けたものをまた人にやるものですか。」
 二成はそれを聞かされると半信半疑になった。翌日になって任の家から下男をよこして、払った金はすっかり偽金(にせがね)であるから、つかまえて官にわたすといって来た。二成と臧は顔色を変えて驚いた。臧がいった。
「どうです。私ははじめから兄さんは利巧(りこう)で、ほんとに金なんかくれることはないといったじゃありませんか。どうです。これは兄さんがお前さんを殺そうとしていることじゃないの。」

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国枝史郎

【犬神娘】

 ――それからわたしは出来るだけ詳しく、例の屋敷の建物の一つから、ご上人様の手だと思われる手が、雨戸の隙から出たということを、四人のお方に申しました。四人のお方は半信半疑、まさかと思われるようなお顔をして、黙って聞いておりましたが、
「ああそれだからあの時重助さんは、あんなことをわたしに訊いたのですね」と、望東尼様が仰せになり、「まさかそのような犬神の屋敷などに、ご上人様がおいでになろうとは思われませぬが、といってここに思案ばかりして、無為(むい)におりますのもいかがなものか。……せっかく重助様がああおっしゃることゆえ、ともかくもそこへ行って探ってみては?」

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  • このサイトの制作時点では、三省堂の『新明解 四字熟語辞典』が、前版の5,600語を凌ぐ6,500語を収録し、出版社によれば『類書中最大。よく使われる四字熟語は区別して掲示。簡潔な「意味」、詳しい「補説」「故事」で、意味と用法を明解に解説。豊富に収録した著名作家の「用例」で、生きた使い方を体感。「類義語」「対義語」を多数掲示して、広がりと奥行きを実感』などとしています。

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Last updated : 2024/06/28