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波瀾曲折
はらんきょくせつ
作家
作品

夏目漱石

【現代日本の開化 ――明治四十四年八月和歌山において述――】

その結果として冒頭だか序論だかに私の演説の短評を試みられたのはもともと私の注文から出た事ではなはだありがたいには違ないけれども、その代りいやにやりにくくなってしまった事もまた争われない事実です。元来がそう云う情ない依頼をあえてするくらいですから曲折どころではない、真直まっすぐに行き当ってピタリとしまいになるべき演説であります。なかなかもって 抑揚頓挫よくようとんざ波瀾曲折はらんきょくせつの妙を極めるだけの材料などは薬にしたくも持合せておりません。

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夏目漱石

【彼岸過迄】

 敬太郎は一人でこう考えて、どこへでも進んで行こうと思ったが、また一方では、もうすっぽ抜けのあとの祭のような気がして、何というあてもなくまた三四日さんよっかぶらぶらと暮した。その間に有楽座へ行ったり、落語を聞いたり、友達と話したり、往来を歩いたり、いろいろやったが、いずれも薬缶頭やかんあたまつかむと同じ事で、世の中は少しも手に握れなかった。彼はを打ちたいのに、碁を見せられるという感じがした。そうして同じ見せられるなら、もう少し面白い 波瀾曲折はらんきょくせつのある碁が見たいと思った。

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寺田寅彦

【俳諧瑣談】

 自分のここで映画的連句というのは一定のストーリーに基づいたシナリオ的な連句のつもりである。しかしシナリオ的な叙事詩とはだいぶちがうつもりである。一方では季題やきらいや打ち越しなどに関する連句的制約をある程度まで導入して進行の沈滞を防ぎ楽章的な形式の斉整を保つと同時に、また映画の編集法連結法に関するいろいろの効果的様式を取り入れて一編の波瀾曲折を豊富にするという案である。

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坂口安吾

【小さな部屋】

彼は自分が殆んど悪魔の底意地の悪るさで痴川伊豆の葛藤を血みどろの終局へ追いやろうとしている冷酷な潜在意識を読んだ。併し驚きも 周章あわ てもしなかった。永遠に塗りつぶされた唯一色の暗夜を独り行くような劇しい屈託を感じたのである。全て波瀾曲折も無限の薄明にとざされて見え、止み難い退屈を驚かす何物も予想することができなかった。彼は冷静な心で、恐らく自分は悪魔であるかも知れないと肯定し、そして洋々たる倦怠を覚えずにいられなかった。

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岸田國士

【演劇一般講話】

 われわれの日常生活、たとえそれが如何に波瀾曲折に富んだものであろうと、われわれは、その中で実に平凡な、制限された、不調和な、殊にお座なりな曖昧な、時とすると虚偽に満ちた言葉を語り、動作を行っている場合が多い。

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Last updated : 2024/06/28