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弊衣破帽
へいいはぼう
ぼろぼろの衣服と破れた帽子。身なりに構わず、粗野でむさ苦しいこと。
作家
作品

太宰治

【デカダン抗議】

高等学校の所在するその城下まちから、浪のいる筈のAという小都会までは、汽車で一時間くらいで行ける。私は出掛けることにした。
 二日つづきの休みのときに出掛けた。私は、高等学校の制服、制帽のままだった。わば、弊衣破帽へいいはぼうである。けれども私は、それを恥じなかった。自分で、ひそかに、「貫一さん」みたいだと思っていた。幾春秋、忘れず胸にひめていた典雅な少女と、いまこそ晴れて逢いに行くのに、最もふさわしいロマンチックな姿であると思っていた。

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寺田寅彦

【学位について】

 博士がえらいものであったのは何十年前の話である。弊衣破帽の学生さんが、学士の免状を貰った日に馬車が迎えに来た時代の灰色の昔の夢物語に過ぎない。そのお伽噺とぎばなしのような時代が今日までつづいているという錯覚がすべての間違いの舞台の旋転する軸となっている。

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戸坂潤

【思想と風俗】

 今の学生は一面から云えば寧ろ社会的に一人前になっていて、表面上は世間並みの人間と昔程の相違を有っていないが、それは実はそれだけ学生が社会に同化しなければならない弱みを意味するので、彼等がすでにその弊衣破帽式生活に自信を失って了った証拠なのである。現在の学生は他の階級や身分や職業に較べれば依然幾種かの特典をもってはいるが、根本的な点では、昔の書生に較べて著しく社会的に不遇になっている。大人びたとも子供臭くなったとも云われているが、泣く児が悪まれるように、それが、益々彼等の社会的冷遇の理由にさえなっている。

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岸田國士

【『ハイカラ』といふこと】

 それはそれでいい。「蛮カラ」とは、何れにしても、細節に拘泥せず、我武者羅であり、悪くいへば「野暮」であり「殺風景」であるが、時として、それを知りながら、わざとさうであることを努める。弊衣破帽、辺幅を飾らざる東洋豪傑趣味である。
「ハイカラ」なるが故に、華美を好むとはいへない。まして、贅沢は「ハイカラ」の別名ではない。否、寧ろ、かのケバケバしいブウルジユワ成金趣味は、凡て「ハイカラ」とは縁の遠いものである。

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Last updated : 2024/06/28