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平穏無事
へいおんぶじ |
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作家
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作品
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森鴎外 |
【大塩平八郎】
東町奉行所で白刃(はくじん)の下(した)を脱(のが)れて、瀬田済之助(せいのすけ)が此屋敷に駆け込んで来た時の屋敷は、決して此出来事を青天(せいてん)の霹靂(へきれき)として聞くやうな、平穏無事の光景(ありさま)ではなかつた。家内中(かないぢゆう)の女子供(をんなこども)はもう十日前に悉(ことごと)く立(た)ち退(の)かせてある。
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国木田独歩 |
【女難】
『うまいところを当てられた、実はあれはさる茶屋でかなり名を売った女中であったのを親方が見つけ出し、本人の心持を聞いて見ると堅気の職人のところにゆきたいというので、それこそ幸いと私に世話してくれたのだ』と少々得意の気味でお俊の身元を打ち明けたのでございます。その時からなおさら私はお俊のそぶりを妙に感じて来ました。けれどもまず平穏無事に日が経ちますうち、ちょうど八月の中ごろの馬鹿に熱い日の晩でございます、長屋の者はみんな外に出て涼んでいましたが私だけは前の晩寝冷えをしたので身体の具合が悪く、宵から戸を閉めて床に就(つ)きました。 |
中島敦 |
【悟浄歎異 ―沙門悟浄の手記―】
災厄(さいやく)は、悟空(ごくう)の火にとって、油である。困難に出会うとき、彼の全身は(精神も肉体も)焔々(えんえん)と燃上がる。逆に、平穏無事のとき、彼はおかしいほど、しょげている。独楽(こま)のように、彼は、いつも全速力で廻(まわ)っていなければ、倒れてしまうのだ。
流沙河(りゅうさが)の水を出てから、いったいどれほど進歩したか? 依然たる呉下(ごか)の旧阿蒙(きゅうあもう)ではないのか。この旅行における俺の役割にしたって、そうだ。平穏無事のときに悟空の行きすぎを引き留め、毎日の八戒の怠惰(たいだ)を戒(いまし)めること。それだけではないか。 |
宮本百合子 |
【獄中への手紙 一九四二年(昭和十七年)】
十月二十七日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(代筆 封書)〕 十月二十七日(今日はああちゃんの出産予定日なり)ですけれども幸い今のところは平穏無事で丸いお腹は納っているので、私達は二階で何日ぶりかのゆっくり手紙書きを始めました。 |
直木三十五 |
【南国太平記】
「呪法の功徳を示して、わしは、玄白斎殿も、明日か、一月後か、一年後か、とにかく、遠からぬうちに、死ぬであろう。一人の命を呪うて、己の命を三年縮めるが、もし、玄白斎殿と呪法競べになれば、十年、二十年の命をちぢめるかも知れぬ。もし、わしが、三十年、五十年、平穏無事に暮せるなら、お前にも、秘法を譲ろうと思うたが、時が無(の)うなった。学んで得られる道でもなく、言って伝えられるものでもない。
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菊池寛 |
【貞操問答】
新子は、憤(いきどお)りで身体が、熱くなっていた。今まで比較的に、平穏無事であったために、軌(きし)み合うことなしに過ぎた二人の性格の歯車が、今やカツカツと音を立てて触れ合っているのだった。なまじ、相手が肉親であるだけに、つい言葉も、ぞんざいになり、一旦云い出したとなると、真正面から遠慮会釈もなく、切り込む新子の太刀先(たちさき)を、あしらいかねて、圭子はタジタジとなったが、すぐ立ち直ると出鱈目な受太刀を、ふり廻し始めた。
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国枝史郎 |
【高島異誌】
「いかがでござるな、ご気嫌は?」僧はニヤリと笑い乍ら「どうやらお変りも無いようじゃの?」「爾来、平穏無事でござる」 「それは何より結構じゃ。……どうじゃな、拙宅へ参られては?」 「ご庵室は何処にござりますな?」 「此洞穴の根方にござるよ。どうじゃな直ぐに参られては?」 |
折口信夫 |
【万葉集の解題】
神が村々へ時を定めて現れ、あることばを語つて行く。ことばは、恐らく村人の要求通りのことばであつて、而も其が毎年繰り返される。村人の平穏無事で暮せる様に、農作物が豊かである様にと言ふ、お定り言葉を神は言うて行つたのである。
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北村透谷 |
【復讐・戦争・自殺】
復讐は快事なり。人間は到底、平穏無事なるものにあらず。罵(のゝし)らるれば怒り、撃たるれば憤る、而して、其の怒ること、其の憤ること、即坐に情を洩らすこと、野獣の如くにして而して止むを得ば、恐らく復讐といふものゝ要は無かるべし。
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国枝史郎 |
【稚子法師】
美しい男振に想を懸け、進んで嫁いで来たお信乃であるから、彼への貞節は云う迄も無い。子供の松太郎も美しく生い立ち、前途の憂などは更に無かった。しかし此儘彼の生活が平穏無事に過ぎ行くとしたら物語に綴る必要は無い。果然意外の災難が彼の一家に降って湧いた。 「近頃不思議の人攫いが徘徊するということだ」―「五才迄の子を攫って行くそうだ」 |
岡本綺堂 |
【深見夫人の死】
それは今度の列車にも、Kの町から乗り込む人があって、その人が又もや蛇を伴っているかも知れないということであったが、その期待はまったく外(はず)れてしまった。Kの町から乗った人もあり、Fの町で降りた人もあったが、いずれも平穏無事で、なんの人騒がせをも仕出来(しでか)さずに終ったので、わたしはひそかに失望しながら車外をぼんやり眺めていると、Fの駅の改札口をぬけて、十四、五人の乗客がつづいて出て来た。
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ドイル |
【世界怪談名作集 北極星号の船長 医学生ジョン・マリスターレーの奇異なる日記よりの抜萃】
私はもうこの日記をやめにしよう。われわれの帰路は平穏無事であり、大氷原もやがては単に過去の思い出となるであろう。少し経てば、私はこの事件によって受けた衝動(ショック)に打ち克(か)つことが出来よう。この航海日誌をつけ始めたとき、私はそれを終わりまで書かなければならないとは考えていなかった。
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加藤道夫 |
【なよたけ】
悪辣(あくらつ)な国司どもは官権を濫用(らんよう)して、不正を働き、私腹を肥(こや)して、人民を酷使(こくし)している。今こそ、長いこと忘れられていた正義の魂がとり戻されねばならぬ時なのだ!……まあ、幸い、ここ、相模(さがみ)の国だけはまだ平穏無事だとは云うものの……それでも、決して安心はしてはおられんのだ。
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豊島与志雄 |
【新妻の手記】
「淋しいでしょうけれど、辛棒して下さいよ。どんなに長くなっても一ヶ月で帰って来ます。」母はそう言って、家計簿をはじめすべてのものを、私の手に渡した。 思えば、表面は全く平穏無事で、何の風波もなかった。然し、母の心の中には、さまざまな暴風雨が荒れたことだろうと、私は自分の心中を顧みながら、推察するのである。 |
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