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眉目秀麗
びもくしゅうれい
作家
作品

泉鏡花

【伊勢之巻】

「いかがでございます、お酌(しゃく)をいたしましょうか。」
「いや、構わんでも可(い)い、大層お邪魔をするね。」
  ともの優しい、客は年の頃二十八九、眉目秀麗(びもくしゅうれい)、瀟洒(しょうしゃ)な風采(ふうさい)、鼠(ねず)の背広に、同一(おなじ)色の濃い外套(がいとう)をひしと絡(まと)うて、茶の中折(なかおれ)を真深う、顔を粛(つつ)ましげに、脱がずにいた。もしこの冠物(かむりもの)が黒かったら、余り頬(ほお)が白くって、病人らしく見えたであろう。

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宮本百合子

【海流】

 井上は、瑛子が手洗に立った時後について、贅沢な蝶貝入りの朝鮮小箪笥などが飾ってある廊下まで出て来た。そして瑛子の常識に訴えるように云った。
「何しろああいう有様だから、万一子供たちをゾロゾロつれて、あの年で妙なことでもされると困る。一つよろしく願いますよ」
「それもあなたの体面上でしょう。――」
  瑛子は井上の眉目秀麗な中年の豊かな顔から胸へ穿鑿する視線を流しながら、声を落して辛辣に囁いた。
「あなたもいいかげんにするもんですよ。母親が母親だからなんて――揚ちゃんが赤坊の時分、耳の後がただれてつかなかったのは誰のせいだか分っていらっしゃる筈じゃありませんか」

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寺田寅彦

【相撲】

 高等学校時代には熊本の白川の川原で東京大相撲を見た。常陸山(ひたちやま)、梅ケ谷、大砲などもいたような気がする。同郷の学生たち一同とともに同郷の力士国見山のためにひそかに力こぶを入れて見物したものである。ひいきということがあって始めて相撲見物の興味が高潮するものだということをこの時に始めて悟ったのであった。夜熊本の町を散歩して旅館研屋(とぎや)支店の前を通ったとき、ふと玄関をのぞき込むと、帳場の前に国見山が立っていて何かしら番頭と話をしていた。そのときのこの若くて眉目秀麗(びもくしゅうれい)な力士の姿態にどこか女らしくなまめかしいところのあるのを発見して驚いたことであった。

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坂口安吾

【明治開化 安吾捕物 その四 ああ無情】

 音次の車は翌日帝大の構内にすててあった。車の中に服装一式なげこまれていた。以上のような奇妙な報告がきていたのである。捨吉の話では眉目秀麗な青年紳士だが、音次の客は二十二三の女だという。話が合わない。そこで音次をよんで訊いてみた。
「ヘエ。チョウチンの明りでチョイと見ただけですが、ちょッとしたベッピンのようでした。なんしろ寒うござんすから、肩掛を鼻の上からスッポリ包みこんでいましたから、よくは分りません。頭はイギリス巻のようなハイカラでしたよ」

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上村松園

【眉の記】

 眉目秀麗にしてとか、眉ひいでたる若うどとか、怒りの柳眉を逆だててとか、三日月のような愁いの眉をひそめてとか、ほっと愁眉をひらいてとか……

 古人は目を心の窓と言ったと同時に眉を感情の警報旗にたとえて、眉についていろいろの言いかたをして来たものである。
  目は口ほどにものを言い……と言われているが、実は眉ほど目や口以上にもっと内面の情感を如実に表現するものはない。

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佐藤紅緑

【ああ玉杯に花うけて】

 見物人は拍手喝采(はくしゅかっさい)した、すねあてとプロテクターをつけた肩幅の広い小原は、マスクをわきにはさみ、ミットをさげて先頭に立った、それにつづいて眉目秀麗(びもくしゅうれい)の柳光一、敏捷(びんしょう)らしい手塚、その他が一糸みだれずしずかに歩を運んでくる。
「バンザアイ、浦中万歳」

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渡辺温

【ああ華族様だよ と私は嘘を吐くのであった】

 アレキサンダー君は、その自ら名告るところに依れば、旧露国帝室付舞踏師で、革命後上海から日本へ渡って来たのだが、踊を以て生業とすることが出来なくなって、今では銀座裏の、西洋料理店某でセロを弾いていると云う、つまり街頭で、よく見かける羅紗売りより僅かばかり上等な類のコーカサス人である。
  それでも、遉にコーカサス生れの故か、髪も眼も真黒で却々眉目秀麗(ハンサム)な男だったので、貧乏なのにも拘らず、居留地女の間では、格別可愛がられているらしい。
  ――アレキサンダー君は、露西亜語の他に、拙い日本語と、同じ位拙い英語とを喋ることが出来る。

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Last updated : 2024/06/28