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美酒佳肴
びしゅかこう
作家
作品

中里介山

【大菩薩峠 白雲の巻】

「では、茂――ムク――」
  白雲は茂太郎とムクとをこの船に引きずり込み、やがて、風流瀟洒しょうしゃたるこの月見船は、松島湾の波の上を音もなく辷(すべ)り出しました。
  果して、興は船の進むと共に進みました。美酒佳肴の用意も申すまでもなく、丹青翰墨たんせいかんぼくの具まで備わらずということはありません。
  興に乗じて、白雲は筆をとって直ちに眼前の景を描きました。
「これへ一筆――」
  玉蕉女史に向って賛を求めると、女史も辞することなく達筆をふるいました。

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Last updated : 2024/06/28