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百発百中
ひゃっぱつひゃくちゅう |
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作家
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作品
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中島敦 |
【名人伝】
趙(ちょう)の邯鄲(かんたん)の都に住む紀昌(きしょう)という男が、天下第一の弓の名人になろうと志を立てた。己(おのれ)の師と頼(たの)むべき人物を物色するに、当今弓矢をとっては、名手・飛衛(ひえい)に及(およ)ぶ者があろうとは思われぬ。百歩を隔(へだ)てて柳葉(りゅうよう)を射るに百発百中するという達人だそうである。紀昌は遥々(はるばる)飛衛をたずねてその門に入った。
目の基礎訓練に五年もかけた甲斐(かい)があって紀昌の腕前(うでまえ)の上達は、驚くほど速い。 |
内田魯庵 |
【人相見】
三十年も前の話、戸川残花がヒヨツコリやつて来て曰く、数寄屋橋外に頗る上手な人相見がある、百発百中で数寄屋橋教会の会員は皆信じてゐるんで坪内君と一緒に実験に出掛ける筈になつてるが、君も一緒に行かないかといふ話で、約束の日を打合はして当日三人して出掛けた。
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太宰治 |
【ロマネスク】
一年の修行ののち、枯木の三角の印は椀くらいの深さに丸くくぼんだ。次郎兵衛は考えた。いまは百発百中である。けれどもまだまだ安心はできない。相手はこの根株のようにいつもだまって立ちつくしてはいない。動いているのだ。
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太宰治 |
【花吹雪】
あの、八幡太郎義家でも、その風流、人徳、兵法に於いて優れていたばかりでなく、やはり男一匹として腕に覚えがあったから、弓馬の神としてあがめられているのである。弓は天才的であったようだ。矢継早(やつぎばや)の名人で、機関銃のように数百本の矢をまたたく間にひゅうひゅうと敵陣に射込み、しかも百発百中、というと講談のようになってしまうが、しかし源氏には、不思議なくらい弓馬の天才が続々とあらわれた事だけは本当である。血統というものは恐ろしいものである。酒飲みの子供は、たいてい酒飲みである。頼朝だって、ただ猜疑心(さいぎしん)の強い、攻略一ぽうの人ではなかった。
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織田作之助 |
【猿飛佐助】
「明けて口惜しい竜宮土産、玉手の箱もたまには明かぬ……」と、例の調子を弾ませて、 「――明けてたまるか風穴一つ、と申すのもこの顔一面、疱瘡の神が手練の早業、百発百中の手裏剣の跡が、網代の目よりもなお厳重に、赤い鰯のうぬが手裏剣、仇な一匹もらしはせじと、見張って取り巻くあまたのアバタ、あの字づくのアバタの穴が、空地あけずに葦のまろ屋、さては庵室あばら屋と、軒を並べた雨戸を明けりゃ、旭の登る勢いに、薊の花の一盛り、仇な姿に咲きにおう、アバタの穴の花見酒、呆れが礼を言いに来る、あたら男を台なしの、信州にかくれもなきアバタ男猿飛佐助とは俺のことだ」 |
寺田寅彦 |
【自然現象の予報】
予報の可能不可能という事は、考え方によればあまりに無意味なる言葉なり。例えば今月中少なくも各一回の雨天と微震あるべしというごとき予報は何人も百発百中の成効を期して宣言するを得べし。ここに問題となるは予報の実用的価値を定むべき標準なり。
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宮原晃一郎 |
【風変りな決闘】
ダンリ中尉もいさゝか驚いたやうだが、今度は他(ほか)の人に銅貨を空にほふり上げさせて、それが地面に落ちきらないうちに、ポン/\打つのだつた。百発百中で、見てゐる多くの仏人たちはその見事さに手を拍つて悦んだ。けれども上村少佐にだつてそんなことはお茶の子さい/\だつた。
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佐藤垢石 |
【鯛釣り素人咄】
シャックった道糸が再び海底へ沈んでいく途中、まだ海面に出ている部分の糸が僅かに異状を示したとき合わせれば、百発百中である。しかし、この糸のフケを眼に認め得るようになるまでには余程の経験を積まなければならないのであって、初心者に難しい問題である。だから、シャクルことが即ち空(から)合わせになるように、一度シャクルにも努めて心を入れて、味を見ながらシャクらなければうまく合わせの機会に当たらないのだ。
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国枝史郎 |
【銅銭会事変】
当時易学で名高かったのは、新井白峨と平沢左内、加藤左伝次は左内の高弟、師に譲らずと称されていた。左内の専門は人相であったが、左伝次の専門は易断であった。百発百中と称されていた。
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海野十三 |
【のろのろ砲弾の驚異 ――金博士シリーズ・1――】
――それはまあ大したことがないが、わしの自慢したいのは、この砲弾は、はじめに目標を示したら、その目標がどっちへ曲ろうが、どこまでもその目標を追いかけていくことだ。だから、百発百中だ」「ほう、おどろきましたな。目標を必ず追いかけて、外(はず)さないなんて、そんなことが出来ますか」 |
夢野久作 |
【探偵小説の正体】
探偵小説はジフテリヤの血清に似ている。ジフテリヤの血清をジフテリヤ患者に注射するとステキに利く。百発百中と云ってもいい位おそろしい効果を以て、ジフテリヤの病源体をヤッツケてしまうらしい。
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