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無事息災
ぶじそくさい |
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作家
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作品
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菊池寛 |
【恩を返す話】
太平の日が始まる。が、甚兵衛は、戦中と同じような緊張した心持で、報恩の機会を狙った。宿直を共にする夜などは、惣八郎の身に危難が迫る場合をいろいろに空想した。参勤(さんきん)の折は、道中の駅々にて、なんらかの事変の起るのを、それとなく待ったこともある。 しかし、惣八郎は無事息災であった。事変の起りやすい狩場などでも、彼は軽捷(けいしょう)に立ち回って、怪我一つ負わなかった。その上に、忠利侯の覚えもよかった。 |
折口信夫 |
【古代生活の研究 常世の国】
此船の画は、とりも直さず大祓式の分岐したものなる事は、其行ふ日からしても知れる。其上、尚、大殿祭(オホトノホカヒ)に似た意味も含まれてゐる。其家屋に住み、出入りする者に負せた一種の課役のやうなものである。其等の無事息災よりも、まづ其人々の宗教的罪悪(主として触穢(ソクヱ))の為に、主人の身上家屋に禍ひの及ばない様にするのであつた。此風が陰陽師(オンミヤウジ)等の手にも移つたものと見えて、形代に種類が出来て、禊(ミソギ)の為の物の外、かうした意味の物が庶民にも頒たれる様になり、遂には呪符の様な観念が結ばれて来たらしい。
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坂口安吾 |
【青鬼の褌を洗う女】
グルリと空を見廻したあの時の私の気持というものは、壮観、爽快、感歎、みんな違う。あんなことをされた時には私の頭は綿のつまったマリのように考えごとを喪失するから、私は空襲のことも忘れて、ノソノソ外へでてしまったら、目の前に真ッ赤な幕がある。火の空を走る矢がある。押しかたまって揉み狂い、矢の早さで横に走る火、私は吸いとられてポカンとした。何を考えることもできなかった。それから首を廻したらどっちを向いても真ッ赤な幕だもの、どっちへ逃げたら助かるのだか、私はしかしあのとき、もしこの火の海から無事息災に脱出できれば、新鮮な世界がひらかれ、あるいはそれに近づくことができるような野獣のような期待に亢奮した。
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宮本百合子 |
【文芸時評】
私は何か一口に云いきれない苦しい心持で光る針に三遍赤糸をからめては小さいコブをこしらえて、お辞儀をしてかえした。外科的な専門の立場で云うと、千人針を体につけていて弾丸に当ると、弾丸の方は比較的たやすく抜き出すことが出来るが、小さい糸こぶをもった布切れがどうしても傷の奥ふかく食いこんでのこって生命のために危険なのだそうである。こうやって道行く人々をとらえてその千人針を懸命にこしらえている人々は、そういう事実を恐らくは知っていないであろう。知っているにしても、せめてはそれも心やりからで、出征してゆくものの無事息災を希う家族の気持がじかに迫って来て、縫うことを冷たく拒み得ないものがある。
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佐々木味津三 |
【旗本退屈男 第八話 日光に現れた退屈男】
主水之介至極無事息災じゃ。旅は江戸よりずんと面白いぞ。さて、そなたに火急の用あり。飛脚に立てたるこの者共を道案内に、宿継(しゅくつ)ぎの早駕籠にて早々当地へ参らるべし、お待ち申す。
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佐々木味津三 |
【右門捕物帖 明月一夜騒動】
「ところが、物は当たってみるもんじゃねえか。碁石の音をきいて、とんだ忘れ物をいま思い出したよ。さっき北村の大学先生から、だいじなことで聞き忘れていたことが一つあるはずだが、おめえは思い出さねえのかい」「…………?!」 「印形だよ。封印に使った印形が無事息災かどうか、肝心なそいつをちっとも聞かなかったじゃねえか」 「ちげえねえ、ちげえねえ」 名人にも似合わない大きな忘れ物でしたから、ほとんど一足飛びでした。質屋の筋向かいといったのを目あてに、すぐさま北村大学方を訪れました。 |
岡本綺堂 |
【半七捕物帳 津の国屋】
重ねがさね忌な話ばかり聞かされるのと、ゆうべ碌々に眠らなかった疲れとで、文字春はいよいよ気分が悪くなって、午(ひる)からは稽古を休んでしまった。そうして、仏壇に燈明を絶やさないようにして、ゆうべ道連れになったお安の成仏(じょうぶつ)を祈り、あわせてお雪と自分との無事息災を日頃信心する御祖師様に祈りつづけていた。その晩も彼女はやはりおちおち眠られなかった。
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林不忘 |
【丹下左膳 乾雲坤竜の巻】
今宵の乱闘にまたもや敗けをとりながら、こうしてそれでも歩は一歩と江戸へ近づく相馬中村の剣群月輪の勢、路傍の小祠(しょうし)にいこって頭数を検するに、こいつだけは無事息災(ぶじそくさい)、まっさきに逃げ出して来たつづみの与吉のほかに、二十八人のうちから死者大屋右近、乾万兵衛、小松数馬、里村狂蔵の四名を出し、残りの二十四名のなかにも重軽の金創(きんそう)火創を受けて歩行困難を訴えるもの三人……目的地(めあて)とする江戸との間にまだ四十里の山河をへだてているにすでにこの減勢とは、統帥(とうすい)軍之助の胸中、早くもうたたうらさびしいものがひろがるのだった。
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ナサニエル・ホーソン 三宅幾三郎訳 |
【ワンダ・ブック――少年・少女のために――】
『お帰りなさい、』彼等はみんなで叫びました。『御自分のおうちへお帰りなさい! あなたのお母さまは、あなたの無事息災な姿を見て、うれし涙にくれるでしょう。たとえあなたが竜に勝って帰ったところで、お母さまがそれ以上お喜びになれるわけはないでしょう。金の林檎なんか、どうだっていいじゃありませんか! あなたのひどいいとこの王様なんか、かまうものですか! あたし達は、百の頭をしたあの竜なんかに、あなたをたべさせたくないのです!』
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