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武陵桃源
ぶりょうとうげん |
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作家
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作品
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與謝野晶子 |
【初島紀行】 私達は島に來て、傳説的な想像は少しく幻滅しましたが、併し温暖な氣候と日光との中に、滿山の椿と水仙とを目にした實感は猶武陵桃源の趣がありました。午後二時半に島を辭しようとすると、區長さんが島人を代表して澤山の蠑螺を返禮に贈つて下さいました。歸りの船は午後五時前に伊豆山の相模屋の裏手の磯へ着きました。歸つてから、良人は初島の歌を澤山に作りました。 |
寺田寅彦 |
【雨の上高地】
雨の上高地は矢張り美しかつた。中の湯あたりから谷が迫つて景色が峻しく荒涼な鬼気を帯びて来る。それが上高地へ来ると実に突然になごやかな平和な景色に変化する。鬼の棲家を過ぎて仙郷に入るやうな気がして昔の支那人の書いた夢のやうな物語を想出すのである。シー、ピー、スクラインがパミールの岩山の奥に「幸福の谷」を発見した記事を読んだときに所謂武陵桃源の昔話も全くの空想ではないと思つたことであつたがその武陵桃源の手近な一つの標本を自分は今度雨の上高地に見出したやうである。 |
中里介山 |
【大菩薩峠 年魚市の巻】
そうして、その難路を分け入って、白川村に着いて見れば、土地は美しく、人情は潤(うるお)い、生活の苦もなく、相互の扶助が調(ととの)い、しかも遠人を愛して、悪人といえども、悔いて身を寄するものは、赦(ゆる)して永久に養うことを厭(いと)わない、ひとたびこれに入ったものは、永久に帰ることを忘れる、というような――太古の民、神代の風、武陵桃源の理想郷といったようなものが、よくよくお雪の脳裡に描き出されて、あこがれに堪えられないらしい。そのあこがれがあるところへ、目下の身辺の、なんとなく不安を感じ出したものですから、その想像が、いよいよ切実に誘いきたるもののようです。
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