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不可抗力
ふかこうりょく
作家
作品

森鴎外

【大塩平八郎】

 平八郎は足の裏が燃(も)えるやうに逃げて来た道を、渇(かつ)したものが泉を求めて走るやうに引き返して行く。傍(はた)から見れば、その大阪へ帰らうとする念は、一種の不可抗力のやうに平八郎の上に加はつてゐるらしい。格之助も寺で宵(よひ)と暁(あかつき)とに温(あたゝか)い粥(かゆ)を振舞(ふるま)はれてからは、霊薬(れいやく)を服したやうに元気を恢復して、もう遅れるやうな事はない。併(しか)し一歩々々危険な境に向つて進むのだと云ふ考(かんがへ)が念頭を去らぬので、先に立つて行く養父の背を望んで、驚異の情の次第に加はるのを禁ずることが出来ない。

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芥川龍之介

【馬の脚】

俺も古本屋を前に見たまま、一足(ひとあし)ずつ後へ下り出した。この時の俺の心もちは恐怖と言うか、驚愕(きょうがく)と言うか、とうてい筆舌(ひつぜつ)に尽すことは出来ない。俺は徒(いたず)らに一足でも前へ出ようと努力しながら、しかも恐しい不可抗力のもとにやはり後へ下って行った。そのうちに馭者の「スオオ」と言ったのはまだしも俺のためには幸福である。俺は馬車の止まる拍子(ひょうし)にやっと後(あと)ずさりをやめることが出来た。

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菊池寛

【私の日常道徳】

一、約束は必ず守りたい。人間が約束を守らなくなると社会生活は出来なくなるからだ。従って、私は人との約束は不可抗力の場合以外破ったことがない。ただ、時々破る約束がある。それは原稿執筆の約束だ。これだけは、どうも守り切れない。

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菊池寛

【忠直卿行状記】

た。
 横目付からその届出があると、忠直卿は手にしていた杯を、ぐっと飲み干されてから、微かな苦笑を洩されたまま、なんとも言葉はなかった。家中一同の同情は、翕然(きゅうぜん)として死んだ二人の武士の上に注がれた。「さすがは武士じゃ。見事な最期じゃ」と、褒めそやす者さえあった。が、人々はこの二人を死せしめた原因を、ただ不可抗力な天災だと考えていた。一種の避くべからざる運命のように思っていた。

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与謝野晶子

【晶子詩篇全集】

知識も現実で無い、
経験も過去のものである。
みんな黙つて居て下さい、
みんな傍観者の位置を越えずに居て下さい。

わたしは唯(た)だ一人(ひとり)、
天にも地にも唯(た)だ一人(ひとり)、
じつと唇を噛(か)みしめて
わたし自身の不可抗力を待ちませう。

生むことは、現に
わたしの内から爆(は)ぜる
唯(た)だ一つの真実創造、
もう是非の隙(すき)も無い。

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与謝野晶子

【平塚さんと私の論争】

 平塚さんが「母の職能を尽し得ないほど貧困な者」に対して国家の保護を要求せられることには勿論私も賛成します。しかしその事を以て、私が「老衰者や癈人が養育院の世話になるのと同一である」といったことを、平塚さんが「間違っている」といわれるのは合点が行きません。老衰者や癈人の不幸はあるいは不可抗力的な運命に由ってその境遇に追い入れられるとも考えられるのですが、貧困にして母の職能を尽し得ない婦人の不幸は、私たちの主張するように、経済的に独立する自覚と努力とさえ人間にあればその境遇に沈淪(ちんりん)することを予(あらかじ)め避けることの出来る性質の不幸だと思います。

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岸田國士

【著作権の精神的擁護】

 今度は私が実際に遭遇した経験であるが、ある原稿をある書店に売渡したが、その書店はその原稿を活字にする前に紛失してしまつた。(その後、その書店は火災にあつたから、その時焼失したとすれば、不可抗力だから問題は別であるが)処で、その書店は、既に原稿料を払つて、著作権の譲渡を受けてゐるのであるから、紛失しやうが、どうしやうがそれは自分の損失にこそなれ、著者に取つては何等損害にはならぬと考へてをれば大間違ひである。(著者は原稿を書店に売渡す前に手もとに「原稿の控へ」を保存して置くべきであつたといふ非難を受ければそれまでゝあるが)

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織田作之助

【土曜夫人】

「あ。そうね」
 と、春隆は例のいんぎんな調子で、腰を下したが、貴子のそんな言い方が何だか面白くなかった。雨が降り込むことをうっかり忘れていた間抜けさ加減を嗤われた――と思い込むほど、春隆も貴族の没落を感じている昨今妙にひがみ易くなっていた。
 一つには、煤が眼にはいった不快さも手伝っていた。煤が眼にはいるのは不可抗力とはいうものの、春隆はそれをくしゃみのように恥かしいことだと感ずる男だったのだ。煤というものは下賤の人間だけにはいるものだと思っているのだろう。
 むっとしながら眼をこする代りに、だから春隆はその手で貴子の手を握ることを思いついた。

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宮本百合子

【道標】

「長原吉之助のファンは、ああいうところまではいってるのかな」
 そういう素子に吉之助は却って訊ねるような視線を向けた。
「一度楽屋で見かけた方には相違ないんですが……」
 素子は何か考えるようにパイプをかんでいたが、やがて、
「気にすることはありませんよ」
と云った。
「俳優にどんなファンがいたって、ある意味じゃ不可抗力なんだから」
 一日おいた冬の晴れた朝、吉之助は予定どおりモスクを出るシベリア鉄道へのりこんだ。

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北條民雄

【いのちの初夜】

 「こんな暗いところでは――」
 それでもようやくそう言いかけると、
 「もちろん良くありません。それは僕にも解っているのですが、でも当直の夜にでも書かなければ、書く時がないのです。共同生活ですからねえ」
 「でも、そんなにお焦(あせ)りにならないで、治療をされてから――」
 「焦らないではいられませんよ。良くならないのが解りきっているのですから。毎日毎日波のように上下しながら、それでも潮が満ちて来るように悪くなって行くんです。ほんとに不可抗力なんですよ」
 尾田は黙った。佐柄木も黙った。歔欷きがまた聞こえて来た。
 「ああ、もう夜が明けかけましたね」

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寺田寅彦

【災難雑考】

これではまるで責任というものの概念がどこかへ迷子(まいご)になってしまうようである。はなはだしい場合になると、なるべくいわゆる「責任者」を出さないように、つまりだれにも咎(とが)を負わさせないように、実際の事故の原因をおしかくしたり、あるいは見て見ぬふりをして、何かしらもっともらしい不可抗力によったかのように付会してしまって、そうしてその問題を打ち切りにしてしまうようなことが、つり橋事件などよりもっと重大な事件に関して行なわれた実例が諸方面にありはしないかという気がする。

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国枝史郎

【高島異誌】

「左様、隙間があったればこそ、魅入られたのでござろうがの」
「益々以って異なお言葉、親友とて聞捨てならぬ! 先ず聞かれい筒井殿、これが人間と人間との、相対太刀討又は議論に、打ち敗かされたと申すなら、いかにも武道不鍛錬の隙間と申されても為方ござらぬが、名に負う相手は妖怪でござる。しかも神変不思議の術を自在に使う恐ろしき奴! 魅入られるのは不可抗力じゃ! なんと左様ではござらぬかな?」
 併し松太郎は嘲笑って益々自説を固執した。
「いやいや人間であろうとも乃至は鬼畜であろうとも相手としては、同じ事じゃ! 不可抗力などとは卑怯な云い分……」
「黙れ!」
 と、突然喝破して、ムックリ純八は立ち上がり、刀の束へ手を掛けた。

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島木健作

【鰊漁場】

――だがそれも、袋小路からの出口を求めて散々のたうちまわったあげくのはてなのだから、今更どうにも仕方がなかった。村での源吉はほんとうに身を粉にして働いて来たのだ。いいという畑作物はなんでも作ってみた。副業も一通りはやってみた。土木事業の出面(でめん)にも出た。冬には木樵もやった。しかも年中南瓜と芋ばかり食っていなければならないとすれば、――南瓜と芋ばかり食いながら、しかもなお毎年毎年小作料と税金の滞納に苦しめられなければならないとすれば、一体どうしたらいいんだ。出口はもうない。えたいの知れない不可抗力にずるずると引ずりこまれて行くばかりだ。いらだたしい思いがぐっと胸をつきあげて来て、糞でも食らえと彼はふたたび荒々しく肚のなかで叫んだ。

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山本勝治

【十姉妹】

この新らしい薪であるべき事柄が、何時の間にか石綿の様に燃えなくなった以上に、却って自分を卑怯にする鞭の役目を努めるとは、前線に立つ者にとって致命傷だと思った。だが、この理智に頓着なく慎作の心は懐疑に燻って羊の様に繊弱なものになる一方であった。理智と思想に於てはまだ、決して曇っていないと確信しているだけに、この脆弱な感情の泥沼から匍いあがろうとする焦燥は一倍強かったが、次々と周囲に起る事柄が反抗を薄めて、不可抗力に裾をかまれた様に動きがとれないのだった。
 そうだ。第一に暗い一家の現在が、慎作をひしぐ力の最大なものに違いはなかった。

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谷譲次

【踊る地平線 長靴の春】

 鈍い音を立てて、戸口が人を吸い込んだ。その人は、激しく投げ出された身体(からだ)が、機会的にルセアニア人の寝台を打って、その拍子に彼と並んで、そうして私と向き合って、上手に腰かけたので、やっと倒れることから自分を防いだ。それは、指を鳴らしたような出来事だった。私は、ルセアニア人へ話しかけようとしていた言葉を、唇の上で揉(も)み消したまま、この不可抗力による闖入者(ちんにゅうしゃ)を観察(スタディ)した。

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坂口安吾

【青鬼の褌を洗う女】

私は嫌いな人にでも今日は用があるから帰ってなどとはいえないたちで、まして仲よしの隠居ジイサンだから、帰って、とはとてもいえない。私は私の意志によってどっちの好きな人を犠牲にすることもできないから、眼前に在る力、現実の力というものの方にひかれて一方がおろそかになるまでのことで、これは私にとっては不可抗力で、どうすることもできないのだもの。

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夢野久作

【空を飛ぶパラソル】

 前のパラソル事件以来、私はピッタリと盃を手にしなくなった。それでも時折りはたまらなく咽喉(のど)が鳴るのであったが、飲めば必ず酔う……酔えばキット空色のパラソルの幻影(イリュージョン)を見る……ガタガタと慄え出す……という不可抗力のつながりに脅かされて、とうとう絶対の禁酒状態に陥ってしまったので、そんな事を知らない連中(みんな)を、かなり不思議がらせたらしい。

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中里介山

【大菩薩峠 鈴慕の巻】

 今日は、お正午(ひる)少し過ぎに、山の神主が来たものですから、すなわちその時が会議の定刻となりました。山の神主は例によって、えびす様そのもののような笑顔をたたえきって、もろもろの話をはじめました。
 下で神主が、もろもろの話をはじめている時分、宇津木兵馬は二階で日記を書いておりました。
 兵馬に感心なのは旅日記を書くことで、不可抗力の際でもなければ、曾(かつ)てこれを怠るということがありません。

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Last updated : 2024/06/28