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不即不離
ふそくふり |
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作家
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作品
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夏目漱石 |
【吾輩は猫である】
「書物は商買道具で仕方もござんすまいが、よっぽど偏屈(へんくつ)でしてねえ」迷亭はまた別途の方面から来たなと思って「偏屈は少々偏屈ですね、学問をするものはどうせあんなですよ」と調子を合わせるような弁護をするような不即不離の妙答をする。「せんだってなどは学校から帰ってすぐわきへ出るのに着物を着換えるのが面倒だものですから、あなた外套(がいとう)も脱がないで、机へ腰を掛けて御飯を食べるのです。
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夏目漱石 |
【草枕】
紫でちょっと切れた図面が、二三寸の間隔をとって、振り返る男の体(たい)のこなし具合で、うまい按排(あんばい)につながれている。不即不離(ふそくふり)とはこの刹那(せつな)の有様を形容すべき言葉と思う。女は前を引く態度で、男は後(しり)えに引かれた様子だ。しかもそれが実際に引いてもひかれてもおらん。両者の縁(えん)は紫の財布の尽くる所で、ふつりと切れている。
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芥川龍之介 |
【あの頃の自分の事】
作家としての氏を見る眼と、思想家としての氏を見る眼と――この二つの間には、又自らな相違があつた。作家としての武者小路氏は、作品の完成を期する上に、余りに性急な憾(うらみ)があつた。形式と内容との不即不離な関係は、屡(しばしば)氏自身が「雑感」の中で書いてゐるのにも関らず、忍耐よりも興奮に依頼した氏は、屡実際の創作の上では、この微妙な関係を等閑に附して顧みなかつた。
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有島武郎 |
【或る女(前編)】
そこからだんだん細く糸のようにつながれて若い留学生とか学者とかいう連中が陣を取り、それからまただんだん太くつながれて、葉子と少年少女らの群れがいた。食堂で不意の質問に辟易(へきえき)した外交官補などは第一の連絡の綱となった。衆人の前では岡は遠慮するようにあまり葉子に親しむ様子は見せずに不即不離の態度を保っていた。遠慮会釈なくそんな所で葉子になれ親しむのは子供たちだった。
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有島武郎 |
【或る女(後編)】
しかし葉子はこの以前倉地の見ている前でしたようにずたずたに引き裂いて捨ててしまう事はしなかった。しなかったどころではない、その中には葉子を考えさせるものが含まれていた。木村は遠からずハミルトンとかいう日本の名誉領事をしている人の手から、日本を去る前に思いきってして行った放資の回収をしてもらえるのだ。不即不離の関係を破らずに別れた自分のやりかたはやはり図にあたっていたと思った。
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萩原朔太郎 |
【宿命】
文學の作家が、その作品の準備された「覺え書」を公開するのは、奇術師が手品の種を見せるやうなものだ。それは或る讀者にとつて、興味を減殺することになるかも知れないが、或る他の讀者にとつては、別の意味で興味を二重にするであらう。「詩の評釋は、それ自身がまた詩であり、詩でなければならぬ。」とノヴアリスが言つてるが、この私の覺え書的自註の中にも、本文とは獨立して、それ自身にまた一個の文學的エツセイとなつてる者があるかも知れぬ。とにかくこの附録は、本文の詩とは無關係に、また全然無關係でもなく、不即不離の地位にある文章として、讀者の一讀を乞ひたいのである。
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折口信夫 |
【組踊り以前】
而も、神遊(シンイウ)から出た芸能である為に、顔面表情は固より、しぐさ・ふりごとを採用するには、困難な事情が考へられる。宮廷や、按司一族との交渉が尠ければ、狂言の方の要素が、濃くなつたらう。さうすると、科白に伴ふ動作表情を主とする劇が、出来るはずであつた。だが、さうは進まないで、歌謡と不即不離の、舞踊劇の方に趨いた。
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菊池寛 |
【貞操問答】
「許すも許さないも、ないけれど。だって……」と、云いさして、こらえ切れなくなり、妹から顔をそむけた。 美和子も、涙をこらえていた。彼女は、自分が、美沢と交際することが、こんなにまで姉を苦しめるとは思っていなかった。幼かったとき、姉がよく玩具(おもちゃ)などについての無理を聞いてくれたほどの手ぬるさで、許してくれると思っていた。だって、お姉さまは、美沢さんに不即不離だったんだもの、私の方がハッキリ愛しているんだものと、思っていた。だから、姉がこんなに狼狽し、こんなに悲しがるとは思わなかった。それで彼女も、悲しくなって、うつむいて、靴下の爪先に、ぽたりと涙を落した。
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寺田寅彦 |
【俳諧の本質的概論】
各句にすでに旋律があり和音(かおん)があり二句のそれらの中に含まれる心像相互間の対位法的関係がある。連歌に始まり俳諧に定まった式目のいろいろの規則は和声学上の規則と類似したもので、陪音の調和問題から付け心の不即不離の要求が生じ、楽章としての運動の変化を求めるために打ち越しが顧慮され去(さ)り嫌(きら)い差合(さしあい)の法式が定められ、人情の句の継続が戒められる。
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林不忘 |
【丹下左膳 乾雲坤竜の巻】
珍妙奇天烈(きてれつ)な二人行列。それが、陽うららかな宇都宮街道を、先が急げば後もいそぎ、緩急停発(ていはつ)ともに不即不離(ふそくふり)のまま、どこまでもどこまでもと練っていくところ、人が見たらずいぶんおもしろい図かも知れないが、当(とう)の与吉の身になると文字どおり汗だくの有様で、兄哥(あにい)すっかり逆上(あが)ってしまっている。 |
小栗虫太郎 |
【黒死館殺人事件】
支倉君、僕の魔法史的考察はついに徒労ではなかったのだ。散々(さんざん)ぱら悩まされた五芒星呪文の正体が、ものもあろうに、ルイ十三世朝機密閣(ブラック・キャビネット)史の中から発見されたのだよ。いや言葉を換えて云おう。当時不即不離の態度だったけれども、新教徒の保護者グスタフス・アドルフス(瑞典(スウェーデン)王)と対峙していたのが、有名な僧正宰相リシュリュウだったのだ。
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