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不承不承/不請不請
ふしょうぶしょう |
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作家
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作品
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芥川龍之介 |
【鼻】
しかし自分でも満足するほど、鼻が短く見えた事は、これまでにただの一度もない。時によると、苦心すればするほど、かえって長く見えるような気さえした。内供は、こう云う時には、鏡を箱へしまいながら、今更のようにため息をついて、不承不承にまた元の経机(きょうづくえ)へ、観音経(かんのんぎょう)をよみに帰るのである。
内供は、不足らしく頬をふくらせて、黙って弟子の僧のするなりに任せて置いた。勿論弟子の僧の親切がわからない訳ではない。それは分っても、自分の鼻をまるで物品のように取扱うのが、不愉快に思われたからである。内供は、信用しない医者の手術をうける患者のような顔をして、不承不承に弟子の僧が、鼻の毛穴から鑷子(けぬき)で脂(あぶら)をとるのを眺めていた。脂は、鳥の羽の茎(くき)のような形をして、四分ばかりの長さにぬけるのである。 |
芥川龍之介 |
【沼地】
相手は無頓着(むとんちゃく)にこう云いながら、剃刀(かみそり)を当てたばかりの顋(あご)で、沼地の画をさし示した。流行の茶の背広を着た、恰幅(かっぷく)の好(い)い、消息通を以て自ら任じている、――新聞の美術記者である。私はこの記者から前にも一二度不快な印象を受けた覚えがあるので、不承不承(ふしょうぶしょう)に返事をした。
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芥川龍之介 |
【或日の大石内蔵助】
「承れば、その頃京都では、大石かるくて張抜石(はりぬきいし)などと申す唄も、流行(はや)りました由を聞き及びました。それほどまでに、天下を欺き了(おお)せるのは、よくよくの事でなければ出来ますまい。先頃天野弥左衛門(あまのやざえもん)様が、沈勇だと御賞美になったのも、至極道理な事でございます。」 「いや、それほど何も、大した事ではございません。」内蔵助は、不承不承(ふしょうぶしょう)に答えた。
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芥川龍之介 |
【竜】
あの高札の文句を書いたものは自分だと重々(じゅうじゅう)承知しながら、それでも恵印は次第次第に情けない気もちが薄くなって、自分も叔母の尼と同じように飽かず池の面(おもて)を眺め始めました。また成程(なるほど)そう云う気が起りでも致しませんでしたら、昇る気づかいのない竜を待って、いかに不承不承(ふしょうぶしょう)とは申すものの、南大門(なんだいもん)の下に小一日(こいちにち)も立って居る訳には参りますまい。
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芥川龍之介 |
【西郷隆盛】
老紳士はこう云うと、瀬戸物のパイプをポケットへしまいながら、眼で本間さんに「来給え」と云う合図(あいず)をして、大儀そうに立ち上った。こうなっては、本間さんもとにかく一しょに、立たざるを得ない。そこでM・C・Cを銜(くわ)えたまま、両手をズボンのポケットに入れて、不承不承(ふしょうぶしょう)に席を離れた。そうして蹌踉(そうろう)たる老紳士の後(うしろ)から、二列に並んでいるテエブルの間を、大股に戸口の方へ歩いて行った。後(あと)にはただ、白葡萄酒のコップとウイスキイのコップとが、白いテエブル・クロオスの上へ、うすい半透明な影を落して、列車を襲いかかる雨の音の中に、寂しくその影をふるわせている。
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有島武郎 |
【或る女(後編)】
「そんな負け惜しみをいわんで、妹たちなり定子なりを呼び寄せようや」 そういって倉地は葉子の心をすみずみまで見抜いてるように、大きく葉子を包みこむように見やりながら、いつもの少し渋いような顔をしてほほえんだ。 葉子はいい潮時を見計らって巧みにも不承不承(ふしょうぶしょう)そうに倉地の言葉に折れた。そして田島の塾(じゅく)からいよいよ妹たち二人(ふたり)を呼び寄せる事にした。同時に倉地はその近所に下宿するのを余儀なくされた。
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菊池寛 |
【入れ札】
喜蔵 (五十両包みをこわしながら)さあ、みんな遠慮なく取ってくれ。(喜蔵。遠慮する子分たちに、分けてやる)九郎助兄い。何を考えているのだ、われも手を出しなせえ。(九郎助、不承不承に手をさし出す) 忠次 じゃ俺たちは、一足先に立つぜ。みんな気をつけて、行ってくれ。 一同 親分、ごきげんよう。お気をおつけなせえませ。 才助 浅兄い頼んだぜ。 |
宮本百合子 |
【道標】
プリニマーチという動詞を、伸子は薬なんかを服用するというとき使う言葉としてしかしらなかった。その日も一日雪だった。伸子たちがモスクへ着いて間もなかった去年の季節の風景そのまま、来年の春まで街々をうずめて根雪となるこまかい雪が間断なく降りつづけた。 正餐のとき、それまでどこにも姿を見せなかった細君が不承不承な様子で寝室から出て来た。 |
堀辰雄 |
【晩夏】
人に訊(き)いてきたレエクサイド・ホテルとか云う、外人相手の小さなホテルだけでも明いていて呉れればいいが――と思って、湖畔で乗合から降り、船の発着所まで往って、船頭らしいものを捉えて訊くと、「さあ、レエクサイドはどうかな?」と不承不承に立って、南の方の外人部落らしい、赤だの、緑だのの屋根の見える湖岸を見やっていたが、 「あの一番はずれに見える屋根がホテルだがね、まだ旗が出ているようだから、やってましょう。――お往きなさるかい?」 |
大杉栄 |
【自叙伝】
中尉は軍曹を呼んだ。そしてこういったその考えを、僕にも聞かせるようにして話して、本人の将来のためにその報告書を破ってくれないかと頼むように言った。軍曹は不承不承に承知した。が、それ以来軍曹や曹長の目はますます僕の上に鋭くなった。 |
三遊亭圓朝 |
【根岸お行の松 因果塚の由来】
若「エ、おつりきとは、そりゃなんの事で」勝「なにさ、それは此方(こっち)のことで」 と申しながら不承不承請合いまして、下谷二長町からドン/\根岸へやってまいりました。高根晋齋は庭に出て頻りに掃除をなすっていらっしゃいます。そのお座敷は南向でございますから、日が一杯にあたって誠に暖(あった)かでげすから、病人のお若さんも縁側へ出て日向(ひなた)ぼこりをいたしながら伯父さんと談(はなし)をいたしておりますところへ、書生さんがお出でになりまして、 |
田中貢太郎 |
【一緒に歩く亡霊】
姉の子はフジと云ってその時十二三歳の小女(こむすめ)であった。フジは他に引とる者がないので、甚六は不承不承に引とったが、今も云ったように冷酷な男であるから、その小女を野良犬か何かが家へ入って来たようにして、酷待(いじ)めて酷待めて酷待めぬいた結局(あげく)、ちょっとした品物が無くなると、これもその所業(しわざ)だと云って、泣き叫ぶ小女を裏の栗の木に縛りつけて飯も与えず、夜になってもかまわずに打ちゃってあった。
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中里介山 |
【大菩薩峠 東海道の巻】
「これはお前さんの犬でございますかい」「そうだ」 船頭が不承不承(ふしょうぶしょう)に棹を下ろすと、犬はヒラリと舟の中へ飛んで乗りました。 桑名から宮まで七里の渡し。犬は竜之助の傍へつききりで、竜之助が舟から上ると犬もつづいて陸(おか)へ上る。 |
佐々木味津三 |
【右門捕物帖 卒塔婆を祭った米びつ】
「じれってえな。だれに頼まれてそんなに寝るんでしょうね。ね、ちょっと! たいへんですよ。たいへんですよ。途方もねえことになったんだから、ちょっと起きなせえよ」声に油をかけながらしきりとやかましく鳴りたてたので、不承不承に起き上がりながらひょいと見ながめると、これはまたどうしたことか、ただやかましく起こしに来たと思いのほかに、あの伝六がじつになんともかとも困りきったといった顔つきで、いいようもなくぶかっこうな手つきをしながら、後生大事と赤ん坊をひとり抱いているのです。 |
夢野久作 |
【黒白ストーリー】
彼は穢(きた)ない仕事着を着て石の上に腰をかけていた。前には人夫頭の吉(きち)が恐ろしい顔をして立っていた。徳市は眼をこすった。吉は徳市の尻を今一つ強く蹴った。 又なまけていやがる…… 早く仕事をしないか…… 徳市は不承不承に立ち上った。道路工事の水揚(みずあげ)ポンプの柄(え)につかまった。 |
大阪圭吉 |
【坑鬼】
「採炭場(キリハ)へ帰れ! 採炭(しごと)を始めるんだ!」呶鳴られた人びとは、運びかけの炭車(トロ)を押したり、鶴嘴を持直したり、不承不承引上げて行った。興奮が追い散らされて行くにつれて、鉄扉の前に居残った人々の顔には、やがてホッとした安堵の色が浮び上った。 |
南方熊楠 |
【十二支考 馬に関する民俗と伝説】
過ぎた事は何ともならぬ、これから古法通りにしましょうと詫(わ)び入りて、厩に赤銅板を布(し)き太子に蓋、王の長女に払子、大夫人に食物を奉ぜしめると、大臣も不承不承慎んで馬の糞を金箕で承(う)ける役を勤めたとあらば、定めて垂れ流しでもあるまじく、蜀江(しょっこう)の錦ででも拭(ぬぐ)うたであろう。かく尊ばれて智馬満足し始めて食事した。
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佐々木味津三 |
【右門捕物帖 闇男】
亭主が知っておることまでも何一つ聞き取ってはおりませぬ。ともども立ち会って吟味いたしとうござるが、ご異存ござりますまいな」異存はあったにしても、こう持ちかけられては痛しかゆしです。返事のしようもないとみえて、不承不承に敬四郎、座についたのを見ながめると、名人の声はじつにあざやかでした。 |
西尾正 |
【陳情書】
男は私を玄関の三和土(たたき)の上框(あがりかまち)に座布団を置いて坐わらせた丈で、何故か室内には招じ入れませんでした。寔(まこと)に恐れ入りますが、もう少々お待ちを願います、と言われて見れば詮方無く、不承不承命じられた所に腰を下ろして、暫時合図を待つ事に致しました。
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岡本綺堂 |
【半七捕物帳 むらさき鯉】
ゆうべ何処へ行って、何刻(なんどき)に帰って来たかと詮議すると、旦那は五ツ(午後八時)頃に出て行って、四ツ少し過ぎに帰って来たらしい。自分は四ツを合図に店を閉めて寝てしまったから、よくは知らないと寅次は云った。それでもお徳の不審はまだ晴れないので、旦那かおかみさんを起こしてくれと又頼むと、寅次は不承不承(ふしょうぶしょう)に奥へはいったが、やがて女房のお新を連れ出して来た。
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海野十三 |
【空中漂流一週間】
「おい、お前は思いきりのわるい奴だな、キンチャコフ。そのピストルなんか収(しま)って、これからどうすればわれわれは無事地上に下りられるかを研究して、すぐさま実行にかかるのだ。無駄なことはしないがいい」そういわれて、キンチャコフはつい兜(かぶと)を脱(ぬ)いだ。彼は不承不承(ふしょうぶしょう)に、逞しい形のピストルをポケットの中に収いこんだ。そして達磨(だるま)が起きあがるように、身体をごろんと一転させて、「火の玉」少尉と向いあった。 |
国枝史郎 |
【名人地獄】
往来へ捨てるから拾うがよいと。……で往来へお捨てなされたのを、わっちが急いで拾ったので。嘘も偽(いつわ)りもございません。ほんとうのことでございますよ」次郎吉は額の汗を拭いた。造酒は迂散(うさん)だというように、黙って話を聞いていたが、不承不承に頷いた。 「貴様も相当の悪党らしい。問い詰められた苦しまぎれに、ちょっと遁(の)がれをいうような、そんなコソコソでもなさそうだ。それに観世の精神なら、そんな態度にも出るかもしれない。お前のいいぶんを信じることにしよう」 |
相馬愛蔵 |
【一商人として ――所信と体験――】
女中さんは大喜びで受け取ろうとすると、餅と餅がくっついて離れない。それを無理に引き離そうとして持ち上げたところ、四角にのした餅が伸びて形がつぶれてしまいました。けれど女中さんは自分の註文なので再び小僧を叱るわけには行かず、不承不承に受け取ったがいったいあの餅はどうなったろうという報告に、お気の毒やらおかしいやら、全く忙しい節季の仕事中には思わぬ笑いを恵まれました。
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マロ Malot |
【家なき子】
わたしはかれに中にはいるように命令(めいれい)した。ばかな犬よ。このおそろしい寒さの中でうろつき回るよりは、暖(あたた)かいたき火のそばにおとなしくしていたほうがどのくらいいいか知れない。かれは不承不承(ふしょうぶしょう)にわたしの言うことを聞いたが、しかしひどくふくれっ面(つら)をして、目をじっと入口に向けていた。よほどしつっこい、いったん思い立ったことを忘(わす)れない犬であった。
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