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風光明媚
ふうこうめいび
作家
作品

河東碧梧桐

【南予枇杷行】

 この風光明媚の地、一人の人材を生まざりしや。
  曽て如法寺に駐杖した盤珪禅師は播磨の人であり、藩公の招聘に応じた中江藤樹は近江生れであつた。維新前蘭学の輸入に際し、一商賈の身をもつて、疾くシーボルトの門下に馳せた三瀬諸淵は、お隣の新谷町に生れて岩倉公に侍し、憲法制定に尽瘁した香渡晋と共に、近代先覚者の名をほしいまゝにするものである。

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竹久夢二

【砂がき】

そしてその背景がまた素晴しい印象的な人工的な自然であつて、最も自然らしい自然だ、見ないものにそう言つただけでは解るまいが、背景も繪なら、人物も悉く繪なのだ。どうしてとつたものかその人物も悉く、輪廓の線の太い、描いたやうながつしりした背景にしつくりあてはまつてゐるのだ。これを見ると深山幽谷や風光明媚の地へわざ/\出かけて通俗な背景を作ることよりも、人工的なこの背景の方がどの位效果的エフエクチープだかわからない、つまり自然そのもの、寫眞よりも描いた背景の方が、ずつと本物らしく、感じが深いと言へる。

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宮本百合子

【女靴の跡】

 おおこれは一つの小さい銃口であった。生きながら埋められた生命が無限の思いを惻々と息づいている口である。目をとめたものは思わず心を動かされ、その訴えることの深い可憐なる銃口を撫でずにはいられない。ひとりでの力につき動かされてしている自分の振舞いに心付いて、私は幾千の手がこの忘れること難い金色の口に触れたかを思った。生きて強壮な人々は、平和のための会議を何故風光明媚なジェネの湖畔でだけ開くのであろう。

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近松秋江

【湖光島影 琵琶湖めぐり】

「ゆきとゞきませんで、さぞ御不自由でお困りでございましたでせう」  と、聲も女のやうに優しい寂のある聲である。觀音さまには男相と女相とあり、或ひは男とも女とも區別のつかぬ御顏をして居られるのであるが、老僧こそ風光明媚なるこの竹生島觀世音の化身ではあるまいかと思はれて、顏容といひ音聲といひ、體まで小さく痩枯れて女と見まがふ柔和な方である。中古の黒絽の道服に絹紬の着物の質素な裝をした老僧は杖をついて舟の中に向ふをむいて立つてゐられる。

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坂口安吾

【我が人生観 (五)国宝焼亡結構論】

 小生もついに別荘の七ツ八ツ風光明媚なるところにブッたてようという遠大千万なコンタンによって「捕物帳」をかくことゝなり、小説新潮の案内で、箱根の谷のドン底の温泉旅館へ行った。
  このへんは谷川といっても川の趣きではなくて、流れの全部が段をなした瀑布であり、四方にはホンモノの数百尺の飛瀑も落下している。

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蘭郁二郎

【宇宙爆撃】

 村尾健治から木曾礼二郎あての私信。
  ――東京は、この手紙が着く頃はそろそろ梅雨つゆにはいることと思います。東京のあのじめじめと降りつづく雨から、僕たちは開放されたわけです。青空、そして豪快な雨――。僕は内地が世界第一の風光明媚といわれていたことに少々疑問を持って来ました、いや、風光は明媚かも知れませんが、しかし第一の健康地であるかどうか、これは疑問ではありませんか、

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石川三四郎

【半農生活者の群に入るまで】

ほんとうに自然は無限の図書館である。無尽蔵の知識の籠であるやうに私には感じられた。私の六年間生活した土地は、パリーから七八十里も西南のボルドオの近所であつた。断崖絶壁をめぐらした三百米突メートルの高い立場の村落で、城の跡であり、風光明媚、四季常に遊覧の雅人があとをたゝないと言ふ位の地方であつた。

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夢野久作

【S岬西洋婦人絞殺事件】

 R市のS岬というと日本海に面した風光明媚の景勝である。R市から海越しに、直径、一里半ばかり距たった対岸で、首の細い半島になっている赤土山の松原の中に、西洋人や日本人の別荘がチラホラと建っている処であるが、その内海側の一番突端のコンモリと丸い松林の緑の中に、R市に在る某石油会社の支配人で、有名な愛妻家として、度々新聞にゴシップされた事のあるJ・P・ロスコーという×国人の住宅が建っていた。

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豊島与志雄

【変な男】

「お国はどちらでいらっしゃいますか。」と、辰代は語の接穂がないので尋ねてみた。
「鹿児島です。」と、彼は答えた。「鹿児島はいい処ですよ。」
  そして彼は自ら進んで、鹿児島の風光明媚を説き出した。どの川の水もみな透明に澄みきっていて、一丈二丈ほどもある淵でさえ、底まで手にとるようで、魚の泳いでるのがはっきり見えて、釣をするのなんか実に愉快である。

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国枝史郎

【鴉片を喫む美少年】

 船は江陰チャンインで碇泊した。で、僕は上陸した。江陰にも英国兵が駐屯していて、戦争気分が漲っていたが、昔から風光明媚として、謡われるところだけに、家の構造つくり、庭園の布置に、僕を喜ばせるものがあり、終日町や郊外を、飽かず僕は見て廻った。夕方まで見て廻った。船は三日程碇泊するので、今夜は陸の旅館へ泊まろう、こう僕は最初からきめていた。

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平野萬里

【晶子鑑賞】

    夕ぐれは車の卓の肱濡れぬ胡地の景色の心細さに

  胡地はシベリヤである。私も一囘シベリヤを通過したことがあるが、風光明媚な内地の景色に慣れてゐる旅人が朝夕シベリヤの荒涼たる風貌に接する場合、特にそれが感覚の鋭敏な女の一人旅である場合、洵に想像に余りがある。当時大連にゐた私は夫人のこの壮挙を勇気づける為にハルピンに向け電報を打つたことがあるが、よくも決行されたことであつた。

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Last updated : 2024/06/28