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意馬心猿
いばしんえん |
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作家
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作品
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太宰治 |
【パンドラの匣】
さんざん悪口を言って来た僕の苦衷のほどを、君、すこしは察してくれ給(たま)え。そうして、君も僕に賛成して一緒に竹さんの悪口を言ってくれたら、あるいは僕も竹さんを本当にいやになって、身軽になれるかも知れぬとひそかに期待していたのだけれども、あてがはずれて、君が竹さんに夢中になってしまったので、いよいよ僕は窮したのさ。そこで、こんどは、僕は戦法をかえて、ことさらに竹さんをほめ挙げ、そうして、色気無しの親愛の情だの、新しい型の男女の交友だのといって、何とかして君を牽制(けんせい)しようとたくらんだ、というのが、これまでのいきさつの、あわれな実相だ。僕は色気が無いどころか、大ありだった。それこそ意馬心猿(いばしんえん)とでもいうべき、全くあさましい有様だったのだ。
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太宰治 |
【火の鳥】
ゆうべは、新宿のバアで一緒にのんだ。かねて、顔見知りの間柄である。ふと、三木が、東北の山宿のことに就いて、口を滑らせた。さちよの肉体を、ちらと語った。それから、やい、さちよはどこにいる。知らない。嘘つけ、貴様がかくした。よせやい、見っともねえぞ、意馬心猿。それから、よし、腕ずくでも取る、戸山が原へ来い、片輪にしてやる、ということになったのである。三木も、蒼ざめて承知した。元旦、正午を約して、ゆうべはわかれた。
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正岡子規 |
【かけはしの記】
浮世の病ひ頭に上りては哲学の研究も惑病同源の理を示さず。行脚雲水の望みに心空になりては俗界の草根木皮、画にかいた白雲青山ほどにきかぬもあさまし。腰を屈めての辛苦艱難も世を逃れての自由気儘も固より同じ煩悩の意馬心猿と知らぬが仏の御力を杖にたのみていろ/\と病の足もと覚束なく草鞋の緒も結びあへでいそぎ都を立ちいでぬ。 五月雨に菅の笠ぬぐ別れ哉 |
坂口安吾 |
【花咲ける石】
下の話で恐縮だが、男の例の一物は随意に動くものではない。ところが彼はこれすらも随意に収縮することができた。これを小さくおさめて敵の攻撃を防ぐことができた。武技だけでは、こうはいかぬ。意馬心猿の境地ではおのずから裏切られてしまう性質のものであるから、つまり彼は剣聖の境に達したのである。法神はこれを見てことごとく賞讃し、秘訣の全てを伝えて跡目に立て、加賀之助の名を与えた。
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林不忘 |
【丹下左膳 こけ猿の巻】
ねまき姿もしどけなく、恐怖と昏迷に白い顔をひきつらせて、キッと立っている妻恋小町(つまごいこまち)――知(し)らぬ火(い)小町(こまち)の半身に、かたわらの灯影が明るくゆらめき、半身は濃(こ)むらさきの闇に沈んでいる。あまりの美しさ! あまりにもあでやかな眺めに、門之丞はしばし、その血管内に荒れ狂う意馬心猿(いばしんえん)もうちわすれ、呆々然(ぼうぼうぜん)として見惚(と)れたのでした。 切れ長な眼に、かよわい女の身の、ありったけの険をふくませて、萩乃は真(ま)っこうから、門之丞をにらみつけながら、 「声をたてますよ! 声をたてますよ」 門之丞は無言。ニヤリッと笑って、片膝立てた。まさに獲物をおそわんとする豹(ひょう)のごとく……。 |
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