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一分一厘
いちぶいちりん |
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作家
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作品
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石川啄木 |
【雲は天才である】
極樂から地獄! この永劫の宣告を下したものは誰か、抑々誰か。曰く、校長だ。自分は此日程此校長の顏に表れて居る醜惡と缺點とを精密に見極めた事はない。第一に其鼻下の八字髯が極めて光澤が無い、これは其人物に一分一厘の活氣もない證據だ。
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太宰治 |
【ダス・ゲマイネ】
すぐつづいて太宰が障子をあけてのっそりあらわれた。ひとめ見て、私はあわてふためいて眼をそらした。これはいけないと思った。彼の風貌は、馬場の形容を基にして私が描いて置いた好悪ふたつの影像のうち、わるいほうの影像と一分一厘の間隙(かんげき)もなくぴったり重なり合った。そうして尚さらいけないことには、そのときの太宰の服装がそっくり、馬場のかねがね最もいみきらっているたちのものだったではないか。
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宮本百合子 |
【三郎爺】
まるで、茹(ゆだ)ったか酔っぱらったようなお月様が、小半時、始めの処から一分一厘動かないのだから、なるほど、只事ではない。天地が、また火の玉に戻る前兆だの、凶作のお知らせだのと、ワヤワヤ大騒動をしていると、やがて一人の子供が突き抜けそうな声で、 「あれ! 見ろよ、あら! あら! 山からもう一つお月様あおできなすった」 と怒鳴った。 |
坂口安吾 |
【二流の人】
そして又秀吉は家康の貫禄に就て考へる。その家康は砂粒のない地平線に坐りながら、その高さが彼といくらも違はぬくらゐ逞しかつた。けれども砂粒は同時に底なしに従順暗愚無批判であり、秀吉がその頂点にある限り、家康は一分一厘の位の低さをどうすることもできない。秀吉は家康を憫笑する。ともかく生きてゐなければ。家康よりも、一日も長く。長生きだけが、秀吉の勝ちうる手段であつた。家康に対しても、又、砂粒に対しても。死と砂粒は唯一の宇宙の実在であり、ともかく生きることによつて、秀吉はそれを制し得、そして家康の道をはゞみ得るだけだつた。
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夢野久作 |
【白髪小僧】
「何……どちらか解からぬ」「はい。その二人は、どちらも顔付きから智恵や学問や背恰好(せかっこう)、髪の毛の数まで、一分一厘違わぬので御座います。で御座いますから、どちらが王様の御妃になる運を持っておる女なのか、今では全く区別(みわけ)がつかないので御座います」 「フーム。ではしまいになればわかるのか」 |
中里介山 |
【大菩薩峠 他生の巻】
「だって、先生、刀と物差(ものさし)とは違いましょう」「そうですね、刀と物差は……」 竜之助は、お雪の比較を珍しそうに暫く考えていましたが、 「同じようなものでしょう、眼をつぶっていても、思う通りの寸尺に切ろうと思えば切れますからね」 「そんなことがあるものでしょうか……」 お雪もそれを考えさせられましたが、しばらくして気がついたように、 「そうそう、昔、裁縫の名人があって、年とってから眼がつぶれ、不自由をしたそうですけれど、ハサミを持つと、物差をつかわないで、一分一厘の狂いもなくたちものをしたという話を聞きました」 と言いました。 |
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