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一枚看板
いちまいかんばん |
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作家
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作品
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樋口一葉 |
【にごりえ】
世は御方便や商賣がらを心得て口取り燒肴とあつらへに來る田舍ものもあらざりき、お力といふは此家の一枚看板、年は隨一若けれども客を呼ぶに妙ありて、さのみは愛想の嬉しがらせを言ふやうにもなく我まゝ至極の身の振舞、少し容貌(きりやう)の自慢かと思へば小面が憎くいと蔭口いふ朋輩もありけれど、交際(つきあつ)ては存の外(ほか)やさしい處があつて女ながらも離れともない心持がする、
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夏目漱石 |
【吾輩は猫である】
たとい骨だけにならなくとも好いから、せめてこの淡灰色の斑入(ふいり)の毛衣(けごろも)だけはちょっと洗い張りでもするか、もしくは当分の中(うち)質にでも入れたいような気がする。人間から見たら猫などは年が年中同じ顔をして、春夏秋冬一枚看板で押し通す、至って単純な無事な銭(ぜに)のかからない生涯(しょうがい)を送っているように思われるかも知れないが、いくら猫だって相応に暑さ寒さの感じはある。
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織田作之助 |
【青春の逆説】
「あんたの人気を維持するためじゃおまへんか、それに、いま引っ込んでしもては、一生女優として立てなくなりまっせ。なにも、いつまでも居て貰おうとは思てしまへん。ここでの話でっけどな、うちの経営者が△△キネマを買収する計画を樹てていますねん。こら誰にも言わんといとくれやすや、その暁はあんたに一枚看板になって貰わんならん。芸術映画ちゅうもんをやりまっさかいな、どうしてもあんたみたいなひとに出て貰わんならんのや。つまりやな、あんたは△△キネマの舞台挨拶にでも出るのや思てくれはったら、よろしおまんねん」
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坂口安吾 |
【二流の人】
元来、如水が唐入(当時朝鮮遠征をかう言つた。大明進攻の意である)に受けた役目は軍監で、つまり参謀であるが、軍監は如水壮年時代から一枚看板、けれども煙たがられて隠居する、ちやうど之と入換りに秀吉帷幕の実権を握り、東奔西走、日本全土を睥睨(へいげい)して独特の奇才を現はしはじめてきたのが、石田三成であつた。
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坂口安吾 |
【明治開化
安吾捕物 その十九 乞食男爵】
この花嵐オソメさんを一枚看板の抜弁天一座が、芝虎の門の琴平様の縁日をあてこんで五日前からかかっていた。
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久生十蘭 |
【顎十郎捕物帳 鎌いたち】
阿古十郎のほうは、例のごとく、垢染んだ一枚看板の羽二重の素袷、溜塗(ためぬり)のお粗末な脇差を天秤(てんびん)差しにし、懐から手先を出して、へちまなりの、ばかばかしくながい顎の先を撫でながら、飽きたような顔もしないでのんびりときいている。……なにしろ、日も永いので。
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林不忘 |
【釘抜藤吉捕物覚書 梅雨に咲く花】
「酒(ささ)がこうしてついそれなりに、雑魚寝(ざこね)の枕(まくら)仮初(かりそめ)の、おや好かねえ暁(あけ)の鐘――。」神田の伯母からふんだくった一枚看板と、この舞台(いた)についた出語りとで、勘次は先に立って三十間堀を拾って行った。 |
久米正雄 |
【良友悪友】
それは友だち甲斐(がひ)のないものとして、手を別つより外に術(すべ)はないと考へてゐた。併(しか)し、心の底では、誰でもが、自分の一枚看板の失恋を持ち出せば、黙つて許して呉れるだらうとの、虫のいゝ予期を持つてゐないではなかつた。
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佐々木味津三 |
【右門捕物帖 血染めの手形】
「きさま、一生一度の内密に必ず他言しないことを先に誓うか」「ちえッ、うたぐり深いだんなだな。あっしだって、おしゃべり屋ばかりが一枚看板じゃござんせんよ。意気と意気が合ったとなりゃ、これでなかなかがっちりとした野郎なんだから、ええ、ようがす、いかにも八幡(はちまん)やわたにかけて、誓言しようじゃごわせんか」 |
国枝史郎 |
【柳営秘録かつえ蔵】
笠森お仙、公孫樹(いちょうのき)のお藤、これは安永の代表的美人、しかしもうそれは過去の女で、この時代ではこのお杉が、一枚看板となっていた。身分は水茶屋の養女であったが、その綽名は「赤前垂」……もう赤前垂のお杉と云えば、武士階級から町人階級、職人乞食隠亡まで、誰一人知らないものはなかった。
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谷譲次 |
【踊る地平線 海のモザイク】
だから各地のお土産店でもすっかり心得ていて、人形一つ出しても「手づくり(ハンド・メイド)」、ハッピイ・コウト一枚見せるにも「手作り(ハンド・メイド)」、灰皿を買おうとしても「手造り(ハンド・メイド)」――そこで、値が張っているのだと言う。こんなふうに、何からなにまで「手づくり」の一枚看板で下らない物を高く売りつけようとするし、また、そう聞いただけで、詰らないものに大枚の金を投じて惜しまない人が、じっさいすくなくないのだ。
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小栗虫太郎 |
【人外魔境 水棲人(インコラ・パルストリス)】
「ううい、動物富籖(ビッショ)を一枚、てめえ大切候(だいじそう)に持ってやがって……。おいカムポス、俺はなんだか、可笑しくって仕様がねえ」「ハッハッハッハッハ、なけなしの俺が一枚看板みたいに、動物富籖をもっているのが、そんなに可笑しいか。だが、俺だって当ると思っちゃいないよ。易(うらな)いだ。未来を卜(ぼく)すには、これに限るよ」 |
岡本綺堂 |
【權三と助十】
六郎 助八。おまへはこの忙がしい最中に猿にからかつて騷いでゐたさうだな。助八 なに、こつちが猿にからかはれたので……。 六郎 まあ、なんでもいゝから早く行つて、手傳へ、手傳へ。貴樣は長屋で一枚看板の馬鹿野郎だ。 助八 あい、あい。大屋さんに逢つちやあかなはねえ。 (助八は叱られて、これも早々に上のかたへゆく。) |
中里介山 |
【大菩薩峠 新月の巻】
「なに、これから生きようとするもの、これから生かそうとするもの、そんなものがこの世にあるか知ら、この一枚看板の一張羅(いっちょうら)、生かそうと殺そうと、質屋の番頭の腕次第……」
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