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唯唯諾諾/唯々諾々
いいだくだく
作家
作品

夏目漱石

【二百十日】

「そりゃどうでもいいが、ともかくもあしたは六時に起きるんだよ」
「そうして、ともかくも饂飩を食うんだろう。僕の意志の薄弱なのにも困るかも知れないが、君の意志の強固なのにも辟易へきえきするよ。うちを出てから、僕の云う事は一つも通らないんだからな。全く唯々諾々 いいだくだくとして命令に服しているんだ。豆腐屋主義はきびしいもんだね」

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太宰治

【人間失格】

 自分は自動車に乗せられました。とにかく入院しなければならぬ、あとは自分たちにまかせなさい、とヒラメも、しんみりした口調で、(それは慈悲深いとで も形容したいほど、もの静かな口調でした)自分にすすめ、自分は意志も判断も何も無い者の如く、ただメソメソ泣きながら唯々諾々と二人の言いつけに従うの でした。ヨシ子もいれて四人、自分たちは、ずいぶん永いこと自動車にゆられ、あたりが薄暗くなった頃、森の中の大きい病院の、玄関に到着しました。

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菊池寛

【乱世】

 が、そこに思わざる反対が起った。それは、お目見得以下の軽輩の士が一致しての言い分であった。彼らは太平の世には、上士たちの命令を唯々諾々としてき いていた。が、一藩が危急に瀕すると、そこに階級の区別はだんだん薄れていた。階級が物をいわずして数が物をいうのであった。三百名に近い下士たちは、足 軽組頭矢田半左衛門、大塚九兵衛を筆頭として、東下論に反対した。彼らの言い分はかなり筋道が通っていた。

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田中英光

【オリンポスの果実】

 こでぼくは彼女達かのじょたち婉然えんぜんと頼まれると、唯々諾々 いいだくだくとしてひき受け、その夜は首をひねって、彼女の桃色ももいろのノオトに書きも書いたり、――かにかくに太平洋に星多き夜はともすれば人の恋しき――から始まり――海ののノオトはなみが消しゆきぬこのかなしみは誰が消すらむ――に終る、面皰にきびだらけの歌を十首ばかり作りあげ、翌日M嬢に手渡そうとおもいました。

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福沢諭吉

【女大学評論】

此男は某地方出身の者にて、郷里に正当の妻を遺し、東京に来りて更らに第二の妻と結婚して、所謂一妻一妾は置さておき、二妻数妾の滅茶苦茶なれば、子供の厳父に於ける、唯その厳重なる命令に恐入り、何事に就ても唯々諾々するのみ、曾て之に心服する者なし。

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新渡戸稲造

【教育の目的】

 今日我國に於て、育英の任に當る教育家は、果して如何なる人間を造らんとして居るか。予は教育の目的を五目に分けたけれども、人間を造る大體の方法としては、今云ふた三種の内の孰れかを取らねばならぬ。彼等は第一の左甚五郎の如く、たゞ唯々諾々として己れを造つた人間に弄ばれ、其人の娯樂の爲に動くやうな人間を造るのであらうか。

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宮本百合子

【文学の大衆化論について】

 人間性というものの理解についても、現在のような社会事情の錯綜の裡にあっては、様々の複雑な混乱がおこっている。現状に対する唯々諾々的態度、その出 処進退に終始一貫した人間としての責任感がないことまで、その作家がもっている高い素直さ、人間性という評価をうける甘いホロリズムさえ、いつの間にか這 い込んで来ていないことはない。人間性の問題はプロレタリア文学の歴史の上では、いくつかの段階を経て、今日では人間性諸相の、社会関係との綜合的描写の 理解へすすみつつある。

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小酒井不木

【変な恋】

 実際グレージーの家へ来る客は、宝石を買う人よりも売る人の方が大部を占めていた。しかもその客は、顔に変な笑いを浮べ、変なものの言い方をして、変な 手附きで金を貰って行くのであった。そうして、その買値は、時価よりもうんと安かったけれども、売り手は別に不足をいわず、唯々諾々として、彼のつける値 段に満足した。

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濱田耕作

【沖繩の旅】

實は別に何の當もないが、琉球の事物一切の概念を得るのが目的である」と白状して、六日間の旅程を作つて貰ふことゝしたが、島袋君等の手で早速出來上つて之に唯々諾々從ふことに成つた。

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中里介山

【大菩薩峠 駒井能登守の巻】

しかるに駒井如き若年者じゃくねんものをよこして我々の頭に置こうなぞとは、見縊みくびられたもまた甚だしいかな。二百余名の甲府勤番がそれで納まるか知らん、駒井を頭にいただいて唯々諾々いいだくだくとその後塵こうじんを拝して納まっているか知らん。もしそれで納まっているようなら世は末だ、徳川の天下もいよいよ望みなしじゃ

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横光利一

【新感覚派とコンミニズム文学】

何故なら、コンミニズム文学は、文学としての発展段階を無視したる文学形式であるからだ。彼らはその理想さえ主張出来得れば、曾て犯した唯心論的文学の古き様式をさえも、唯々諾々 いいだくだくとして受け入れているではないか。そこで、彼らは、文学の圏内に於ては、ただ単なる理想主義文学と何ら変る所はない。

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蘭郁二郎

【鉄路】

 これは源吉の自惚うぬぼれでもなんでもなかった。京子は、明かに彼に好意を持っていたのだ。それは源吉の持出した「堅い約束」に、唯々諾々 いいだくだくと応じたのだから――。

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長谷川時雨

【旧聞日本橋 木魚の配偶】

「どうも老爺さんが悪いらしいが、医者をよぶというとかからないから、お父さんが風邪をひいたことにして――」
「よし。」
 老父は至極簡単で、もの事を逆にいえば唯々諾々 いいだくだくなのである。
「なにしろ湯川老人は年齢としだからな、医者に見せなければいけない。」

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甲賀三郎

【黄鳥の嘆き ――二川家殺人事件】

病弱の身体で、あの気紛れな――今は大へんよくなったが――癇癪持ちの夫に仕えて、いさゝかの不満も現わさず、唯々諾々として忠実を守っている姿は涙ぐましいものがある。兎に角、立派な夫婦だ、それに子供は出来たし、もう重武などを少しも恐れる所はないだろう。

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コナン・ドイル
三上於莵吉訳

【暗号舞踏人の謎】

 この田舎検察官はしかし、ホームズのあまりに急速な、あまりにも鮮かな探査振りに、ただ驚歎の色を現わしているのであった。最初のうちは多少は、自分自身の立場も、発揮したいような傾向も見えたが、しかし今はもうとても歯がたたないと観念して、ただホームズの為すままに、唯々諾々として、後からついて来るだけのことになってしまった。
「犯人は誰でしょう?」
 彼は訊ねた。

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Last updated : 2024/06/28