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衣冠束帯
いかんそくたい
作家
作品

芥川龍之介

【侏儒の言葉】

 画力は三百年、書力は五百年、文章の力は千古無窮とは王世貞(おうせいてい)の言う所である。しかし敦煌(とんこう)の発掘品等に徴すれば、書画は五百年を閲(けみ)した後にも依然として力を保っているらしい。のみならず文章も千古無窮に力を保つかどうかは疑問である。観念も時の支配の外に超然としていることの出来るものではない。我我の祖先は「神」と言う言葉に衣冠束帯の人物を髣髴(ほうふつ)していた。しかし我我は同じ言葉に髯(ひげ)の長い西洋人を髣髴している。これはひとり神に限らず、何ごとにも起り得るものと思わなければならぬ。

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芥川龍之介

【木曾義仲論(東京府立第三中学校学友会誌)】

彼は野性の児也。彼の衣冠束帯するや、天下為に嗤笑したり。彼が弓箭を帯して禁闕を守るや、時人は「色白うみめはよい男にてありけれど、起居振舞の無骨さ、物云ひたる言葉つきの片口なる事限りなし」と嘲侮したり。

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夏目漱石

【人生】

夢は必ずしも夜中臥床の上にのみ見舞に来るものにあらず、青天にも白日にも来り、大道の真中にても来り、衣冠束帯の折だに容赦なく闥(たつ)を排して闖入(ちんにふ)し来る、機微の際忽然(こつぜん)として吾人を愧死(きし)せしめて、其来る所固(もと)より知り得べからず、

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幸田露伴

【連環記】

石の帯というは、黒漆の革(なめしがわ)の帯の背部の飾りを、石で造ったものをいうので、衣冠束帯の当時の朝服の帯であり、位階によりて定制があり、紀伊石帯、出雲石帯等があれば、石の形にも方(けた)なのもあれば丸なのもある。

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豊島与志雄

【母親】

 拝殿の前には、太い綱が二本張られていて、その両方に狭い通路が設けられており、左手の通路内の卓子に、一人の神官が帳簿を前にして控えている。参詣の 子供たちの氏名を書き留めるのであろう。拝殿の前面には、美装の人々が立ち並び、衣冠束帯の神官から清め祓いを受け、白紙に包んだ御供物を貰い、そして右 手の通路から退出して来るのである。

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蒲松齢
田中貢太郎訳

【小翠】

王侍御はその謀(くわだて)を知ってひどく心配したがどうすることもできなかった。ある夜王侍御が早く寝た。小翠は衣冠束帯(いかんそくたい)して宰相に扮装したうえに、白い糸でたくさんなつくり髭(ひげ)までこしらえ、二人の婢に青い着物を着せて従者に扮装さして、廐(うまや)の馬を引きだして家を出、作り声をしていった。

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原勝郎

【東山時代における一縉紳の生活】

 上文に述べたような楽屋を有する三条西実隆に、もし衣冠束帯をさしたならばどんな者になるであろうか。これがこれからして予の描こうとするところである。

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中里介山

【大菩薩峠 白雲の巻】

一、七兵衛は水呑百姓を以て自ら任じている素朴な男ですから、御殿の床下で、「ああら怪しやな」なんぞと騒がれてみたがったり、また大先輩の石川五右衛門氏のように、衣冠束帯の大百日(だいひゃくにち)で、六法をきってみようというような華美(はで)な芝居気のない男ですから、この床下を選んだことにしてからが、一方は牡鹿(おじか)半島方面の船の到着が気にかかり、一方はまだ仙台城下に無くもがなの心がかりがあるから、ちょうどその中間の、ここ松島の観瀾亭あたりを選ぶのが、地の利よりして最も適度と考えただけのものでしょう。

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小出楢重

【めでたき風景】

 私がもし、急に明日から金閣寺で暮すという身分にでもなったとしたら、私は直ちにパンタロンは紙屑屋へ売飛ばして衣冠束帯で身を固めるであろう。

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Last updated : 2024/06/28