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一家団欒
いっかだんらん |
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作家
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作品
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太宰治 |
【雪の夜の話】
むかし、デンマークの或るお医者が、難破した若い水夫の死体を解剖して、その眼球を顕微鏡でもって調べその網膜に美しい一家団欒(だんらん)の光景が写されているのを見つけて、友人の小説家にそれを報告したところが、その小説家はたちどころにその不思議の現象に対して次のような解説を与えた。
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太宰治 |
【一つの約束】
この遭難者の美しい行為を、一体、誰が見ていたのだろう。誰も見てやしない。燈台守は何も知らずに一家団欒の食事を続けていたに違いないし、遭難者は怒濤にもまれて(或いは吹雪の夜であったかも知れぬ)ひとりで死んでいったのだ。月も星も、それを見ていなかった。しかも、その美しい行為は厳然たる事実として、語られている。
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堀辰雄 |
【菜穂子】
ああ、このような孤独のただ中での彼女のふしぎな蘇生(そせい)。――彼女はこう云う種類の孤独であるならばそれをどんなに好きだったか。彼女が云い知れぬ孤独感に心をしめつけられるような気のしていたのは、一家団欒(いっかだんらん)のもなか、母や夫たちの傍(かたわら)であった。いま、山の療養所に、こうして一人きりでいなければならない彼女は、此処ではじめて生の愉(たの)しさに近いものを味っていた。
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宮本百合子 |
【権力の悲劇】
八月のある日、わたしは偶然新聞の上に一つの写真を見た。その写真にとられている外国人の一家団欒の情景が、わたしの目をひいた。背景には、よく手入れされたひろい庭園と芝生の上に、若い父親が肱を立ててはらばい、かたわらの赤ン坊を見て笑っている。
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佐藤垢石 |
【烏惠壽毛】
住人は、窮してくると、天井から雨戸障子まで焚いてしまう類であったから、一間しかない座敷のなかの、貧しい一家団欒の様(さま)がむきだしだ。そこで、現在の戦災後の壕舎生活と、この食詰横町の生活と、いずれが凌ぎよかろうかと、むかし学生時代に眺めた風景を想い出して比べてみる
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吉田絃二郎 |
【八月の星座】
わたしは故郷の父が、わたしの帰省を待ちあぐんで母や妹たちに隠れては、日に幾度となく停車場に出かけて行つたといふ話を思ひ出す。 夏の白雲がわく時、葦の間の行々子(よしきり)が鳴く時わたしの故郷の父の墓を思ふ。母の墓を懐ふ。 八月の故郷は一家団欒の世界である。普段は学校に囚へられてゐる子供たちも解放されて故郷の旧巣に還つて来る。親と子と兄弟が十年前二十年前のなつかしい家庭の空気をとりもどす。
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海野十三 |
【蠅男】
と、帆村は数多い懐しい実体鏡のなかを、あれやこれやと探して歩いた。貧乏サンタクロスの一家というのは、アルプス小屋に住んでいる山籠(やまごも)りの一家のことで、小さな小屋の中にサンタクロスに似た髯を持った老人を囲んで、男女、八人の家族が思い思いに針仕事をしたり薪を割ったり、鏡の手入れをしたり、子供は木馬に乗って遊んでいるという一家団欒の写真であって、サンタ爺さんひとりは酒のコップを持ってニコニコ笑っているのであった。
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