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一挙一動
いっきょいちどう
作家
作品

芥川龍之介

【妖婆】

そこでその日は、まだ熱がとれないようだと云うのを口実に、午から二階の居間で寝ていました。が、その間でも絶えず気になったのは、誰かが自分の一挙一動をじっと見つめているような心もちで、これは寝ていると起きているとに関らず、執念深くつきまとっていたそうです。

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夏目漱石

【思い出す事など】

したがって義務の結果に浴する自分は、ありがたいと思いながらも、義務を果した先方に向って、感謝の念を起(おこ)し悪(にく)い。それが好意となると、相手の所作(しょさ)が一挙一動ことごとく自分を目的にして働いてくるので、活物(いきもの)の自分にその一挙一動がことごとく応(こた)える。

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夏目漱石

【三四郎】

 この連中の一挙一動を演芸以上の興味をもって注意していた三四郎は、この時急に原口流の所作がうらやましくなった。ああいう便利な方法で人のそばへ寄ることができようとは毫も思いつかなかった。

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有島武郎

【或る女(前編)】

こうして死ぬために生まれて来たのではないはずだ。そう葉子はくさくさしながら思い始めた。その心持ちがまた木部に響いた。木部はだんだん監視の目をもって葉子の一挙一動を注意するようになって来た。

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尾崎紅葉

【金色夜叉】

二人は家内(かない)の紳士を遇(あつか)ふことの極(きは)めて鄭重(ていちよう)なるを訝(いぶか)りて、彼の行くより坐るまで一挙一動も見脱(みのが)さざりけり。

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下村湖人

【次郎物語 第五部】

じつは、君に塾内を案内してもらっていた間に、君の道江に対する態度のあまりにもよそよそしいのに気がつき、なぜだろうと思ったのがはじまりで、そのあと、ぼくはかなり注意ぶかく君の一挙一動を見まもっていたのだ。

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菊池寛

【蘭学事始】

彼は、良沢と一座していると、良沢がいるという意識が、彼の神経にこびりついて離れなかった。良沢の一挙一動が気になった。彼の一顰(びん)一笑が気になった。彼が気にしまいとすればするほど、気になって仕方がなかった。

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宮本百合子

【貧しき人々の群】

 これですべては分った。私は、今までいた所から少し奥に引っこんだ。そして、子供のしようとすることを見ていたのである。木の下まで忍び寄った子供は、注意深くあたりを見廻した。生垣で隔っている母屋の方にまで気を配った。
 けれども、猫でない彼は、真暗闇の中にこの私が自分の一挙一動を見ていようとは、まさか思わなかったのだ。

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福沢諭吉

【学問の独立】

然るに、時運の然らしむるところ、人民、字を知るとともに大いに政治の思想を喚起して、世事(せいじ)ようやく繁多なるに際し、政治家の一挙一動のために、併せて天下の学問を左右進退せんとするの勢なきに非ず。

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寺田寅彦

【田園雑感】

 親切であるために人の一挙一動は断えず注意深い目で四方から監視されている。たとえば何月何日の何時ごろに、私がすすけた麦藁帽(むぎわらぼう)をかぶって、某の橋を渡ったというような事実が、私の知らない人の口から次第に伝わって、おしまいにはそれが私の耳にもはいるのである。個人の一挙一動は寒天のような濃厚な媒質を透して伝播(でんぱ)するのである。

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岸田國士

【これからの戯曲】

 公衆は、舞台に「物語」を要求する愚さを覚るであらう。「どうなるか」といふ興味につながれて幕の上るのを待たなくなるであらう。人物の一言一語、一挙一動が醸しだすイマアジュの重畳は恰も音楽の各ノオトが作り出す諧調に似た効果を生じることに気づくであらう。

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夢野久作

【能ぎらい/能好き/能という名前】

 たとえば、剣術の名手と名手が、静かに一礼して、立ち上って、勝敗を決する迄の一挙一動は、その悉くが五分も隙のない、洗練された姿態美の変化である。

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佐藤垢石

【岩魚】

嫁が子供を生むと母のみよは、当家に伝わる運命の日がやがて来るのであろうことを予知して、息子清一の一挙一動に注意を怠らなかった。

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中里介山

【大菩薩峠 甲源一刀流の巻】

 ここにこの不慮の椿事(ちんじ)を平気で高見(たかみ)の見物(けんぶつ)をしていたものがあります。さいぜんの武士の一挙一動から、老人の切られて少女の泣き叫ぶ有様を目も放さずながめていたのは、かの栗(くり)の木の上の猿です。

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石川啄木

【葬列】

『オヤマア私とした事が、……御飯の仕度まで忘れて了つて、……』
といつて、伯母さんはアタフタと立つた。そして自分に云つた、
『浩(かう)さん、豆腐屋が来なかつたやうだつたネ。』
 此伯母さんの一挙一動が悉く雨の盛岡に調和して居る。

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折口信夫

【国文学の発生(第二稿)】

又、人形なるさいのをを使はぬ時代に、やはり古風に人形の物真似だけをしたのかも知れぬ。今の処、前の考への方がよいと思ふ。相手の一挙一動をまねて、ぢり/\させる道化役を、もどき(牾)と言うて、神事劇の滑稽な部分とせられて居る。

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Last updated : 2024/06/28