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一挙両得
いっきょりょうとく
作家
作品

芥川龍之介

【庭】

爾来(じらい)庭は春になると、見慣れた松や柳の間に、桃だの杏(あんず)だの李(すもも)だの、雑色の花を盛るやうになつた。校長は時々長男と、新しい果樹園を歩きながら、「この通り立派に花見も出来る。一挙両得ですね」と批評したりした。しかし築山や池や四阿(あづまや)は、それだけに又以前よりは、一層影が薄れ出した。云はば自然の荒廃の外に、人工の荒廃も加はつたのだつた。

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夏目漱石

【吾輩は猫である】

胃内廓清(いないかくせい)の功を奏したる後(のち)又食卓に就(つ)き、飽(あ)く迄珍味を風好(ふうこう)し、風好し了(おわ)れば又湯に入りて之(これ)を吐出(としゅつ)致候(いたしそろ)。かくの如くすれば好物は貪(むさ)ぼり次第貪り候(そうろう)も毫(ごう)も内臓の諸機関に障害を生ぜず、一挙両得とは此等の事を可申(もうすべき)かと愚考致候(いたしそろ)……」
 なるほど一挙両得に相違ない。主人は羨(うらや)ましそうな顔をする。

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高村光雲

【佐竹の原へ大仏をこしらえたはなし】

「大仏が小屋の代りになるところが第一面白い。それで中身が使えるとは一挙両得だ。これは発明だ」など高橋氏や田中氏は大変おもしろがっている。ところが野見氏は黙っていてなんともいいません。考えていました。

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長谷川時雨

【旧聞日本橋 15 流れた唾き】

この祖母は、ぞんざいな者が傍へくると、近よらないさきから足を踏まれない用心に、あいたあいたと言った。と、いかなぞん気ものでも吃驚(びっくり)して立止まるか静かにあるくかする。一挙両得、叱らずに叱られずにすむ妙諦(みょうてい)である。

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牧野信一

【鬼涙村】

「面をかむっていれば、担がれるという騒ぎもなくなるだろう――やがては、あの永年の弊風が根を絶つことにでもなれば一挙両得ともなるではないか。」

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岡本綺堂

【半七捕物帳 半七先生】

いっそ黙って何処へか売り飛ばして自分のふところを温めれば、一挙両得だという悪法を企(たくら)んで、お直には猿轡(さるぐつわ)をはませて戸棚のなかへ押し込んで置いたんです。

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直木三十五

【大衆文芸作法】

 プロレタリア作家が、今後こうした方面へ眼を付けるなら、よい大衆を読者とし得るし、従って商品価値もできるし、一挙両得だと思う。

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織田作之助

【青春の逆説】

その時十四銭もっていたのだが、腹は空っているし、珈琲ものみたかった。結局「スター」の喫茶店で十五銭のホットケーキを食べれば、珈琲がついているから、一挙両得だと思ったのであるが、それには一銭足りない、誰か知った奴に会わないかと歩きまわったのである。

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岡本綺堂

【三浦老人昔話】

更に上等になると、剣術柔術の武芸や手習学問を教える。これも一種の内職のようなものですが、こうなると立派な表芸で、世間の評判も好し、上のおぼえもめでたいのですから、一挙両得ということにもなります。」

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二葉亭四迷

【平凡】

雑誌へ載せれば、私の名も世に出る、万一(ひょっと)したら金も獲(え)られる、一挙両得だというような、愚劣な者の常として、何事も自分に都合の好(い)い様にばかり考えるから、其様(そん)な虫の好(い)い事を思って、友には内々(ないない)で種々(いろいろ)と奔走して見たが、

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中里介山

【大菩薩峠 白骨の巻】

 どちらからいっても、この分には済まされない。そこで自分の自信も満足し、お角という女をとっちめる最上の策は、駒井能登守を生捕(いけど)ることだ。そうすれば一挙両得で、戦わざるにお角の陣営は崩れてしまう。

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甲賀三郎

【支倉事件】

「ふゝん、奴は暗室の中から覗いてたのさ。君の素性を見破るのと、俺に一日暇を潰させるのと、一挙両得と云う訳さ」
「どうもすみませんでした」
 岸本は詫(あやま)った。

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Last updated : 2024/06/28