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異口同音
いくどうおん
作家
作品

太宰治

【右大臣実朝】

ついで将軍家は、このたびの合戦に於いて抜群の勲功をいたした者をお尋ねに相成り、諸将士はこれに対して異口同音に、敵方に於いては朝夷名三郎、御ところ方に於いては匠作泰時さまをお挙げになつて、

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泉鏡花

【陽炎座】

 ――必ずこの事、この事必ず、丹波の太郎に沙汰するな、この事、必ず、丹波の太郎に沙汰するな――
 と揃って、異口同音(くちぐち)に呼ばわりながら、水車(みずぐるま)を舞込むごとく、次第びきに、ぐるぐるぐる。

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坂口安吾

【道鏡】

 然し、藤原一門の陰謀児たちは執拗だつた。彼等は先づ神教によつて祝福された道鏡の宿命と徳をたゝへた。そして道鏡は皇孫だから、当然天皇になりうる筈だと異口同音に断言した。甘言はいかなる心をもほころばし得るものである。それをたとへば道鏡がむしろ迷惑に思ふにしても、それを喜ばぬ筈もない。

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尾崎放哉

【石】

之等の一見、つまらなく見える話を、鉱物学だとか、地文学だとか云ふ見地から、総て解決し、説明し得たりと思つて居ると大変な間違ひであります。石工の人々にためしに聞いて御覧なさい。必ず異口同音に答へるでせう、石は生きて居ります……と。

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芥川龍之介

【翻訳小品】

 彼は一番懇意な、又一番信頼してゐる遊び仲間に、彼の眼が牝牛の眼に似てゐるといふのは、ほんたうかどうかを質(たづ)ねて見た。しかし彼は誰からも慰めの言葉を受けなかつた。何故と云へば、彼等は異口同音に彼を嘲笑(あざわら)ひ、似てゐるどころか、非常によく似てゐると云つたからである。

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岡本綺堂

【ランス紀行】

『なにしろ暑い。』
 異口同音に叫びながら、停車場のカフエーへ駆け込んで、一息にレモン水を二杯のんで、顔の汗とほこりを忙しそうに拭いていると、四時三十分の汽車がもう出るという。あわてて車内に転がり込むと、それが又延着して、八時を過ぎる頃にようやく巴里に送り還された。

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菊池寛

【入れ札】

何も親分乾児の間で、遠慮することなんかありゃしねえ。お前さんの大事な場合だ! 恨みつらみを云うような、ケチな野郎は一人だってありゃしねえ。なあ兄弟!」
 みんなは、異口同音に、浅太郎の云い分に賛意を表した。

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織田作之助

【道なき道】

 庄之助が懐の金を心配しながら、寿子と二人で泊っていた本郷の薄汚い商人宿へは、新聞記者やレコード会社の者や、映画会社の使者や、楽壇のマネージャー達がつめかけた。
 彼等は異口同音に「天才」という言葉を口にした。すると、庄之助は何思ったか、急にけわしい表情になって、
「天才……? 莫迦莫迦しい。天才じゃありません。努力です。

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佐々木味津三

【右門捕物帖 卒塔婆を祭った米びつ】

 しかし、そのかわりに、とつぜんそのとき表のほうが騒がしくなったかと思うや同時に、目色を変えながら、おのおの丁稚(でっち)と子もりらしいのをいっしょに引き従えて、どやどやと自身番小屋へ駆け込んできたのは、ひと目にそれとわかる裕福そうな町家のご新造連れ二組みでした。しかも、両人ともに柳眉(りゅうび)をさかだてんばかりにしながらかん高い声をあげると、異口同音にわめきたてました。

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横光利一

【純粋小説論】

恐らく、この現れは困難多岐な道をとることと思うが、作家共通の苦痛を除くためには、是非とも緊急なことであって、それなればこそ異口同音の説が形を変えて湧(わ)き興って来たと見るべきで、私は新人として現れるものなら、主義流派はともかくも少くとも純粋小説をもって現れなければ意義がないと思うばかりでなく、旧人といえども、純粋小説に関心なくして、今後の成長打開の道はあるまいと思う。

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宮本百合子

【一本の花】

 多分、相原の口添えで、川島を罷めさせることは中止になったらしいと云うことだった。相原は、諸戸と同郷で、ころがり込んでいるうち、府下のセットルメント・ワークを任され、今では一方の主になっている男であった。伊田と川島は異口同音に、
「――相原氏の方があれでましでしょう」
と云った。

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石河幹明

【瘠我慢の説 瘠我慢の説に対する評論について】

直(ただち)にこれを承諾(しょうだく)したるに、かかる事柄(ことがら)は固(もと)より行わるべきに非ず。その事の知(し)れ渡(わた)るや各国公使は異口同音(いくどうおん)に異議を申込みたるその中にも、和蘭公使(オランダこうし)のごときもっとも強硬(きょうこう)にして、現に瓜哇(ジャワ)には蘭王(らんおう)の料地(りょうち)ありて物産(ぶっさん)を出せども、

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Last updated : 2024/06/28