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因果応報
いんがおうほう
作家
作品

芥川龍之介

【槐】

婆さんはこの稚児ちごも石の枕に寝かせ、やはり殺して金をとらうとする。すると婆さんの真名娘まなむすめひそかにこの稚児に想ひを寄せ、稚児の身代りになつて死んでしまふ、それから稚児は観世音菩薩くわんぜおんぼさつと現れ、婆さんに因果応報いんぐわおうはうを教へる、この婆さんの身を投げて死んだ池はいまだに浅草寺せんさうじ境内けいだいに「うばの池」となつて残つてゐる、――大体かう云ふ浄瑠璃じやうるりである。

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折口信夫

【反省の文学源氏物語】

日本人としての古い生活の型の外に、普遍的なもらあるがあるのだと言うことを思わせるようになっている。其は、因果応報と言う後世から平凡なと思われる仏教哲理を、具体的に実感的に織り込んで、それで起って来るいろんな事件が、源氏の心に反省を強いるのである。


皮相な見方をすれば、源氏物語は水のあわのようにあとかたもないうわうわした作り事であるとは言える。又若い頃の悪事が、再自分の身に報いて来る因果応報の物語であるとも言える。

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岡本綺堂

【怪談劇】

たとえば甲が乙を殺したが為に、甲又は甲の眷族が乙の幽霊に悩まされると云ったような類で、勿論それには因果応報の理も示されているのであろうが、余りにその因果の関係が明瞭であるために、却って凄味を削減される憾みがある。

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寺田寅彦

【天災と国防】

 一家のうちでも、どうかすると、直接の因果関係の考えられないようないろいろな不幸が頻発(ひんぱつ)することがある。すると人はきっと何かしら神秘的な因果応報の作用を想像して祈祷(きとう)や厄払(やくばら)いの他力にすがろうとする。

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久生十蘭

【顎十郎捕物帳 かごやの客】

 辻駕籠をはじめてからもう半年近くになるが、いっこう芽が出ないというのも、いわば因果応報(いんがおうほう)。アコ長のほうは、先刻ご承知の千成瓢箪(せんなりびょうたん)の馬印(うまじるし)のような奇妙な顔。とど助の方は、身長抜群(みのたけばつぐん)にして容貌魁偉(ようぽうかいい)。大眼玉の髭ッ面。これでは客が寄りつきません。

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国枝史郎

【一枚絵の女】

犬神だのとっつきだのと、同じ日本の人間を、差別視するということの、不合理であるということも知った。わしはあの時あのおきたと、夫婦になればよかったのだ。わしがおきたと夫婦になっていたら、おきたはこんなあばずれ女に、決してなってはいなかっただろう! ……因果応報! 悪因悪果! わしは快く殺されよう!)

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豊島与志雄

【野ざらし】

 沢子はつと立ち上ってその方を振向いたが、すぐに掛時計を仰ぎ見た。
「もう遅いじゃありませんか。」
「なあに、十一時にはまだ十五分あらあね。君は僕に、一晩に三十枚書き飛ばさしたことがあったろう。因果応報ってものだよ。」
 奥から春子が出て来たのと、沢子は何やら眼で相談し合った。春子が何か云うまに、客達はもう向うの卓子に坐っていた。

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種田山頭火

【行乞記 (三)】

物を粗末にすれば物に不自由する(因果応報だ)、これは事実だ、少くとも私の事実だ!

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久生十蘭

【金狼】

「……ふん、そうか。それなら、ま、仕様がなかろう。……いずれ一度はやられるんだ。因果応報だと思ってあきらめるさ。……しかし、妙な面(つら)になったねえ、歪んでるぜ」

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夢野久作

【白くれない】

人間の死後に魂無き事、犬猫に同じきを知らずや。汝等男女こそ覿面(てきめん)の因果応報、思ひ知らずやと云ひも終らず、馬十の脳天を唐竹割にし、奈美女の死骸を打重ねて止刺刀(とゞめ)を刺し、その上より部屋の中の珍宝、奇具を片端(かたはし)より覆へして打重ねたるまゝ本堂の下を潜りて外に出で、血刀と衣服を前なる谷川に洗ひ浄めて、悠々と方丈に帰り来りぬ。

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三遊亭圓朝
鈴木行三校訂編纂

【後の業平文治】

 文「なに、油断して喰った、それじゃア相宿の飛脚は怪しい者か」
 吉「旦那、これが因果応報というのでござんしょう、何(なん)だか私(わっち)も腹が痛くなりました、済まねえが旦那気付(きつけ)を一服下せえまし」

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巌谷小波

【こがね丸】

三国(さんごく)飛行(ひぎょう)の神通なければ、つひに鈍(おぞ)くも罠に落ちて、この野の露と消えんこと、けだし免(のが)れぬ因果応報、大明神の冥罰(みょうばつ)のほど、今こそ思ひ知れよかし。

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福沢諭吉

【学問のすすめ】

 元来人の性情において働きに自由を得ざれば、その勢い必ず他を怨望せざるを得ず。因果応報の明らかなるは、麦を蒔(ま)きて麦の生ずるがごとし。聖人の名を得たる孔夫子がこの理を知らず、別に工夫もなくしていたずらに愚痴をこぼすとはあまりたのもしからぬ話なり。

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中里介山

【大菩薩峠 京の夢おう坂の夢の巻】

「それはお気の毒千万なことだが、お前さんの人相を見ますと、お前さんの前世は六十六部でした、そうして貪慾で、貰うことばかり一生懸命で、人に施しということをしたことがありません、その報いで、お前さん母子(おやこ)が今のように貧乏に苦しむのですから、いわば因果応報で、如何(いかん)とも致し方がないのです。しかし、お前さんは勉強家で且つ親孝行だから、一つわたしが手段方法を教えて上げましょう。

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Last updated : 2024/06/28