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以心伝心
いしんでんしん |
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作家
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作品
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吾輩は猫である |
【吾輩は猫である】
迷亭は口をもがもがさしている。吾輩はこの瞬時の光景を椽側(えんがわ)から拝見して無言劇と云うものは優に成立し得ると思った。禅家(ぜんけ)で無言の問答をやるのが以心伝心であるなら、この無言の芝居も明かに以心伝心の幕である。すこぶる短かいけれどもすこぶる鋭どい幕である。
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直木三十五 |
【南国太平記】
もし、わしが、三十年、五十年、平穏無事に暮せるなら、お前にも、秘法を譲ろうと思うたが、時が無(の)うなった。学んで得られる道でもなく、言って伝えられるものでもない。以心伝心と、刻苦修練と、十年、二十年、深山に寒籠りをし、厳寒の瀑布に修行し、炎天に咀し、熱火の中に坐して、ようよう会得しても、平常には何んの用も為さぬ。
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萩原朔太郎 |
【詩集〈月に吠える〉全篇 従兄 萩原栄次氏に捧ぐ】
限りなき親しさと驚きの眼を以て私は君達のよろこびとかなしみとを理会する。さうして以心伝心に同じ哀憐の情が三人の上に益々深められてゆくのを感ずる。それは互の胸の奥底に直接に互の手を触れ得るたつた一つの尊いものである。
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太宰治 |
【帰去来】
私たちは七時の汽車に乗った。汽車に乗る前に、北さんは五所川原の中畑さんに電報を打った。七ジタツ」キタ それだけでもう中畑さんには、なんの事やら、ちゃんとわかるのだそうである。以心伝心(いしんでんしん)というやつだそうである。 |
正岡容 |
【わが寄席青春録】
もっとも席主が元来落語というものを感情的に大嫌いで、いつかは亡ぼそう亡ぼそうとかかっていた。これではいくら表面、どう巧いことを言われていても以心伝心、自ら芸人たちにもそれが感じられてくるから、つい居心地のいいわけもなかったのだった。
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宮本百合子 |
【心の河】
自分自身の生活に対する希望や予想に就てでなければ、知人の結婚生活の成功、失敗等について、そして、一々の文句の句点のように、彼は「君達はいいさ。申し分なしだろう」とか、「何にしろ以心伝心だからな」とつけ足した。停車場で別れる時、彼は改札口を半分プラットフォームに出ながら体を捩って彼等の方を振向き、呼びかけた。
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蘭郁二郎 |
【白金神経の少女】
「まあ、最初は無理ないさ。しかし君、以心伝心という現象を知っとるかね、つまりこちらの思うことが、言葉を使わずに、直接先方に伝えられる――この現象をなんといって説明するかね、一寸六ヶ敷いじゃろう。……これは電気学的に説明が出来るんじゃ、感応作用、相互誘導作用、じゃよ――、つまり考える、ということによって脳に一種の電流が生じる、これに感応して相手の脳髄に電流が誘起されるのが以心伝心という現象なんじゃ。しかしこれも感度のいい頭の奴と悪い奴があることは機械と同様、又同じ者でも空中状態によって相当なる差も出来るもんじゃがね」
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岸田國士 |
【「語られる言葉」の美】
それにつけても、私は、日本人を不思議な国民だと思ふ。なるほど、無表情といふことも、時によると、一つの魅力ではあるが、自分の思想感情を常に歪めながら発表することを、さほど苦痛と感じないらしいのである。以心伝心とか、暗黙の裡に語るとかいふ甚だ神秘的な趣味を解する如く見えて、実は、誤解と泣寝入と気まづさとを生涯背負つて歩いてゐるのである。
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長谷川時雨 |
【旧聞日本橋 13 お墓のすげかえ】
藤木宗匠が向った。父は変な顔をして黙っていた。勿論チンコッきり宗匠もすぐ負けた。「妙だね、こりゃおつだよ、以心伝心(いしんでんしん)、若いものに華(はな)をもたせようとするのかな。湯川氏(うじ)はそうはいかないぜ。」 「いや、拙者はどうも。」 |
小栗虫太郎 |
【人外魔境 遊魂境】
「なんぼ、私とこの大将と恰好が似ているからって、別に、親類のオバサンが来たなんてんで、懐(なつ)いたんじゃないよ。つまり、相縁奇縁ってやつだろうね。私もこいつも、知らぬ他国を流浪(るろう)の身の上だから、言葉は通じなくても以心伝心てやつ」「おい姐さん、以心伝心で口説いちゃいけねえよ」 と、白粉っ気はないが、道化らしい顔がのぞく。 |
坂口安吾 |
【明治開化 安吾捕物 その十一 稲妻は見たり】
日本人には誰しもピンとくる筈であろうが、女中という身分の者には特に身につまされることでもあろう。特にそれが貴重な瀬戸物であれば、ケースは全く同じではないか。番町皿屋敷。ピンときて、ゾッとして、以心伝心、蒼ざめて立ちすくんで、とても言葉には語り得ず、語らなくともピンピン分り合う二人であったが、馬丁の当吉は男のことで、 「なア、オイ。ゆうべオレが小屋へもどって、さて、寝ようというときに、ボシャーンという大きな音がしたなア。たしかに裏庭の井戸だと思うが、まさか……」 |
泉鏡花 |
【黒百合】
径(こみち)に被(かぶ)さった樹々の葉に、さらさらと渡って、裙(すそ)から、袂から冷々(ひやひや)と膚(はだ)に染み入る夜の風は、以心伝心二人の囁を伝えて、お雪は思わず戦悚(ぞっ)とした。
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夢野久作 |
【爆弾太平記】
……売る奴は大抵炭坑関係かその地方の人間で、買う奴は専門の仲買いか、各地の網元の手先です。そんな連中の鞄の持ち方は、仲間に這入っていると直ぐにわかりますからね。以心伝心で、傍に寄って来て鞄を並べておいてから、平気な顔で煙草の火を借りる。
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