|
■このサイトに登録されている四字熟語を検索します。平仮名での検索や一文字からの検索、絞り込み検索などもできます。
一心不乱
いっしんふらん |
|
作家
|
作品
|
---|---|
国木田独歩 |
【郊外】
そこで僕は思った、僕に天才があろうがなかろうが、成功しようがしなかろうがそんな事は今顧みるに当たらない何でもこのままで一心不乱にやればいいんだ、というふうに考えて来ると気がせいせいして来た。
|
高村光太郎 |
【蝉の美と造型】
セミがあの有りったけの声をふりしぼるように鳴きさかっているのを見ると、獲るのも躊躇(ちゅうちょ)させられるほど大まじめで、鳴き終ると忽(たちま)ちぱっと飛び立って、慌ててそこらの物にぶつかりながら場所をかえるや否や、寸暇も無いというように直ぐ又鳴きはじめる、あの一心不乱な恋のよびかけには同情せずにいられない。
|
有島武郎 |
【クララの出家】
それにしても聖処女によって世に降誕した神の子基督の御顔を、金輪際(こんりんざい)拝し得られぬ苦しみは忍びようがなかった。クララはとんぼがえりを打って落ちながら一心不乱に聖母を念じた。
|
太宰治 |
【雌に就いて】
「いや、怒っている。立ったままで、ちらと女のほうを見る。女は蒲団の中でからだをかたくする。僕はその様を見て、なんの不足もなくなった。トランクから荷風の冷笑という本を取り出し、また床の中へはいる。女のほうへ背をむけたままで、一心不乱に本を読む。」
|
幸田露伴 |
【名工出世譚】
が、さて長次は、一度太七の家で嗅いだ鉄漿の臭にヒントを得て忽ちに利発の性は虹蓋の秘法を自知し、それからと云ふもの一心不乱、鍛へに鍛へた苦心の虹蓋は今迄の同職より一層鮮かな色を湛へたので、奪はれた顧客も難なく旧に復したのみか、家運頓に挙り、日に隆昌を追ふて、後には父親を迎へて目出度く家庭の和楽を悦び合ふ身となつた。
|
有島武郎 |
【親子】
父はすぐそばでこう言った。銀行から歳暮によこす皮表紙の懐中手帳に、細手の鉛筆に舌の先の湿りをくれては、丹念に何か書きこんでいた。スコッチの旅行服の襟(えり)が首から離れるほど胸を落として、一心不乱に考えごとをしながらも、気ぜわしなくこんな注意をするような父だった。
|
芥川龍之介 |
【犬と笛】
この笛を吹きさえすれば、鳥獣(とりけもの)は云うまでもなく、草木(くさき)もうっとり聞き惚(ほ)れるのですから、あの狡猾(こうかつ)な土蜘蛛も、心を動かさないとは限りません。そこで髪長彦は勇気をとり直して、吠えたける犬をなだめながら、一心不乱に笛を吹き出しました。
|
夏目漱石 |
【草枕】
なるほどいくら詩人が幸福でも、あの雲雀のように思い切って、一心不乱に、前後を忘却して、わが喜びを歌う訳(わけ)には行くまい。
|
夏目漱石 |
【吾輩は猫である】
思わざる辺(へん)にこの不思議な大発見をなした時の主人の眼は眩(まば)ゆい中に充分の驚きを示して、烈しい光線で瞳孔(どうこう)の開くのも構わず一心不乱に見つめている。
|
夏目漱石 |
【夢十夜】
たいていはこの時梟が急に鳴かなくなる。それから母は一心不乱に夫の無事を祈る。母の考えでは、夫が侍(さむらい)であるから、弓矢の神の八幡(はちまん)へ、こうやって是非ない願(がん)をかけたら、よもや聴(き)かれぬ道理はなかろうと一図(いちず)に思いつめている。
|
倉田百三 |
【俊寛】
恐ろしい半時だ。わしはじっとして船を見ているのに堪(た)えられない。わしは熊野権現(くまのごんげん)の前にひざまずいて一心不乱に祈ろう。祈りの力で船をこの島に引き寄せよう。
|
田山花袋 |
【蒲団】
二年、三年、男が同志社を卒業するまでは、たまさかの雁(かり)の音信(おとずれ)をたよりに、一心不乱に勉強しなければならぬと思った。で、午後からは、以前の如く麹町(こうじまち)の某英学塾に通い、時雄も小石川の社に通った。
|
二葉亭四迷 |
【浮雲】
お勢は紳士にも貴婦人にも眼を注(と)めぬ代り、束髪の令嬢を穴の開く程目守(みつ)めて一心不乱、傍目(わきめ)を触らなかった、呼吸(いき)をも吻(つ)かなかッた、母親が物を言懸けても返答もしなかった。
|
折口信夫 |
【死者の書】
姫は、蔀戸(しとみど)近くに、時としては机を立てて、写経をしていることもあった。夜も、侍女たちを寝静まらしてから、油火(あぶらび)の下で、一心不乱に書き写して居た。
|
宮本百合子 |
【「保姆」の印象】
例えば小さい子供たちが、初めて提灯の切りぬきを習っているところ。一人のくりくり頭の男の子が、一心不乱に口を尖らせて切りぬきをやりはじめる。
|
寺田寅彦 |
【イタリア人】
上衣を脱いでシャツばかりの胸に子供をシッカリ抱いて、おかしな声を出しながら狭い縁側を何遍でも行ったり来たりする。そんな時でも恐ろしく真面目で沈鬱で一心不乱になっているように見える。こちらの二階で話し声がしていても少しも目もくれず、根気よく同じような声を出して子供をゆすぶっている。
|
長谷川時雨 |
【豊竹呂昇】
さはあれ、呂昇はよき師をとり、それに一心不乱の勤勉と、天性の美音とが、いつまでも駈出(かけだ)しの旅烏(たびがらす)にしておかなかった。
|
佐々木味津三 |
【右門捕物帖 朱彫りの花嫁】
むっちりと盛りあがった肉の膚に、吸いつけられでもしたかのごとく伊三郎がのぞき込みながら、一心不乱に針を運ばせているのです。
|
菊池寛 |
【恩讐の彼方に】
「身のほどを知らぬたわけじゃ」と、市九郎の努力を眼中におかなかった。が、市九郎は一心不乱に槌を振った。槌を振っていさえすれば、彼の心には何の雑念も起らなかった。 |
坂口安吾 |
【夜長姫と耳男】
「青ガサもフル釜も、親方すらも怖ろしいと思うものか。オレが一心不乱にやれば、オレのイノチがオレの造る寺や仏像に宿るだけだ」
「一心不乱に、オレのイノチを打ちこんだ仕事をやりとげればそれでいいのだ。目玉がフシアナ同然の奴らのメガネにかなわなくとも、それがなんだ。オレが刻んだ仏像を道のホコラに安置して、その下に穴を掘って、土に埋もれて死ぬだけのことだ」 オレは青ガサの高慢が憎いと思ったが、だまっていた。オレの肚はきまっていたのだ。ここを死場所と覚悟をきめて一心不乱に仕事に精をうちこむだけだ。 |
泉鏡花 |
【高野聖】
私(わし)は陀羅尼(だらに)を呪(じゅ)した。若不順我呪(にゃくふじゅんがしゅ) 悩乱説法者(のうらんせっぽうじゃ) 頭破作七分(ずはさしちぶん) 如阿梨樹枝(にょありじゅし) 如殺父母罪(にょしぶもざい) 亦如厭油殃(やくにょおうゆおう) 斗秤欺誑人(としょうごおうにん) 調達破僧罪(じょうだつはそうざい) 犯此法師者(ほんしほっししゃ) 当獲如是殃(とうぎゃくにょぜおう) と一心不乱、さっと木の葉を捲(ま)いて風が南(みんなみ)へ吹いたが、たちまち静(しずま)り返った、夫婦が閨(ねや)もひッそりした。 |
林不忘 |
【丹下左膳 こけ猿の巻】
とにかく、動物は音楽を解するかどうか――こいつはちょっとわからないし、また、尺取り虫に音楽の理解力があろうとは思われないが……いま見ていると、この虫ども、一心不乱のお藤姐御の三味に合わせて、緩慢な踊りをおどっているように見えるので。
|
下村湖人 |
【次郎物語 第五部】
次郎は、こうした理詰(りづ)めの言葉がつづけばつづくほど、かえって道江の苦悩(くのう)の深さを感じた。一心不乱になって色青ざめている額の下から、二つの眼がじっと自分のほうを見つめているような気さえするのだった。
|
中里介山 |
【大菩薩峠 不破の関の巻】
成金になって夜逃げもおかしいが、この不景気に大金を手に入れた日にゃあ、夜逃げでもしなくちゃあ――仲間に食い倒されてしまう、としきりにひとり言を言い、広くもあらぬ屍体の焼かれあとを一心不乱にせせり散らしている。
|
海野十三 |
【蠅男】
始めは容易に肯(がえ)んじないでも、一旦承知したとなると全力をあげて誠実をつくすのが長吉のいい性格だった。彼はこの困難な仕事を一心不乱にやりつづけた。
|
徳田秋声 |
【仮装人物】
ごちゃごちゃ小物の多い仏壇に、新派のある老優にそっくりの母の写真が飾ってあったが、壁に同じ油絵の肖像も懸(か)かっていた。小夜子は庸三が来たことも気づかないように、一心不乱に拝んでいた。
|
|