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晦渋溷濁
かいじゅうこんだく
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作家
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作品
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【吾輩は猫である】
彼の精神が朦朧として不得要領底に一貫しているごとく、彼の眼も曖々然昧々然として長えに眼窩の奥に漂うている。これは胎毒のためだとも云うし、あるいは疱瘡の余波だとも解釈されて、小さい時分はだいぶ柳の虫や赤蛙の厄介になった事もあるそうだが、せっかく母親の丹精も、あるにその甲斐あらばこそ、今日まで生れた当時のままでぼんやりしている。吾輩ひそかに思うにこの状態は決して胎毒や疱瘡のためではない。彼の眼玉がかように
晦渋溷濁の悲境に彷徨しているのは、とりも直さず彼の頭脳が不透不明の実質から構成されていて、その作用が暗憺溟濛の極に達しているから、自然とこれが形体の上にあらわれて、知らぬ母親にいらぬ心配を掛けたんだろう。煙たって火あるを知り、まなこ濁って愚なるを証す。して見ると彼の眼は彼の心の象徴で、彼の心は天保銭のごとく穴があいているから、彼の眼もまた天保銭と同じく、大きな割合に通用しないに違ない。
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Last updated : 2024/06/28