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肝胆相照
かんたんあいてらす
作家
作品

夏目漱石

【虞美人草】

「自然が人間を翻訳する前に、人間が自然を翻訳するから、御手本はやっぱり人間にあるのさ。瀬を下って壮快なのは、君の腹にある壮快が第一義に活動して、自然に乗り移るのだよ。それが第一義の翻訳で第一義の解釈だ」
肝胆相照かんたんあいてらすと云うのは御互に第一義が活動するからだろう」
「まずそんなものにちがいない」
「君に肝胆相照らす場合があるかい」

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幸田露伴

【蒲生氏郷】

人をるは一面に在り、酒を品するは只三杯だ。打たずんば交りをなさずと云って、瞋拳しんけん毒手の殴り合までやってから真の朋友ほうゆうになるのもあるが、一見してまじわりを結んで肝胆相照らすのもある。政宗と秀吉とは 何様どうだったろう。双方共に立派な男だ、ケチビンタな神経衰弱野郎、蜆貝しじみがいのような小さな腹で、少し大きい者に出会うとちっとも容れることの出来ないソンナ手合では無い。

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石川啄木

【雲は天才である】

果して大儒新井白石の言の如く千古の名文であるならば、簡にしてよく其要を得た我が畏友朱雲の紹介状も亦、正に千古の名文といひつべしである。のみならず、斯くの如き手紙を平気で書き、又平気で読むといふ彼我ひが二人の間は、真に同心一体、肝胆相照すといふ趣きの交情でなくてはならぬ。一切の枝葉を掃ひ、一切の被服を脱ぎ、六尺 似神じしんの赤裸々を提げて、平然として目ざす城門に肉薄するのが乃ち此手紙である。

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坂口安吾

【堕落論】

元来日本人は最も憎悪心の少い又永続しない国民であり、昨日の敵は今日の友という楽天性が実際の偽らぬ心情であろう。昨日の敵と妥協否肝胆かんたん相照すのは日常茶飯事であり、仇敵なるが故に一そう肝胆相照らし、 たちまち二君に仕えたがるし、昨日の敵にも仕えたがる。生きて捕虜の恥を受けるべからず、というが、こういう規定がないと日本人を戦闘にかりたてるのは不可能なので、我々は規約に従順であるが、我々の偽らぬ心情は規約と逆なものである。

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寺田寅彦

【科学者と芸術家】

古来多くの科学者がこのために迫害や愚弄ぐろうの焦点となったと同様に、芸術家がそのために悲惨な境界に沈淪ちんりんせぬまでも、世間の反感を買うた例は少なくあるまい。このような科学者と芸術家とが相会うて肝胆相照らすべき機会があったら、二人はおそらく会心の握手をかわすに 躊躇ちゅうちょしないであろう。二人の目ざすところは同一な真の半面である。

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岡倉覚三
村岡博訳

【茶の本】

 大家は、東西両洋ともに、見る人を腹心の友とする手段として、暗示の価値を決して忘れなかった。傑作をうちながめる人たれか心に浮かぶ綿々たる無限の思いに、畏敬いけいの念をおこさない者があろう。傑作はすべて、いかにも親しみあり、肝胆相照らしているではないか。これにひきかえ、現代の平凡な作品はいかにも冷ややかなものではないか。

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内田魯庵

【二葉亭四迷の一生】

 北京へ行った目的は極東の舞台の中心たる北京の政情を視察する傍ら支那を知るための必要上、本場の支那語を勉強するツモリであったのである。幸い旧語学校の同窓の川島浪速なにわがその頃警務学堂監督として北京に在任して声望隆々日の出の勢いであったので、久しぶりで訪問して旧情をあたためかたがた志望を打明けて相談したところが、一夕の歓談が忽ち肝胆相照らして終に川島の配下に学堂の提調に就任する事となった。

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岸田國士

【運を主義にまかす男】

相棒の飛田(二十七)とは学校の同窓で、しかも、以前、同じ下宿にゐたといふ関係から、自然、肝胆相照す間柄となり、飛田が卒業後或会社に傭はれる幸運を得た機会に、最も経済的にして且つ衛生的と称する郊外の自炊生活を始めたのであるが、飛田も亦、僅か数ヶ月にして、会社から爾後出社に及ばざる旨の通知に接し、百方運動を試みた甲斐もなく、之に代る椅子を贏ち得ずして今日に及んでゐる。

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  • それぞれの四字熟語の詳しい意味などは、辞典や専門書でお確かめください。
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Last updated : 2024/06/28