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唐草模様
からくさもよう
作家
作品

二葉亭四迷

【平凡】

花活はないけに花の絶えたことがない……というと結構らしいが、其代り真夏にも寒菊がいけてあったりする。造花なのだ。これはの部屋も大同小異だったが、たッた一つの部屋にはなくて、此部屋ばかりにある、謂わば此部屋の特色を成す物があった。それは姿見で、唐草模様の浮出した 紫檀贋したんまがいの縁の、むかうと四角なかおも長方形になる、勧工場かんこうば仕込の安物ではあったけれど、兎も角も是が上等室の標象シムボールとしてうやうやしく床の間に据えてあった。

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幸田露伴

【名工出世譚】

儘ならぬは浮世の常、この忠実な鉄瓶職人の家庭に思はぬ運命の暗影が射し始めた。それは、京都に名高い龍文堂といふ鉄瓶屋が時勢の変遷、世人の嗜好に敏なるところから在来の無地荒作りの鉄瓶に工夫を凝らして、華奢な仕上、唐草模様や、奇怪な岩組などといつた、型さま/″\の新品を製鋳して評判をとつたのが抑※(二の字点、1-2-22)の初め、

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竹久夢二

【都の眼】

 それから三日目の朝、留吉は都の停車場へ降りていました。絵葉書や雑誌の写真で見て想像はしていたが、さて、ほんとうに都へ来てみると、どうしてこんなに沢山な人間が、集っているのだろう、そしてなんのためにこの大勢の人間はせわしそうにあっちこっちと歩いているのだろう。ちょっと立っている間にさえ、自動車が二十台も留吉の前を走って行きました。
 唐草模様のついた かばん一つさげた留吉は、右手に洋傘こうもりを持って、停車場を出て、歩きだしました。
「おいおいあぶない!」腕に青いきれをつけた巡査がそう言って、留吉を電車線路から押しだして、みちよりもすこし小高くなった敷石の上へ連れていって、「電車に乗るなら、ここで待っていて下さい」と言いました。

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菊池寛

【出世】

彼は、友人の紹介で、ある書店から出版されている「西洋美術叢書」の一巻を翻訳させてもらうことにした。それは、ガードナーという人の書いた「希臘ギリシャ彫刻手記」という本であった。金色こんじき唐草模様か何かの表紙の付いた六、七百ページの本であった。またその活字が、邦字の六号活字に匹敵するほどの小さいローマ字で、その上ベッタリと一面に組んであるのであった。

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宮本百合子

【ようか月の晩】

 そよりともしない黒地の闇の上には、右から左へ薄白く夢のような天の河が流れています。光った藁のような金星銀星その他無数の星屑が緑や青に閃きあっている中程に、山の峰や深い谿の有様を唐草模様のように彫り出した月が、鈍く光りを吸う鏡のように浮んでいます。

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小熊秀雄

【味瓜畑】

 娘さんの手や足や首や胴体これらの白いすべ/\とした肉体が離ればなれになり、着てゐる着物やら羽織やら、前垂やら、前垂の白い紐やら、半襟足袋、そして頭髪のゴムの櫛などまでが、いつぺんに散りぢりに離れて、これらの分れ分れの個体が非常な早さと勢ひこんでくる/\と回転をはじめ、これが青や赤や黄の美事に配色された唐草模様のやうになつてしまつたのかとさへ思はれた。  ふいに躍りかゝつて、この唐草模様をそこの暗闇にねぢ倒してその上に馬乗りになつて了ひたい逆上した血が頭の上の方にぐん/″\とのぼり、ことに太くなつた血脈が両足の爪先から胸のあたりに弓のつるを鳴らしたときのやうに、強く大きく鳴りだした。

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坂口安吾

【九段】

 大山は何気なくそれをとって着ようとして、その模様が変っているのに気がついた。
 唐草模様のような手のこんだものだが、しかしスッキリとしていてそう品の悪いものではない。そろいのユカタと云ったって、花柳地の姐さんがお揃いで着るものだから、イヤ味やヤボなところはない。姐さんのユカタだから模様はコッテリしているが、万事コッテリの関西育ちの大山の目には、いかにも気のきいた、イキなユカタに見えた。

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牧野信一

【ゾイラス】

そして女房は、夜目にもあざやかな白地にトラムペツト・フラワーのうぜんかづらの縫取りを施した白孔雀のやうなアルジエリア・マンに包まれて、婀娜たる羽根扇を擬して、片脇には胡桃色の軽快なリイガルを抱へ、脚には七宝を鏤めた鞣皮のサンダルを結んだ。そしてマントの隙間から緑色の天鵞絨に馬鞭草うまつゞら唐草模様を刺繍したタイツの胴には、炎ゆるやうなタイア染のバンドが隠見された。

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牧野信一

【幽霊の出る宮殿】

それは「僕の故郷のケンタツキーの家」「悲しアイ、悲し、悲し」「青い鳥」「カドリール」「星条旗の下に」等であつた。覆ひのビロードには金の糸よりも、雨洩りの痕の唐草模様の方が鮮やかであり、ゼンマイの工合も余程鈍つて、「アイ・アイ・アイ」などをかけると、オルゴールが自分の老朽を嘆いてゐるやうでおもしろくなかつた。

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近松秋江

【うつり香】

 柳沢の言い草じゃないが、こうして連れ出して見ると、もう暗い冬の日光ひかげの照りやんだ暮れ方だからまだしもだとはいいながら今さらにお宮の姿が見る影もなくって、いつものお召の羽織はまあいいとして、その下には変な唐草模様のある友禅めりんすの 袷衣あわせか綿入れを着ているじゃないか。それが忙がしそうに多勢の往来している問屋町の前を通って行くのがひどく目に立って、私はせっかくの思いに連れ出していながら、独り足早にさっさっと先きに立って歩いた。

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  • このサイトの制作時点では、三省堂の『新明解 四字熟語辞典』が、前版の5,600語を凌ぐ6,500語を収録し、出版社によれば『類書中最大。よく使われる四字熟語は区別して掲示。簡潔な「意味」、詳しい「補説」「故事」で、意味と用法を明解に解説。豊富に収録した著名作家の「用例」で、生きた使い方を体感。「類義語」「対義語」を多数掲示して、広がりと奥行きを実感』などとしています。

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Last updated : 2024/06/28