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結跏趺坐
けっかふざ
作家
作品

中島敦

【悟浄出世】

 うわさによれば、坐忘ざぼう先生は常に坐禅ざぜんを組んだまま眠り続け、五十日に一度目をまされるだけだという。そして、睡眠中の夢の世界を現実と信じ、たまに目覚めているときは、それを夢と思っておられるそうな。悟浄がこの先生をはるばる尋ね来たとき、やはり先生はねむっておられた。なにしろ流沙河りゅうさがで最も深い谷底で、上からの光もほとんどして来ない有様ゆえ、悟浄も眼の慣れるまでは見定めにくかったが、やがて、薄暗い底の台の上に結跏趺坐けっかふざしたまま睡っている僧形そうぎょうがぼんやり目前に浮かび上がってきた。外からの音も聞こえず、魚類もまれにしか来ない所で、悟浄もしかたなしに、坐忘先生の前にすわって眼をつぶってみたら、何かジーンと耳が遠くなりそうな感じだった。

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泉鏡花

【妖僧記】

 さてはうまいぞシテったり、とお通にはもとより納涼台すずみだいにも老媼は智慧を誇りけるが、いずくんぞ知らむ黒壁に消えし蝦蟇法師の、野田山の墓地にあらわれて、お通が母の墳墓の前に結跏趺坐けっかふざしてあらむとは。
 そのゆうべもまたそこにもうでし、お通は一目見てあおくなりぬ。

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直木三十五

【南国太平記】

 門人達は、低く、経文を誦して、師の呪法を援け、玄白斎は、右手に、杓を、左手に、金剛杵(しょ)を執って、瞑目しつつ、無我無心――自ら、日輪中に、結跏趺坐して、円光を放ち、十方の諸仏、悉く白色となって、身中に入る、という境地で入りかけた。

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高山樗牛

【瀧口入道】

あしたに稽古の窓にれば、垣をかすめて靡く霧は不断の烟、 ゆうべ鑽仰 さんぎょうみね ずれば、壁を漏れて照る月は常住 じょうじゅうともしび、昼は御室おむろ太秦うづまさ、梅津の辺を巡錫 じゅんしゃくして、夜に入れば、十字の縄床じょうしょう結跏趺坐 けっかふざして唵阿うんあ行業 こうごうに夜の白むを知らず。

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南方熊楠

【十二支考 蛇に関する民俗と伝説】

我今すなわちすでに好きむこを得たりと。すなわち、指語すらく中に宿るべしと。阿那律すなわちすすみて室に入り 結跏趺坐けっかふざす。坐して未だ久しからずしてまた賈客あり、来たりて宿を求む。寡婦答えて言う、我常に客を宿すといえども、今已に比丘に与え、また我に由らずと。

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松本文三郎

【印度の聖人】

それからして又大きい風呂桶の様な桶に自分の肩位迄浸るように水を灌ぎ、而して細い管を肛門に挿込んで、それから水を容れて吾々の灌膓すると同様に、穢物を出して膓の掃除をする、夫れが終ると今度は綿に油のようなものを浸して鼻の孔や耳の孔等を塞いでしまう、而して地面へは大風呂敷のような布を敷いて、其上に所謂結跏趺坐するのであります、それから前に言った舌を捲き上げ定に入るのである、

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Last updated : 2024/06/28