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捲土重来
けんどちょうらい
けんどじゅうらい
作家
作品

芥川龍之介

【英雄の器】

「しかし、英雄のうつわじゃありません。その証拠は、やはり今日の戦ですな。烏江うこうに追いつめられた時の楚の軍は、たった二十八騎です。雲霞うんかのような味方の大軍に対して、戦った所が、仕方はありません。それに、烏江の亭長ていちょうは、わざわざ迎えに出て、江東こうとうへ舟で渡そうと云ったそうですな。もし項羽こううに英雄の器があれば、垢を含んでも、烏江を渡るです。そうして 捲土重来けんどちょうらいするです。面目めんもくなぞをかまっている場合じゃありません。」
「すると、英雄の器と云うのは、勘定に明いと云う事かね。」

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中里介山

【大菩薩峠 恐山の巻】

 お絹という女がいれば、こういう興奮を、たちまち取って抑えてぐんにゃりさせてしまう。三ツ目錐の炎を消すには、頽廃たいはいしかけたお絹という女の乳白色の手で抑えると、主膳はたあいもなく納まる。そうでなければ酒だ。傍えに酒があれば手当り次第にあおることによって、この興奮を転換させる。転換ということは解消ではない。一時、その興奮を酒に転換させて、方向だけをごまかしてみるだけのもので、酒をあおるほどに、興奮がやがて 捲土重来けんどじゅうらいして、級数的にかさにかかって来るのは眼に見えるようなもので、そこで例の兇暴無比なる酒乱というやつが暴れ出して来て、颱風以上の暴威をたくましうする。

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高浜虚子

【漱石氏と私】

 昨紅緑来訪久し振に候。絽縮緬の羽織に絽の繻絆じゅばんをつけ候。なかなか座附作者然としたる容子に候いし。大兄を訪う由申居候参りしや。暑気雨後に乗じ捲土重来の模様。小生の小説もいきれ可申か。草々。

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菊池寛

【応仁の乱】

 天文九年十一月、大内政弘や畠山義就は各々その領国に退却して居る。公卿及び東軍の諸将皆幕府に伺候して、西軍の解散を祝したと云う。
 欺くて表面的には和平成り、此の年を以て応仁の乱は終ったことになって居る。
 併し政弘と云い、義就と云い、一旦その領国を固めて捲土重来上洛の期を はかって居るのである。亦京都に於ける東西両軍は解散したが、帰国して後の両軍の将士は互いににらみ合って居る。
 つまり文明九年を期して、中央の政争が地方に波及伝播でんぱし地方の大争乱を捲き起したのである。
 戦国時代は此の遠心的な足利幕府の解体過程の中に生れて来たのである。

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織田作之助

【起ち上る大阪 ――戦災余話】

「何言うたはりまんねん。一ぺん焼かれたくらいで本屋やめますかいな。今親戚のところへ疎開してまっけど、また大阪市内で本屋しまっさかい、雑誌買いに来とくなはれ」と、三ちゃんは既に捲土重来の意気込みであった。

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木村荘八

【小杉放庵】

 洋画法ではこれをやらうとしても「苦手」でやりにくかつたこと、ヨーロッパでは一旦その人の「意誠」を以つて見捨てたこと、リアリズムを、これと四つに組む捲土重来の姿勢で日本画家「放庵」は――ぼくをして敢ていはしめよ。彼はこゝにその志望を達したのである。

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牧野信一

【鬼の門】

 それはそうと、外はそんなに円かな月夜であるというのに、翻って私の胸を窺うと、不安の嵐がまたも新しく巻き起ろうとしているのであった。――私は、やがて息を吹き返すであろう音無が、更に捲土重来の勢いで、この宝物に飛びかゝるであろうことを深く心配しはじめたのである。

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夢野久作

【暗黒公使(ダーク・ミニスター)】

このJ・I・C秘密結社と申しますのは実は、紐育ニューヨークウオール街の金権者団体を背景とする新タマニー・ホール一派の手先でありまして、内密にハウス大佐の指揮に属し、国際的の平和攪乱かくらんを請負業と致しております、一種の無頼漢の団体に相違ないのでありますが、今度は又、東洋方面に何等の重要な使命を帯びて、 捲土重来けんどちょうらいしたものと考え得べき理由があります。

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穂積陳重

【法窓夜話】

 既成法典の施行延期戦は、商法については延期軍の勝利に帰したが、同法は民法施行期日と同日まで延期されたのであるから、断行派が二年の後をち、捲土重来して会稽の恥を すすごうと期したのは尤も至極の事である。また延期派においては、既にその第一戦において勝利を占めたことであるから、この勢に乗じて民法の施行をも延期し、ことごとく既成法典を廃して、新たに民法および商法を編纂せんことを企てた。

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Last updated : 2024/06/28