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鬼哭啾啾/鬼哭啾々
きこくしゅうしゅう
作家
作品

長谷川時雨

【旧聞日本橋 牢屋の原】

「うらめしや……」
なんとかと幽霊がいうていた。だが、あたしはぞくぞくこわがった。いま考えると、なかなか策師さくしだったといえる。江戸人の――いえ、当時の日本人の誰にも感じられる、いやな連想をもった、場処がらである。江戸三百年、どんなに無辜むこの民が泣いたか知れない、おびやかされた牢屋のあとだ。ことに世の中が変動する前には、安政の大疑獄以来、幾多有為の士を、再び天日てんぴの下にかえさずんでしまった牢屋の所在地だ。 鬼哭啾々きこくしゅうしゅう、人の心は、そこの土を踏むだけで傷みにふるえる。その心理を利用したのだ。たねはどんなチャチなものでもかまわない。つかんだものが生きている。見る方、聴く方の、お客の方から働らきかけてくる神経のおののきがある――そして、下座げざにはおあつらえむきの禅のつとめ(鳴ものの名称)和讃やらお題目やら、お線香の匂いはひとりでに流れてくる。
 人情の弱点の怖いもの見たさ、客は昼も夜も満員――夜は通りの四つ角の夜店と、陽気な桜湯の縁台が、若衆たちのちぢまった肝ったまをホッと救う――

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海野十三

【十八時の音楽浴】

 二人はついに部屋を立ちいでて、廊下づたいにアリシア区に進撃していった。二人は始めて音楽浴の洗礼を受けた。二人はそれを快く感じた。しかし進んでゆくほどに、その急ピッチの音楽浴が二人の脳髄を次第々々に蒸していった。嘔吐を催すような不快感がだんだんと高まってきた。ついに二人は、転げこむようにアリシア区の入口を入った。
 鬼哭啾々、死屍累々。二人は慄然としてあたりを見廻した。開かぬ扉は奥のほうに二人を嘲笑するように見えていた。

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吉川英治

【宮本武蔵 地の巻】

 いくさんだといっても、まだ素槍や素刀は、この辺を中心に、附近の山野を残党狩りに駈けまわっているし、死屍ししは、随所に、横たわっていて、鬼哭啾々きこくしゅうしゅうといってもよい新戦場である。年端としはもゆかない小娘が、しかも夜、ただひとり月の下で、無数の死骸の中にかくれ、いったい、何を働いているのか。

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  • それぞれの四字熟語の詳しい意味などは、辞典や専門書でお確かめください。
  • このサイトの制作時点では、三省堂の『新明解 四字熟語辞典』が、前版の5,600語を凌ぐ6,500語を収録し、出版社によれば『類書中最大。よく使われる四字熟語は区別して掲示。簡潔な「意味」、詳しい「補説」「故事」で、意味と用法を明解に解説。豊富に収録した著名作家の「用例」で、生きた使い方を体感。「類義語」「対義語」を多数掲示して、広がりと奥行きを実感』などとしています。

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Last updated : 2024/06/28