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帰命頂礼
きみょうちょうらい
作家
作品

芥川龍之介

【俊寛】

「千本の中には一本や二本、日本にほんの土地へも着きそうなものじゃ。ほんとうに冥護みょうごを信ずるならば、たった一本流すがい。その上康頼は難有ありがたそうに、千本の卒塔婆そとばを流す時でも、始終風向きを考えていたぞ。いつかおれはあの男が、海へ卒塔婆を流す時に、 帰命頂礼きみょうちょうらい熊野三所くまのさんしょ権現ごんげん、分けては日吉山王ひよしさんおう王子おうじ眷属けんぞく、総じてはかみ梵天帝釈ぼんてんたいしゃくしも堅牢地神けんろうじしん、殊には内海外海ないかいげかい竜神八部りゅうじんはちぶ応護おうごまなじりを垂れさせ給えととなえたから、そのあとへ並びに西風大明神にしかぜだいみょうじん黒潮権現くろしおごんげんも守らせ給え、謹上再拝きんじょうさいはいとつけてやった。」

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泉鏡花

【草迷宮】

 そうすると一行の連中のうちから、わざと物々しげに拝殿から持ち出した細い紙のぬさで、その善男善女の頭を撫でてやり、
「神妙、神妙、一心に 帰命頂礼きみょうちょうらいすれば、後生往生ごしょうおうじょううたがいあるべからず」
というようなことを言って、よけいに善男善女を有難がらせたりするものもありました。

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中里介山

【大菩薩峠 禹門三級の巻】

「下にいろ、下にいろ、東照権現様の出開帳でかいちょうだ、お開帳が拝みたければ、芝の三田の薩州屋敷へ来るがよい、我々は薩州屋敷に住居致すもので、今日、上野まで東照宮の出開帳をお迎えに参ったものだ、滅多なことを致すと神様のたたりが怖いぞよ」
 こう言って通行の人々を威嚇いかくしながら歩いています。通行の人たちは慄え上って道を避けて通しました。何も知らない老人夫婦は、本当に権現様が薩摩屋敷までお出開帳をなさるのかと思って、路傍に伏し拝む者もありました。
 そうすると一行の連中のうちから、わざと物々しげに拝殿から持ち出した細い紙のぬさで、その善男善女の頭を撫でてやり、
「神妙、神妙、一心に 帰命頂礼きみょうちょうらいすれば、後生往生ごしょうおうじょううたがいあるべからず」

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種田山頭火

【行乞記 大田】

途上、運よく出逢つた屑屋さんを引張つてきて新聞紙を売る、代金弐十弐銭也、さつそく買物をする、――ホヤ八銭、タバコ六銭、シヨウチユウ四銭、そして入浴して、まだ一銭余つてゐる!
南無新聞紙菩薩、帰命頂礼
けふも漬茄子、やつぱりうまい、青紫蘇の香は何ともいへない。
夜は寝苦しかつた。

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幸田露伴

【風流仏】

 勇猛ゆうみょう精進潔斎怠らず、 南無帰命頂礼なむきみょうちょうらいと真心をこら肝胆かんたんを砕きて三拝一鑿いっさく九拝一刀、刻みいだせし木像あり難や三十二そう円満の当体とうたい即仏そくぶつ御利益ごりやくうたがいなしとなまぐさ和尚様おしょうさま語られしが、さりとは浅い詮索せんさく優鈿うでん大王だいおうとか饂飩うどん大王だいおうとやらに頼まれての仕事しわざ、仏師もやり損じては大変と額に汗流れ、眼中に木片ききれ飛込とびこむも構わず、恐れかしこみてこそ作りたれ、

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Last updated : 2024/06/28