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驚天動地
きょうてんどうち
作家
作品

正岡子規

【病牀六尺】

 時は明治二十七年春三月の末でもあつたらうか、四カ月後には驚天動地の火花が朝鮮の 其処そこらに起らうとはもとより知らず、天下泰平と高をくくつて遊び様に不平を並べる道楽者、古洲に誘はれて一日の日曜を大宮公園に遊ばうと行て見たところが、桜はまだ咲かず、引きかへして目黒の牡丹亭とかいふに這入り込み、足を伸ばしてしよんぼりとして待つて居るほどに、あつらへの筍飯たけのこめしを持つて出て給仕してくれた十七、八の女があつた。

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太宰治

【右大臣実朝】

建保五、六年あたりから、あの悲しい承久元年にかけては、もうその訳のわからぬ不安の影が鎌倉中に充満して不快な悪臭みたいなものさへ感ぜられ、これは何か起らずにはすまぬ、驚天動地の大不祥事が起る、と御ところの人たちひとしく、口には言ひませぬけれども暗黙の裡にうなづき合つてゐたほどでございまして、

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北原白秋

【フレップ・トリップ】

「花嫁が来た。」
 一斉の咆哮、
 驚天動地の大歓喜、世界の情慾。
 それと見た幾千の膃肭獣おっとせいの成牡(ブル)はその波うちぎわに殺到する。鈍重な巨躯のはやりに逸った匍匐ほふくの醜態が今、一時にまた光り輝くばかりの黒褐の毛のなだれとなり、地響きとなり、奮いたつ香炎の放電体となる。

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坂口安吾

【ヨーロッパ的性格 ニッポン的性格】

 これらのことを頭の中へ入れておきますと、ニッポンがその当時に於てヨーロッパの影響をはげしく受けまして、殊に精神的には驚天動地というような感動を受けた面がありましたのも、たゞ今申すとおりに、ヨーロッパでも りぬきといった神父たちがそろって、ニッポンへやって来ていたという、特殊な事情があったからなのでありまして、彼の地の宗教事情はともかくとしても、ニッポンにとっては、これは望外の仕合せであったのかも知れないのであります。

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中里介山

【大菩薩峠 白雲の巻】

 そのうちに、たまり兼ねたか船頭が取鎮めかたがたなだめに行ったもののようです。ところがその結果はかえって石灰の中に水を入れたような結果になり――喧々囂々けんけんごうごう、組んずほぐれつ、収拾すべからざる大乱闘が捲き起されてしまったことは、船長室まで手に取るように聞えて来ました。
「まあ、なだめに行った船頭さんたちを相手に、また乱暴をはじめたようです、どう致しましょう」
「困ったことだ」
 駒井は苦り切っている。お松はいても立ってもいられない心持。あちらの船室内の騒動はいよいよ驚天動地
「ほんとうに、田山先生がいらっしゃるといいのですが……」

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夢野久作

【超人鬚野博士】

 吾輩の横に腰をかけていた一番若い、美しい、切前髪きりまえがみの娘がを光らして云った。
「するともするとも。キットお前達の註文通りに筋書を運んで見せるよ。実物を使って実際に脚色して行くという斬新奇抜、驚天動地の世界最初の実物創作だ。喜劇でも悲劇でもお望み次第に実演させて見せる……」
「でもねえ先生……」

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海野十三

【金属人間】

 Qは、人間よりもすぐれた思考力と、そして惨酷ざんこくな心とを持っているので、もしかれが生きていたなら、こんどはじめる仕事は、われわれの想像をこえた 驚天動地きょうてんどうちの大事件であろうと思う。
 ただに日本国内だけの出来事に注意するだけでなく、広く全世界、いや宇宙いっぱいにも注意力を向けていなくてはならない。

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谷譲次

【踊る地平線 しっぷ・あほうい!】

そこへ富くじロテリア売りが札を突きつけ、軒いっぱいに布片地キレジを垂らした羅紗屋の店が何町もつづき、市場をさして豚の列が大通りを追われ、弱そうな兵卒がより弱そうな士官にだらしのない失敬をし、こわれたTAXIが息を切らして黄色い風を捲きおこし、この奇蹟に驚天動地して狭い往来に雑沓が崩れ立ち、それを見物して巡査はただにやにやし、その巡査へ現政府反対の八百屋組合から袖の下が往き届き、犬は人をぎ、植物はほこりを呼吸し、RADIOの拡声に通行人の全部が足をとどめ、業病と貧困の男女から異臭が発散し、青絵の模様陶板タイルを張った無気味きわまる住宅建築に教養のない顔が出入し、この、大陸の「東部区イイストサイド」!

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林不忘

【稲生播磨守】

池田 意気地なし! 武士の風上に置けんやつとは、貴様のことだ! 人心はすでに殿を離れておるのだぞ。この腐れかかった封建制度は、今にも倒れんとしているのだ。おれにはそれがよくわかる。誰か一人、ここで下剋上げこくじょうの口火を切る者があれば、天下こぞって起ち上るのだ。臣下が主君に怨みを報ずる。じつに驚天動地の痛快事じゃあないか。それには今貴様は、絶好の立場におるのに――。

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Last updated : 2024/06/28