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刻舟求剣
こくしゅうきゅうけん
時の流れ、事の変化に気づかずに、古いものにしがみついて融通ゆうずうのきかないことの喩え。
作家
作品

太宰治

【お伽草紙】

いいか、わかつたか。この私の「お伽草紙」に出て来る者は、日本一でも二でも三でも無いし、また、所謂「代表的人物」でも無い。これはただ、太宰といふ作家がその愚かな経験と貧弱な空想を以て創造した極めて凡庸の人物たちばかりである。これらの諸人物を以て、ただちに日本人の軽重を推計せんとするのは、それこそ刻舟求剣のしたり顔なる穿鑿に近い。私は日本を大事にしてゐる。それは言ふまでも無い事だが、それゆゑ、私は日本一の桃太郎を描写する事は避け、また、他の諸人物の決して日本一ではない所以をもくどくどと述べて来たのだ。読者もまた、私のこんなへんなこだはり方に大いに賛意を表して下さるのではあるまいか、と思はれる。

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りょ不韋ふい (編纂)

呂氏春秋りょししゅんじゅう(中国春秋戦国時代の思想の書)】

ふねきざみてけんを求む

【白文】

楚人有渉江者。
其剣自舟中墜於水。
遽刻其舟曰、
是吾剣之所従墜也。
舟止。従其所契者、入水求之。
舟已行矣。而剣不行。
求剣若此、不亦惑乎。

【書き下し文】

楚人そひとこうわた る者有り。其の剣、舟中しやうちゅう より水に つ。には かに其の舟にきざ みて曰く、 が剣の りて墜ちし所なり、と。舟止まる。其の契みし所の者従り、水に入りて之を求む。舟はすで に行けり。しか るに剣は行かず。剣を求むること此くの若し。 た惑いならずや。

【訳】

長江を渡っていた楚の国の人が、剣を舟から川の中に落としてしまいました。その人は急いで船に印をつけて、「ここが私の剣が落ちたところだ」と言いました。船が岸に着いて止まると、舟に刻んだ目印の所から水に入って剣を探しました。船は進んだのに、沈んだ剣は一緒には動きません。剣を探すのにこんなことをするのは、なんと道理のわからぬことではありませんか。

 
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Last updated : 2024/06/28