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巧言令色
こうげんれいしょく
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作家
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作品
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【点鬼簿】
僕の父は幼い僕にこう云う珍らしいものを勧め、養家から僕を取り戻そうとした。僕は一夜大森の魚栄でアイスクリイムを勧められながら、露骨に実家へ逃げて来いと口説かれたことを覚えている。僕の父はこう云う時には頗る巧言令色を
弄した。が、生憎その勧誘は一度も効を奏さなかった。それは僕が養家の父母を、――殊に伯母を愛していたからだった。
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【学問のすすめ】
第二 顔色容貌を快くして、一見、直ちに人に厭わるることなきを要す。肩をそびやかして諂い笑い、巧言令色、太鼓持ちの
媚を献ずるがごとくするはもとより厭うべしといえども、苦虫を噛み潰して熊の胆をすすりたるがごとく、黙して誉められて笑いて損をしたるがごとく、終歳胸痛を患うるがごとく、生涯父母の喪にいるがごとくなるもまたはなはだ厭うべし。
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【もの思う葦 ――当りまえのことを当りまえに語る。】
かなしいことには、あれでさえ、なおかつ、狂言にすぎなかった。われとわが額を壁に打ちつけ、この生命絶たむとはかった。あわれ、これもまた、「文章」にすぎない。君、僕は覚悟している。僕の芸術は、おもちゃの持つ美しさと寸分異るところがないということを。あの、でんでん太鼓の美しさと。(一行あけて)ほととぎす、いまわのきわの一声は、「死ぬるとも、巧言令色であれ!」
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【現代茶人批判】
従って巧言令色は道具屋の専売とはかぎらない。道具屋輩をして呆然たらしめるようなより以上な巧言令色はお茶人
気質の旦那筋にこそあって、本当の商売人という凄腕は果たしていずれであろうかが分明しない現実もある。
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【城】
しばらく議事堂や警視庁の建築をながめたあとで、眼を返してお濠と土手とをながめるならば、刺激的な芸のあとに無言の腹芸を見るような、もしくは巧言令色の人に接したあとで無為に化する人に逢ったような、深い喜びを感ずるであろう。そうしてさらに門内に歩み入って、古風な二つの門と、さびた石垣と、お濠と土手とだけでできている静寂な世界の中に立つと、我々の離れて行こうとする世界にもどれほど真実なもの偉大なものがあったかを感ぜずにはいられないであろう。
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【東京人の堕落時代】
吾々地方人は東京に何物をも与えてならぬ。東京が如何に巧言令色を以て吾々を招くとも、これに眩惑されてはならぬ。東京の中で最も美しく、大きく、
貴く見えるものでも、地方人の額の汗の一粒に及ばぬ事を知らねばならぬ。
現在擡頭しつつある無産階級の運動でもそうである。
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【三国志 図南の巻】
彼もいつか、むかしは侮蔑し、唾棄し、またその愚を笑った上官の地位になっていた。しかも、今の彼たるや人臣の栄爵を極め、その最高にある身だけに、その巧言令色にたいする歓びも受けいれかたも、とうてい、宮門警手の一上官などの比ではない。
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【大菩薩峠 白雲の巻】
食といったところで、あれのは、いよいよ飢えに迫って堪えられなくなったところに至って、初めてノコノコと人里へ出て来て、その当座の飢えを凌ぐだけのものをかっぱらって来る以上の仕事はできないのだ。それから色、すなわち性慾のことだって、あいつのは、なにも特に巧言令色に構えこんで、色魔だとか、誘惑だとかいう手段で行くのではない、眼の前へ異性の女の肉のかおりがうごめいて来る時に、ついついたまらなくなってかぶりつくまでのものだ。
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【剣侠】
林蔵の家へ来てからの浪之助は、決して退屈しなかった。博徒、侠客、貸元などと呼ばれる、この人間の社会生活が、珍らしく痛快であるからであった。義理人情を旨として、行ることといえば博奕であり、それで生活を立てている。勢力争い――縄張争い、こいつがコジレルと血の雨を降らす。親分乾児の関係が、武士の君臣関係より、もっと厳重で頼母しい。巧言令色、追従などという、そういういやらしいことが行なわれず、生一本で正直だ。
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Last updated : 2024/06/28