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公平無私
こうへいむし
作家
作品

芥川龍之介

【日光小品】

この「形ばかりの世界」を破るのに、あくまでも温かき心をもってするのは当然私たちのつとめである。文壇の人々が排技巧と言い無結構と言う、ただ真を描くと言う。冷やかな眼ですべてを描いたいわゆる公平無私にいくばくの価値があるかは私の久しい前からの疑問である。単に著者の個人性が明らかに印象せられたというに止まりはしないだろうか。

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中島敦

【弟子】

ところが、その策士陽虎が結局己の策に倒れて失脚しっきゃくしてから、急にこの国の政界の風向きが変った。思いがけなく孔子が中都の宰として用いられることになる。公平無私官吏かんり苛斂誅求かれんちゅうきゅうを事とせぬ政治家の皆無かいむだった当時のこととて、孔子の公正な方針と周到な計画とはごく短い期間に驚異的きょういてきな治績を挙げた。

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永井荷風

【申訳】

同情は芸術制作の基礎たるのみではない。人生社会の真相を透視する道も亦同情の外はない。観察の公平無私ならんことを希うのあまり、強いて冷静の態度を把持することは、却て臆断の過に陥りやすい。僕等は宗教家でもなければ道徳家でもない。人物を看るに当って必しも善悪邪正の判決を求めるものではない。唯人物を能く看ることが出来れば、それでよいのである。

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違星北斗

【北斗帖】

 私の歌はいつも論説の二三句を並べた様にゴツゴツしたもの許りである。叙景的なものは至って少ない。一体どうした訳だろう。
 公平無私とかありのまゝにとかを常に主張する自分だのに、歌に現われた所は全くアイヌの宣伝と弁明とに他ならない。それには幾多の情実もあるが、結局現代社会の欠陥が然らしめるのだ。そして住み心地よい北海道、争闘のない世界たらしめたい念願が迸り出るからである。殊更に作る心算で個性を無視した虚偽なものは歌いたくないのだ。

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喜田貞吉

【道鏡皇胤論について】

勿論歴史家の研究は公平無私であらねばならぬ。曲学阿世の そしりがあってはならぬ。しかしながら我ら歴史家もまた、同時に帝国臣民である事を忘れてはならぬと自分は信じているのである。

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北村透谷

【トルストイ伯】

トルストイ伯は理想派詩人にはあらず、彼は理想を抱ける実際派なり、何となれば彼が写すところ、公平無私に農民の状態を描出し、其欠所を隠蔽することを さゞればなり。もし彼が貴族の家に生れ、顕栄の位地に立つべき身を以て、農民を愛撫し、誠信を以て世に屹立きつりつするに至りたる来歴を問はゞ、

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大杉栄

【新しき世界の為めの新しき芸術】

如何なる美も、如何なる偉大も、青春や生命の代わりをする事は出来ない。諸君の芸術は老人の芸術である。吾々が、吾々の晩年に吾々の任務を果たし、吾々の共同行為の義務を尽した後に、公平無私の芸術や、ゲエテの晴朗や、純粋の美を望むのは、善い事でもあり自然の事でもある。それは人生の旅の至上の理想であり究竟である。

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戸坂潤

【認識論とは何か】

真理は却って主観的なものではないか、という揚足取りは問題にならぬ。単に内部的内面的なものはヘーゲルも云っているようにケチなものに過ぎぬ。内面的なものに価値があるのは、それが初めて公平無私な去私則天的な客観性を有っているからなのだ。尤も真理は必ずしも客観物ではない、単に客観性を有つにすぎぬ。

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牧野信一

【毒気】

私は、兵隊のやうに直立不動の姿制を執つてゐた。いかにも公平無私な容貌の判官を私は、ひたすら信頼するだけの心で無言に立ち尽した。いつにもそんな姿制を執つたことがないので、その頭から踵までが棒のやうに堅くなつてゐるのに淡く肉体的の快感を感じた。

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吉川英治

【宮本武蔵 円明の巻】

しかし、ここの場所には、そういう人々の祈りも涙も加勢にはならなかった。また、偶然や神助もなかった。あるのは、公平無私な青空のみであった。
 その青空の如き身になりきることがほんとの無念無想のすがたというのであろうか、生命いのち持つ身に容易になれないことは当然である。ましてや、白刃対白刃のあいだでは。

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Last updated : 2024/06/28