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苦髪楽爪
くがみらくずめ
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作家
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作品
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【夜明け前 第二部下】
「敵が来る。」
師匠の声だ。それは全く外界との交渉も絶え果てたような人の声だ。その声がまず勝重の胸を騒がせる。
「お師匠さま、わたしでございます。勝重でございます。」
思いがけない弟子の訪れに、格子の内の半蔵もややわれに帰ったというふうではあった。苦髪楽爪とやら、先の日に勝重が見に来た時よりも師匠が髭の延び、髪は鶉のようになって、めっきり顔色も青ざめていることは驚かれるばかり。でも、師匠は全く本性を失ってはいない。ややしばらく沈黙のつづいた後、
「勝重さん、わたしもこんなところへ来てしまった。わたしは、おてんとうさまも見ずに死ぬ。」
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Last updated : 2024/06/28