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免許皆伝
めんきょかいでん
作家
作品

菊池寛

【恩讐の彼方に】

彼は即座に復讐の一義を、肝深く銘じた。彼は、馳せて柳生(やぎゅう)の道場に入った。十九の年に、免許皆伝を許されると、彼はただちに報復の旅に上ったのである。もし、首尾よく本懐を達して帰れば、一家再興の肝煎(きもい)りもしようという、親類一同の激励の言葉に送られながら。

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坂口安吾

【花咲ける石】

しかし彼には天分があったばかりでなく、人の何倍という稽古熱心の性分があった。免許皆伝をうけて後も怠ることなく、師の法神が諸国の山中にこもって剣技を自得した苦心にならい、霊山久呂保山にこもってまる三年、千日の苦行をつんだ。苦行をおえて戻った時に、彼の筋肉は師の法神のそれと同じくあらゆる部分が力に応じて随意に動くようになっていた。

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大杉栄

【自叙伝】

和歌山の湊七曲りというところにあった、かなり大きな造り酒屋だったそうだ。子供の時から腕力人にすぐれて、悪戯がはげしく、十二の時に藩の指南番伊達何とかいう人に見出されて、その弟子となって、十八で免許皆伝を貰った。剣道、柔道、槍術、馬術、行くとして可ならざるはなく、ことに柔道はそのもっとも得意とするところであったそうだ。

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岡本かの子

【鶴は病みき】

果して一丁程馬車が動くと赫子が口を歪(ゆが)め、私には顔の側方を向け、而も一番私に云う強い語気で「ふん、あれでも神伝流の免許皆伝か。」麻川氏「くどく云うなよ。」赫子「だってとうとう瞞(だま)されちゃった。」

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佐々木味津三

【右門捕物帖 やまがら美人影絵】

「いいえ、だんな、お黙り! なるほど、犬の顔にも裏表があるかもしれねえがね、よしんばお駒が免許皆伝の剣術使いであったにしても、包丁はドス、そのドスが血によごれて、死骸(しがい)のそばにころがっておったと、万兵衛のだんなが詳しくご披露(ひろう)なすったんだ。

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佐々木味津三

【旗本退屈男 第八話 日光に現れた退屈男】

「小僧ッ、これでも消えぬかッ」
  すべてが全くすさまじい変化でした。足腰のしゃんと立ったのは言うまでもないこと、声までがしいんと骨身にしみ透るように冴え渡って、手の内がまた免許皆伝以上、しかも流儀は短槍にその秘手ありと人に知られた青江信濃守のその青江流なのです。

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夢野久作

【斬られたさに】

 一柳斎は後手(うしろで)を突(つ)いて伸び伸びと大笑した。
「アハアハ。いやそれでよいそれでよい。そこが貴殿の潔白なところじゃ。人間としては免許皆伝じゃ」
  平馬は眼をパチパチさせて恩師の上機嫌な顔を見守った。何か知ら物足らぬような、馬鹿にされているような気持ちで……。しかし一柳斎はなおも天井を仰いで哄笑した。

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中里介山

【大菩薩峠 小名路の巻】

 十一歳にして宮本武蔵に預けられた甚内は、その時から武蔵に従って江戸に下り、武蔵が神田お玉ケ池の近傍に道場を開いた時(武蔵がお玉ケ池へ道場を開いたことがあるかどうか考えないで伝説をそのまま借用すると)、そこで武蔵から真免流の免許皆伝を受けました。それは甚内が二十一歳の時のことであるということです。

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夢野久作

【鼻の表現】

 この逆定理を舞台上の修業で手に入れたものは直(ただち)に名優となる事が出来るのであります。同様に実世間の舞台面で修得したものは直に悪魔式鼻の表現の大家、毒婦、色魔、悪党、横着政治家となり得るのであります。そうしてこの程度まで鼻の表現を研究し得れば、最早(もはや)所謂、機略縦横、神出鬼没の行き止まりとして世間から一種の敬意を払われるので、しかもこれを世渡りの秘訣、処生法の免許皆伝と心得ている人が又頗(すこぶ)る多いように見受けられるのであります。

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林不忘

【丹下左膳 日光の巻】

 新しい入門者があって、現代でいえば宣誓式のようなことをするのも、この鎧櫃の前。
  免許皆伝の奥ゆるしをとった者が、その披露をする座にも、その鎧櫃を飾る。
  ふだんは土蔵にしまってありますのを、むろん今日は、相続披露の式場へ運び出すことになりまして、

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Last updated : 2024/06/28