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年中行事
ねんちゅうぎょうじ
ねんじゅうぎょうじ
作家
作品

夏目漱石

【門】

洋剣(サアベル)の音だの、馬の嘶(いななき)だの、遣羽子(やりはご)の声が聞えた。彼は今から数時間の後(のち)また年中行事のうちで、もっとも人の心を新にすべく仕組まれた景物に出逢わなければならなかった。

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島崎藤村

【夜明け前 第二部下】

檀家(だんか)の重立ったところへは礼ごころまでの般若札(はんにゃふだ)、納豆(なっとう)、あるいは竹の子なぞを配ることを忘れないで、およそ村民との親しみを深くすることは何事にかぎらずそれを寺の年中行事のようにして来たのもあの和尚である。

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長塚節

【土】

だから事件が錯綜纏綿して縺れながら讀者をぐい/\引込んで行くよりも、其地方の年中行事を怠りなく丹念に平叙して行くうちに、作者の拵らへた人物が斷續的に活躍すると云つた方が適當になつて來る。

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織田作之助

【青春の逆説】

 大阪の路地にはたいてい石地蔵が祀(まつ)られていて、毎年八月の末に地蔵盆(さん)の年中行事が行われたが、お君の住んでいる地蔵路地は名前からして、他所(よそ)の行事に負けられなかった。

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島崎藤村

【桃の雫】

あの教授の家庭では他の佛蘭西人のそれと變つたこともないが、たゞ一年に一度、家族の人達と共に黒パンを食ふ日が定めてあつたとのことである。これは猶太民族が埃及(エジプト)を出た遠い昔を記念するための年中行事の一つとして、教授の家庭に行はれてゐたことであるとか。

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芥川龍之介

【本所両国】

この界隈(かいわい)の家々の上に五月幟(のぼり)の翻(ひるがへ)つてゐたのは僕の小学時代の話である。今では、――誰も五月幟(のぼり)よりは新しい日本の年中行事になつたメイ・デイを思ひ出すのに違ひない。

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伊藤左千夫

【春の潮】

 彼岸がくれば籾種(もみだね)を種井の池に浸す。種浸す前に必ず種井の水を汲(く)みほして掃除(そうじ)をせねばならぬ。これはほとんどこの地の習慣で、一つの年中行事になってる。二月に入ればよい日を見て種井浚いをやる。その夜は茶飯(ちゃめし)ぐらいこしらえて酒の一升も買うときまってる。

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寺田寅彦

【自由画稿】

 こんな年中行事は郷里でも、もうとうの昔に無くなってしまって、若い人たちにはそんな事があったということさえ知られていないかもしれない。

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岡本かの子

【巴里祭】

 これは追放人(エキスパトリエ)等の口から口に伝えられている諺(ことわざ)である。つまり六月一ぱいまでは何かと言いながら年中行事の催物(もよおしもの)が続き、まだ巴里に実(み)がある。此の後は季節(セーゾン)が海岸の避暑地に移って巴里は殻(から)になる。

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斎藤茂吉

【念珠集】

『酢川(すか)おとし』の行為は法に触れるべきものであるが、『酢川おち』の現象は村民にとつては無くてはならぬ、謂(い)はば一つの年中行事の如き観を呈するに至つた。それがずつとずつと古い代から続いて来たのである。

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折口信夫

【山越しの阿弥陀像の画因】

順礼等と言つて、幾村里かけて巡拝して歩くことを春の行事とした、北九州の為来りも、やはり嫁入り前の娘のすることであつた。鳥居を幾つ綴つて来るとか言つて、菜の花桃の花のちら/\する野山を廻つた、風情ある女の年中行事も、今は消え方になつてゐる。

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菊池寛

【恩を返す話】

 寛永十八年に、藩主忠利侯が他界して、忠尚侯が封を継いだ。それを唯一の事変として、細川藩には、封建時代の年中行事がつつがなく繰り返されるのみであった。

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種田山頭火

【行乞記 室積行乞】

曇、……行乞は見合せる。……
旧暦の端午である、在来の年中行事は旧暦でないと、季節的に本当でない、したがつて、気分的にも気乗がしない。

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織田作之助

【起ち上る大阪 ――戦災余話】

 私は子供の頃からあの大阪の年中行事の一つである地蔵祭が好きであった。

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高村光雲

【幕末維新懐古談 竜池会の起ったはなし】

 こんな有様で、竜池会から出た日本美術協会の年中行事として観古美術会の会員はますます殖(ふ)え、大分工人側の人たちも這入(はい)って来たのでありますから、

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宮本百合子

【歳々是好年】

例えば中国の習俗では正月を迎えることは年中行事、最も賑やからしい様子ですが、それなら中国の村人、市民がこれまでの歴史のなかで常に安穏な月日を経て来ているかと云えば、事実は反対のものとして語られていると思います。

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豊島与志雄

【私の信条】

然し設問の主旨はそんなところにはなく、特定のものを幾つか挙げて貰いたいのであろうし、或るいは風俗習慣や年中行事のうちの何かを挙げて貰いたいのであろう。

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小出楢重

【めでたき風景】

 それはともかくとして、今日有名な天神祭などはこの数多くの夏祭の代表的な一つが辛(かろ)うじて、年中行事として保存されているものである。先ず結構なことだと思う。

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岡本綺堂

【半七捕物帳 海坊主】

 この年は三月三日の節句に小雨(こさめ)が降ったので、江戸では年中行事の一つにかぞえられているくらいの潮干狩があくる日の四日に延ばされた。

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佐々木味津三

【右門捕物帖 笛の秘密】

 ご存じのごとく、山王さんのお祭りは、江戸三社祭(じゃまつ)りと称せられている年中行事のうちの一つで、すなわち深川八幡(はちまん)の八月十五日、神田明神の九月十五日、それから六月十五日のこの山王祭りを合わせて、今もなお三社祭りと称しておりますが、

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Last updated : 2024/06/28